第01話 その男、最強につき
「デビデビっ! お前も蝋人形にしてやる!」
「ほう、公爵級の悪魔か」
俺の名前は、神崎士郎。
今をときめくSランク冒険者様だ。
冒険者稼業を知らない奴らは、冒険者を人生の落伍者だと言う。
食い詰めた無職。
社会から逃げたニート。
部屋から出られなくなった引きこもり。
そんな人間たちが、最後にすがる職業。
世間では、そう思われている。
「いきなり絶技!
終焉・天地開闢・絶対神滅・覇王・零式・改いいいいいっ!」
まあ、正しくもある。
まず、きつい。
重い装備を身に付け、何時間もダンジョンを歩き続ける。
戦闘になれば、全身の筋肉を使う。
一瞬の油断が死につながる、過酷な肉体労働だ。
「デビイイイイイっ!?
意味は分からないし、ただの横薙ぎだが、とにかくすごい一撃だあああああっ!?」
次に、汚い。
モンスターと戦えば、返り血を浴びる。
体液を浴びることも珍しくない。
ダンジョンの中では、快適な生活など望めない。
トイレもない。
風呂もない。
稼ぐためには、より深く潜らなければならない。
そのため、何日も地上へ戻れないこともある。
「お前の敗因は、シンプルに俺と出会ったことだ。
俺の名前は、神崎士郎。
地獄に堕ちても忘れるな」
最後に、危険。
これは言うまでもない。
モンスターは、こちらを殺すために襲ってくる。
傷を負うことなんて日常茶飯事。
死と隣り合わせ。
それが、冒険者という仕事だ。
「デビ? その地獄から来たんだが?
地獄に堕ちても、家へ帰るだけなんだが?」
それでいて、報酬は安い。
命を懸けているからといって、必ず大金が手に入るわけではない。
多くの冒険者は、日払いの狭い部屋で眠る。
稼いだ金で飯を食い、酒を飲む。
残る金なんて、ほとんどない。
今日を生きるためにダンジョンへ潜っている。
「ならば、逝け! ヘブンの果てへ!」
そう、低ランクの冒険者たちの話だ。
俺は違う。
Eランク。
Dランク。
Cランク。
Bランク。
Aランク。
数え切れないほどの死線を越えて、俺はその先へ到達した。
Sランク。
日本でも数えるほどしか存在しない、最高位の冒険者。
それが、神崎士郎という男だ。
「デビイイイイイっ!?
地獄と天国、方向性だけでも決めろおおおおおっ!」
モテまくり、勝ちまくり。
昨夜は、サナちゃんとご機嫌なひとときを過ごした。
今夜は、どこの店へ行こうかな。
そんなことを考えていると、スマホが震えた。
どうやら、営業メールらしい。
『士郎さん。
マナ、今月ナンバーワンになりたいの。
ぐすんっ、お願い。
力を貸して?』
よし、決めた。
今夜は、マナちゃんにしよう。
とびきりのボトルを入れる。
その後は、アフターも楽しむ。
「ふっ……。
お前もまた、強敵と書いて『トモ』だった」
これが、Sランク冒険者。
命懸けで戦い続けた男に許された、贅沢というやつだ。
幼稚園の頃、俺と結婚の約束をしたヒメノ。
十年前、『フリーターとか、無理』と鼻で笑ったことを、今頃になって後悔しても遅いからな。
そんなことを考えながら、片手間にモンスターを倒した。
Sランク冒険者である俺にとっては、もはや敵と呼ぶほどの相手ではない。
「……おっ」
塵となって消えた、その場所に光が溢れる。
宝箱だ。
「マ、マジで……。」
思わず息を飲む。
虹色に輝いている。
冒険者なら、誰もが一度は夢見る。
人生を変えるとまで言われる、伝説の宝箱だった。
ラーナマーヤではインドラの矢と呼ばれる、大都市を破壊する雷の弓。
核の一撃すら防いでしまう、トロイア戦争で英雄が使ったアイアスの盾。
ハゲを治す薬。
それらを求めて、億万長者は莫大な財を投じた。
時には、その所有権を巡って国同士が争い、戦争にまで発展した。
「やった! もう命懸けの仕事なんて御免だ!
ヒメノを見返して、国債買って、老後まで遊んで暮らすぞ!」
今、その伝説が俺の目の前にある。
理性より先に身体が動いた。
俺は虹色の宝箱へ駆け寄る。
迷わず、蓋に手を掛けた。
次の瞬間だった。
「へっ!? ……ミミック?」
宝箱のほうから口を開けた。
ぱっくんちょ。
俺は宝箱に食べられてしまった。




