幼女メリーとレプス商会
「レプス商会」のお兄さん、お姉さん達に、村でも会えると聞いた時、メリーは飛び上がって喜んだ。
村に来て間もないメリーにとって、
レプス商会からの団体客は特別なお客様だった。
教会の孤児院で育った子どもで、彼らを知らぬ者はいないだろう。
“初めてのお買い物”はレプス商会だからだ。
孤児院の子ども達は、自分だけの物を持つのが難しい。生活用品は共有するものであったし、服もお下がり。
10歳以上になると、周辺の店などで使い走りをしながら小遣いを稼ぐこともできたが、それも、中古の服を買えるか買えないかの小銭。
レプス商会の行商人が来ると、子ども達は彼らに「お披露目」をする。
歌や踊り、木登り、絵本の朗読でもいい、何か一つをお披露目することで
レプス商会だけで使えるコインが1枚もらえるのだ。
オモチャ、お菓子、本。新品の服や生活雑貨と自分だけの宝物を買える、年に数回の子ども達のお楽しみ。
教会の人達は『幼い子に媚びる事を覚えさせるなんて』と嫌がったが、
商品が半額以下であることとそれに
『相手の目を見て上手に挨拶ができた!すごいわ!たくさん練習したのね!』
一人一人の成長への祝い金だと言われれば、断りずらい。
何より、商会の若手のほとんどが元孤児であり、子ども達と駆け回って遊ぶ傍ら、社会に出て騙されないコツを教え、また無償で教会の屋根を修理するので、院長は険しい顔をしつつも、受け入れていた。
メリーの『多芸』は、レプス商会との出会いで目覚めたようなものだ。
メリーはちゃんと挨拶も出来るし、6歳では難しい歌も覚えた。けれど、着せ替え人形として貸し出された先でやらされる事はしたくない。
身体の柔らかさを使って、野犬のジョンさんの真似、耳の後ろを足で掻いたり、四つん這いで尻尾を追いかけてぐるぐる回っても目は回らない!を
同室の子に試しに披露したが、病気を疑われてしまい、その技は封印された。
そこで、披露したのは鳥の声真似。
『ぴーちちち、ぢゅ、ちちち!』
『すげぇ!本物の鳥みたいだ!』
これがとても受けた。
もっとも、彼らは6歳の見事な声帯模写を評価してくれたのであって、内容が伝わったわけではないが。
レプス商会の代表は、ちゃんとオスメスの声を使い分けている!と細かい部分まで褒めてくれた。
調子に乗った、いや調子の上がったメリーは代表に、次から次へと鳥の声真似を披露。
金髪水色の瞳をした無表情の少女が、
『グワッグワッ』『クルクル』『ケーッ!』と、直立不動でお披露目。
確かに、いや確かに似ているけどお前どこでそんだけの種類知ったんだよ。
孤児院仲間のドン引きにメリーは気づかない。
メリーには野望があった。
馬に近づきたい。触りたい。撫で回したい。お鼻たぷたぷしたい。
もちろん、6歳を馬に近づけたがらない大人は多い。遠目からは喜んでも、近づくと怯えて泣き出してしまい、子どもだけでなく繊細な馬も危険だから。
コインで得る馬のオモチャではなく、
本物の馬に会う許可が欲しい。
触りたい。撫で回したい。お鼻たぷたぷしたいのだ。
そこで、メリーはひらめいた。
馬に会いたいのに、なぜ鳥好きアピールをしたのか。相手に伝わらない!
…ひらめいた。ではなく、ようやく出発地点の方角違いに気づいたのだが、
メリーにはとてもよい考えに思えた。
『雨が降る前の、鳥』
えらいぞメリー。初めて解説を付けれたな。今更だが必要だもんな。
でも、その語彙を使って馬愛を語れば良かったけど、メリーにゃ無理だよな。
『ぴースちゅちち、ぢゅ、ちちち!』
『む。最初の鳥とは違うな』
『強い雨、降るよ、の声』
『もう一回やってくれ』
『ぴースちゅちち、ぢゅ、ちちち!』
すごいよ代表。違いがわかる男だよ。
そして、気の利く男だよ。
『ありがとうな嬢ちゃん。いや楽しかった。で、何かおねだりがあるな?』
触りたい。撫で回したい。お鼻たぷたぷしたい。
熱い瞳を向けて噛まずに言えました。
主語が抜けてるぞメリー。
『さて、触りたいって何をだ?馬か?
動物が好きそうだもんな』
かくして。
メリー、初めてのお馬さんとご対面が出来たのだ。
余談として、メリー訳(鳥・夕立ちが降るぞ野郎ども!巣へ撤収だ!)の鳴き声を完全に覚えた代表は、その後の旅でとても役立ったと褒めてくれた。
・
・
・
メリーの父、ロバート・ウィービーは
「どこの商会の行商人だ?」と聞いたことを後悔していた。
普通に名前を聞けばよかった。
まさか、商会そのものの出会いから説明が始まるとは思えなかった。
今のところ、登場した内でメリーの心に残ってそうなのは代表と馬だけ。
だが、該当者はここ数年の知り合いらしいので、登場はまだ先だろう。
メリーの話を遮って、話を進めるのは簡単だが、
父の腹にしがみつきながら「それでですね〜代表がですね〜」とうにゃうにゃと話す、愛娘。
話しながら眠くなったのか、たまに父の鎖骨あたりに頭をつけて目をこする、愛娘。
無理。父には無理。この幸せなひとときを壊すの無理!
__半分寝ぼけているバカ娘と、
衝撃の瞬間が遠ざかった事で安心してデレデレ中のバカ親父。
を、止めることなく庭の水やりをする仲良し兄弟。
「突っ込むのは負けだよね兄ちゃん」
「この場を立ち去らない好奇心を残している分、僕らはまだまださ」
母は既にご近所へ買い出しに行ってしまった。
まだまだである。




