第06話 その男、ぱっくんちょ
「なあ、これ……。パンツ、見えてんだけど?」
今の俺は、忍者だった。
正確に言うなら、くのいちだ。
ノースリーブの変な着物。
下はない。
前と後ろに垂れ布があるだけだ。
大胆に太ももが出ていて、紐パンの結び目が見えている。
どう見ても、露出狂だ。
「うんうん、可愛いよ!
日本刀が武器なんだから、絶対に似合うと思ってたんだよね!」
だが、これを本日の外出着にチョイスしたヒメノは、にっこにこの笑顔だった。
「間違いなく、捕まるぞ?」
今日は、ダンジョンへ行くのやめようかな。
ラーメン屋の開店も迫っているし、さらに味を磨くべきだ。
「大丈夫だよ! 昨日、バニーちゃんでも平気だったんだし!」
反論しようと口を開く。
だが、言葉が出てこなかった。
駄目だ。勝てない。
「……いってきます」
「いってらっしゃーい! 今夜は、カレーだからね!」
俺は、笑顔で手を振るヒメノに見送られ、肩を落としながら家を出た。
******
「キマキマッ!」
「ぐっ!?」
ライオンの頭、ヤギの胴体、ヘビの尾。
そんな不思議モンスター、キマイラの一撃に子分Cが倒れた。
愛刀を肩に担ぎ、戦いをぼんやりと見ていた俺の頭が、真っ白になった。
「てめえっ! この野郎!」
次の瞬間。
一足飛びで距離を詰める。
キマイラと子分Cの間に、俺は割り込んだ。
「おらああああああああああっ!」
「キマアアアアアアアアアアッ!」
タイムラグなしの十三連撃。
斬撃が終わると同時に、キマイラはバラバラになった。
だが、そんなことはどうでもいい。
すぐさま後ろを振り返る。
「大丈夫かっ!?
……って、あれ?」
「あっ、転んだだけだ」
子分Cは申し訳なさそうに笑い、頭を掻いた。
ブチン、と俺の中で何かがキレる音がした。
「ふざけんなあああああっ!」
「ちょっ!?」
タイムラグなしの十三連撃。
俺は殺人者になりたくない。
だから、紙一重だ。
子分Cがその場から動かなければ、当たらない。
「神崎さんって、変な技を叫ばなくてもできるんだね」
「俺、少し感動したぜ。あいつのために、本気で怒るなんてよ」
どうやら、教育が必要な馬鹿がまだ二人いるらしい。
俺の戦い方を理解していないことも許せない。
だが、勘違いするな。
俺は、心配なんかしてないからね。
ただラーメン屋の人手が足りなくなると思っただけだからね。
本当に、それだけだからね。
「あっ!?」
子分たちの声が重なった。
俺は何事かと、三人が見ている先を向いた。
「虹だ」
「マジか」
「夢?」
キマイラが消えたあと、そこには虹色に輝く宝箱が出現していた。
俺は考えるよりも早く駆け出していた。
「うおおおおおおおおおっ!?」
「神崎さん、罠チェックがまだっ!?」
数ヶ月前、俺は虹箱で女になってしまった。
だったら、男に戻る可能性もあるはずだ。
俺は、ヒメノと暮らしている。
もう夫婦同然の生活を送っている。
毎晩、心はぴょんぴょんしている。
だけど、いつもヒメノが『攻め』で、俺は『受け』だ。
俺は攻めたいのだ。
それが、男というものだろうが。
「ほわっ!?」
虹箱があんぐりと口を開けた。
「か、かかか、神崎さあああああんっ!?」
ぱっくんちょ。
子分どもの悲鳴を耳に、俺は虹箱に食べられてしまった。
******
「……た、ただいまー」
我が家の玄関のドアを開けると、カレーのいい匂いがした。
ググー、と腹が鳴る。
「おかえりー! 少し遅かったね!」
スリッパがぱたぱたと鳴る音。
俺は身体をびくりと震わせ、思わず背を向けた。
「……って、どうしたの?
風呂敷なんか被っちゃって? やっぱり忍者スタイルが気に入った?」
「ち、違う!」
「じゃあ、何?」
「そ、それは……。」
「ん?」
だが、逃げ場なんてない。
俺は覚悟を決めた。
「……わ、笑うなよ?」
「何が?」
「笑うなよ!」
顎の下で結んだ風呂敷をほどく。
俺は頭から風呂敷を外し、勢いよく振り返った。
しかし、ヒメノを見る勇気がなかった。
ぎゅっと、目を強く閉じる。
「なっ!?」
驚きに満ちたヒメノの声が耳に届く。
その一声だけで、耳が大きく震えた。
猫耳が。
尻尾も、ぴーんと立っているのを感じる。
そう、俺は虹箱で猫族になってしまったのだ。
意味が分からん。
本当に分からん。
誰か、頼むから教えてくれ。
明日、獣人用のパンツとスカートを買いに行こう。
人間用のだと尻尾の収まりが悪いからな。
「……結婚しよ」
「えっ!?」
予想外の一言に、思わず目を開ける。
ヒメノの鼻から、つーっと鮮血が流れていた。
らんらんと輝く瞳。
激しく乱れた吐息。
やばい。
荒ぶっていらっしゃる。
「ベッド! ベッドへ行こ! ねっ!?」
「ちょっ!? ち、違うだろ!」
「ダメ! もう我慢できない!
ここでいいや! 士郎が悪いんだぞ!」
「うぎゃーーーっ!?」
カレーを食べる前に、俺は美味しく頂かれてしまった。




