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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
セカイハマワレリ
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Case60.思い出の結晶

「智夜ちゃんっ!」


「あ、希さん! ご無事でしたか?」


 隠れ家に戻ってきてまず、転んだらしく鼻の頭をすりむいている智夜の出迎えを受けた。

 助けてくれた純白の少女も隣を通り過ぎていく。

 智夜は引き留めてなにか言おうと思ったようだったが、彼女は気付かずにいってしまう。


 希はすこし残念そうな智夜に向けて、はっきりと謝ろうと決意して、口を開いた。


「あ、あのね。さっき、あんなこと言っちゃってごめん」


「あっ、いえいえ、大丈夫ですよ。興味のないことは興味がないと伝えてくれないと、私はどうやら人を思いやることに器用じゃないみたいで」


 笑いながら話す智夜に、つられて笑ってもいいのか希にはまだわからなかった。

 けれど、ミナミが呼ぶ声が聞こえてくると急いで行かなきゃと思ったことで、ゆっくり並んで歩く時間はなかった。


 ◇


「と、いうことで。ほとんどのみんなははじめましてではないと思いますが、自己紹介を」


「っち、オヴィラトっす。よろしくはお願いしないっすよ」


 オヴィラトと名乗った彼女は相変わらず不機嫌そうで、しかも希の知らない彼女のことで不二たちはとても驚いているようだった。

 全員が召集されて言い出したことが突然の新メンバー加入だ。

 驚くのはもちろんだと思ったけれど、どうやら面識があってのことらしい。

 派手な衣装が多いストレセントたちの中にまじって座っていても、希にはオヴィラトの髪から伸びた純白の翼はひときわ視線を惹き付ける。


 とにかく、希はオヴィラトのことがなんだか気になる。

 自己紹介を終えてオヴィラトがさっさとどこかへ行こうとするのを呼び止めようとして、振り払われてしまった。

 彼女がどうしてストレセントになり、今まで姿を見せなかったのかの理由は、不二たちに言われてこのときはじめて知った。


 他人の幸福を疎ましく思う少女と聞かされ、それでもオヴィラトを追いかける。

 智夜もまたみんなの制止を振り切って飛び出していって、目覚めたばかりだというのにすぐ追い付いてくる。


 すこし走って見つけたオヴィラトは街の一角にある家が取り壊されたらしい跡に立っていて、その姿をふたりで木に隠れて覗き見する。

 彼女はじっと撤去されていない瓦礫を眺めていた。


「……今さらこんなことになっても、一緒になんてできるわけないじゃないっすか」


 風にまじり、オヴィラトの声がかすかに聞こえた気がした。

 この場所について思い出そうとしていたらしい智夜が、頭に電球を浮かべて希にささやく。


「ここ、彼女の実家だった場所で。しかもしかも、壊したのは彼女自身みたいです」


 親やクラスメイトに虐げられ、復讐を望んだとは不二たちから聞いたことだ。

 自ら壊した自分の歪んだ居場所を見て、彼女はなにを考えているのだろうか。それを思うと、飛び出していくしかなかった。


「ね、ねえ!」


「……ついてきたんすか。誰だか知らないっすけど、ここは安全圏じゃないっすよ」


「円希、だよ。私の名前」


 オヴィラトは興味がなさそうな顔をするが、智夜が希に続いて名前を言い出して、円と天世とふたつの名字に聞き覚えがあるのを思い出したのか表情を変えた。


「円不二の妹と、天世リノの……」


「娘ですよっ」


「あぁ、そうっすか。娘ね。娘!?」


 この話をすると、だいたいこういう反応をする。

 リノを知っているのならストレセントでも例外ではなく、しかも智夜が自分と同年代に見えることからよりびっくりだったようだ。

 オヴィラトは咳払いをして、話題を戻す。


「しっかし、何しに来たんすか? 自分なんかに構ったところで、なんにも面白くないと思うんすけど」


「でもなんだか放っておけなくて。ねぇ、お友達に」


「嫌っすよ。軽々しく敵と仲良くなろうだなんてするわけないっすよ」


 オヴィラトは逃げるようにドレスを翻して、去っていこうとする。

 希も智夜も追いかけようとするが、するとオヴィラトはより速度をあげてくる。

 つられてこちらも走りはじめて、オヴィラトと希と智夜で街じゅうを舞台にしたおいかけっこに発展していった。


 希は走るのは得意なほうだと自負していたけれど、ストレセントの体力にはかなわない。

