01「今日だけは執事に」【ナンシー】
――昨年のサマーハウス行きから、もう一年が過ぎました。お嬢さまは、昨秋から寄宿制の女学院に通われるようになり、ようやく、マナーのマの字を学ぶようになりました。
「燕尾服でお出迎えなのね、ナンシー」
「ロングスカートにヒールのある靴では、自動車の運転に危険を伴いますから。さぁ、トランクをお貸しください」
そう言ってナンシーは、胸元に緋色の刺繍が入った白いワンピースを着たマーガレットの手から旅行鞄を受け取り、荷室に積み込む。そして、右側のドアを開け、乗車を促す。
「こちらへどうぞ、マーガレットお嬢さま」
「ありがとう、ナンシー」
マーガレットが着席したのを確認すると、ナンシーは右側のドアを閉め、素早く左側へ移動して乗りこみ、シートベルトをしてハンドルを握り、マーガレットがシートベルトを着用したのを見てから一声かける。
「準備はよろしいでしょうか?」
「えぇ。出してちょうだい」
「承知いたしました。それでは、発車いたします」
淑女(フェアレディ―)を乗せた黒塗りのツーシータは、石膏の白いマリア像が憂えがちに見守る中、滑るようなスムーズさで走り出した。
*
「女学院の生活は、いかがでしたか?」
信号待ちでナンシーが助手席に話しかけると、マーガレットは、待ってましたとばかりに嬉々として話しだす。
「楽しいわよ。一緒に談話室でお話ししたり、お庭で遊んだりするお友だちが、いっぱい出来たの」
「それは、よろしかったですね」
「えぇ。でも、良いことばかりでも無いのよ。寮母さんは意地悪だし、先生は厳しいの。もうちょっとユーモアがあっても良いと思うわ。あと、朝のお祈りの時間が退屈なの」
「そうですか。でも、それもレディーとしての嗜みを身に着ける上では、必要なことだと思いますよ」
「そうかしら?」
「えぇ。きっと、そうですとも」
そう言うと、ナンシーは周囲に注意を払いつつ車を発進させ、ハンドルを大きく切って交差点を左折した。




