ヘラクレス3
「問題点はまぁ、色々ある」
「だろうな」
手伝ってやろう、と口にしたペルディクスへの反応は至極薄く。
2人の会話は現実的な問題へと流れていく。
「正直なところ思うのだが、ただの敗戦ではダメなのか」
「ダメだな」
国家転覆などと言う絵空事より、目の前に見えた敗戦という結果を早めた方が楽に思える。
そう、どう転ぼうとこの帝国は、負ける未来しかない。
どう犠牲を払おうと。
プロメテウスや機械化兵を投入し、新たな犠牲を積んでなお。
連合国に蹂躙されるその時を、先延ばしにすることしかできないのだ。
「軍事裁判にかけられたとて、お前達は国際法に則って戦闘をしてきたろう。特にプロメテウスは」
ならば裁こうにも、彼らは裁けない。命をどれだけ奪おうと、罪を、犯してはいないからだ。
「軍事裁判が敗戦国に不当な例は多々ある。それに、『英雄』を生かせば火種が残ると考える輩もいるだろうよ」
さらにフタツは言葉を続ける。
「そもそも俺たちは、『人』として裁かれるのか?」
「それは……」
そうだ、と言おうとして、言い淀む。
彼らは、人か、それとも。
「喋る兵器。考える兵器。自律する機械」
世に溢れるそれらと、彼らの違いはなにか。
元が人だとて、それが人の側にあると、誰が証明できるだろう。
「……なるほど。ただ負けることは許されない、と」
「そういうことだ」
人として裁けずとも、兵器として処分はできる。
プロメテウスだけではない。試作機も、その後続機も、下手をすればサイボーグの兵達も。
負ければそれだけの命が危機にさらされる。
「それで、国家転覆か」
「小狡い手だが、国を替える。新しい国に、古い国の責任は取れない」
「それで相手は納得するか?」
「今のままではしないだろうな」
そう言って、フタツは笑った。
「ナナはすでに仲間に引き込んでいる。渉外役だ」
「各国への根回しか」
単身で各国に赴くことの多いナナは、確かに適任だろう。
スパイで行った先でまさか自国を裏切る算段を進めているとは、中々思いもしない。
「犠牲を出しすぎた。俺たちはたくさん殺して、殺されてきた。どこかで責任は取るさ」
あいも変わらず無表情のその顔に、けれどその決意は本物だろう。
「でもそれは、プロメテウスに背負わせるものじゃない」
お前が背負うものでもない、と。
ペルディクスは言えなかった。
誰かが背負うのだ。
誰かが。
「ミツなんかは、プロメテウスと同じ罪を自分も背負うつもりでいる。それで死ぬなら、一緒に死ぬと」
「プロメテウスは」
「決まってるだろ」
背負うつもりでいるのだ。
分かりきったこと。
「だからな、ミツ達じゃダメだ。心中しか未来がない」
「……そうか」
だから、フタツがやるのだ。
「どうせ共に行くなら、生きている方がいい」
「共に、ね」
「あぁ。共に、だ」
共に行けないお前は。
共に行かない道を選ぶお前はーー。
聞いてどうするというのだ。
ペルディクスは、言葉を飲み込んだ。
問答より、すべきことがある。
前に、進めなければ。
この物語とて、終われはしないのだから。




