1話 邂逅
「デイトナの悲劇」から3年後の2021年。
東京のある駅のホームに、一人の男が降り立った。
彼は見たところアメリカ人のようだ。年は40代後半くらいだろうか。
どうやら急いでいるようで、改札に続く階段を駆け足で降り、改札を抜け、そのままタクシー乗り場へ向かう。軽い息切れを起こしながら適当なタクシーを見つけて飛び乗った。
「早くしてくれ、急いでるんだ。中央会議場まで頼む」
運転手が「どちらまで?」と聞く間もなく、焦り気味の男は早口でそう告げた。
「…急いでるんですね?」
「時間がない!早く出してくれ!」
いよいよ男は苛立ち始めた。
…すると、前の運転席からニヤリと笑うような声が聞こえた。
「分かりました。…では、シートベルトを『しっかりと』お締めください」
顔は見えないのでよく分からないが、声は若い。ちょうど二十歳くらいだろうか。
…嫌な予感がする。男はそれを感じつつ、シートベルトを締めた。カチッと小気味よい音が部屋に響く。
その瞬間、タクシーは急加速した。全身に凄まじいGがかかり、体がシートに押し付けられる。エンジンが載っているであろう前方からは、とてもタクシーのものとは思えない唸り声が聞こえる。
広告が張られている運転席の仕切りの間から、インパネが見えた。タコメーターは余裕でレッドゾーンだ。リミッターがかかっているのか針は振り切っていないが、恐らくアクセル全開だろう。スピードメーターも100km/h強といったところだ。最近のタクシーは意外とスピードが出るのか。
運転手は、まるでそれがいつもであるかのように一般車を追い越し、そのまま角を曲がる。その運転は非常に危険だが、なぜか安心感があった。だが公道を100km/mオーバーで走っていると、さすがに命の危険を感じる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!確かに急げとは言ったが、いくら何でも飛ばし過ぎだ!捕まるぞ!」
「あれ〜?おかしいですね。あんなに焦っていたなら、恐らく遅刻寸前でしょう?いいんですか、スピードを落として?」
運転手の言い分は滅茶苦茶だ。なんでよりによってこんなぶっ飛んだ奴なんだ。
しかし、100km/h以上で走っているというのに、運転手は顔色も口調も何一つ変わっていない。…まぁ、慣れていなければこんなスピードは出せるはずもないので、当たり前といえば当たり前か。
「いいから早くスピードを落としてくれ!客を乗せているんだぞ!?」
男が言うなり、車のスピードがガクンと落ちた。急ブレーキではないようだ。だが、何かおかしい。ちょっと落ち過ぎじゃないか…?
男がそう思っていると、とうとう車は止まってしまった。
「いや、降ろしてくれと言ったわけでは…」
「残念ながら到着です。料金はモニターの通りですので、ご用意を」
戸惑う男に、運転手が告げる。そこで男は我に返った。
「そういえば、あの運転…一流のレーシングドライバーでもなければ恐らく無理だ。『タクシードライバーですから』どころの話じゃない、次元が違う。君は一体…?」
「あれ、急いでたんじゃないですか?遅刻しちゃいますよ?」
男が訳を聞こうとすると、運転手は話を逸らした。
「あぁ、そうだった。では、午後四時ごろに迎えに来てもらえるか?もちろん君にだ。話の続きがしたい」
「分かりました。では、次に合うというのなら、これを」
男が代金を払い終え、タクシーを降りようとしたところで、運転手は名刺を差し出した。
男はそれを受け取り、チラリと一瞥してポケットにいれようとしたが…できなかった。そこに書かれていた彼の名前があまりに意外すぎたからだ。
「『闇討了』…?まさか、あの…?」
「お待ちしていますよ、『ジョン・マックスウェル監督』」
—それが、二人の出会いだった。
…遡ること3年前。「デイトナの悲劇」に居合わせたドライバーのうち、たった一人だけ、行方不明者がいたという。
彼は「天才」と称された期待の新人で、警察が総力を挙げて捜索するも、ついに見つかることはなかったという…。
「プロローグ」から一週間以上遅れてすみません。TaK:です。
今週はかなり忙しかったので、ほとんど小説に当てられる時間がありませんでした。
…さて、いよいよ本格的に物語がスタートしました!主人公も登場しました。まだ終わりどころか次話すら考えていないので、どんな展開になるか僕も楽しみです!