 それよりも智夜は燃費が悪いのか足は速いのにすぐ力尽きて、背負って走ることになった。


 ならばと変身を解禁し、電気は封印して全力は出さないながらもオヴィラトを追い、ついに彼女が大空へ羽ばたき、希は対抗して屋根に上ってまだ追いかける。


 おいかけっこの終わりは、疲れが見えてきたオヴィラトめがけて希が抱きついて撃墜というものだった。

 離せと彼女がもがいたけれど、羽根がふわふわなことに気がついた希によって尾羽をふわりと撫でられてびくんと跳ねたのを最後に脱力した。


「はぁ、はぁ……しつこいっすよ」


「私、諦めないからね。ほら、智夜ちゃんだって」


「は、はいっ! です!」


 燃え尽きていた智夜は希の背中のあたりで寝転がりながらも答えた。

 三人とも、そういえば地面に転がっているのだった。ここが芝生だったからまだよかったけれど、それでも路傍だとすこし視線がある。


 恥ずかしそうにするオヴィラトの尾羽をさらに触ってみて、突然のことにぶわっと翼が広がるのを見てちょっと感動した。とってもきれいだった。


「う、うぅ、じゃあ、なんでもいいっすからそこはやめるっすよ」


「だったらお友達になろうよ、オヴィラトちゃん」


「……観念するっすよ、希ちゃんに、智夜ちゃん?」


 こう呼べばいいのか、と手探りらしいオヴィラトに笑顔で返し、友達なら行くところがあるよねと駆け出した。

 このあたりはそこそこ知っている。近くにある大きめのショッピングモールへ入って、ふたりを連れて目的地にたどり着いた。


「おぉ! ゲーセン、ゲーセンですね!」


「なんすか、このやっかましいウートレアみたいな場所は」


「いろんなゲームが置いてあるんだよ、ほら行こうよ! お金は私が払うからさ!」


 友達と遊ぶなら、思い出の時間の代償なら安いものだった。


 そこからは大いにはしゃぐ。

 最初はみんな遠慮がちだったけど、メダルを渡したりクレーンゲームをさせてみたりするとオヴィラトの負けず嫌いと智夜の研究者気質が炸裂していった。

 何十枚も擦ったり、全力でぬいぐるみを取りにいってあとすこしで失敗したり、物こそ取れなかったけれど楽しい時間が流れていく。

 オヴィラトも智夜もはじめて見るものに目を輝かせていたし、希だってとっても楽しかった。


 最後に希の希望で、みんなで写真を撮りたいとお願いした。

 オヴィラトも心を開いてくれかけているようで、すこし粘るとしかたないと言ってついてきてくれる。

 希は大きなプリントシール機にコインをいくつか入れて、ふたりを連れ込んだ。


 ポーズは特に伝えていなかったけれど、希がふたりを抱き寄せた結果として智夜とオヴィラトは驚いた顔で写ることになった。

 やり直させろというので今度は普通にピースサインでそろえたり。

 6枚の写真でそれぞれはしゃいで、写真に落書きができる機能ではみんなが名前を書いたりして、印刷される六枚を三人でわけてちょうど二枚ずつになった。


「あれ、オヴィラトちゃん、ゆあやって」


「……自分が人間だったときの名前っすよ。ダメっすか」


「ううん。かわいい名前だなって」


 オヴィラトは満更でもなさそうにして、写真はポケットに大切そうにしまいこんだ。

 ちょっと前までのツンツンが嘘みたいで、希は思わず小さな笑いがこぼれる。


「……なんすか、なんかおかしいところでも」


「ううん。ゆあちゃん、かわいいなって」


「ゆあ、ちゃん?」


「うん。私たち、まれとちよで二文字ずつだし、呼びやすいから。だめだった?」


 オヴィラトはちょっと黙ってから、小声で、だめなわけないっすよ、と言ってくれた。

 人が嫌いとか、確かにいままでのことで嫌いになってるかもしれないけれど。


 ちょっぴり素直じゃなくて、世間知らずな女の子。

 オヴィラト──ゆあちゃんは、そんな感じがした。


 ゲームセンターを出てこれから帰ろう、というところでオヴィラトが思い出したように止まり、どうやらほんとうに忘れてたものがあったようで駆け出した。

 彼女の向かう方向にはたしか、薬局があったような。


「お待たせ、っす。これ、ちよちゃんに。ちょっとじっとしててくださいっす」


 ぺたり。

 すりむいていた智夜の鼻にばんそうこうが貼られた。

 オヴィラトの用事とはばんそうこうを買いにいくということだったらしい。


 智夜のばんそうこうはかわいらしく、希も自然とまた笑顔になる。オヴィラトがそうしてくれたことが、自分のことのようにうれしかった。


「また来ようねっ!」


 希の言葉でお互いの顔を見合わせて。それから三人は、そっと手をつないだ。

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