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ほのぼの一家

 昭和のテイスト香る横浜市下町のボロアパートに住むちょっとした日常風景で沸き起こるほのぼのした庶民的な笑いメインとしたストーリーです。


 主人公・佐野大五郎。和菓子屋「五島庵」のあんこ職人として働いている。

 妻は中学の同級生で佳代子といい三十八歳、長女・かほり十三歳と十歳の次女・華蓮も四人ぐらしだ。十年前、ここに引っ越してからずっとボロアパート「高橋荘」に住んでいる。


 高橋荘は二階建て。佐野一家は一◯三号室に居住している。いまでいうなら三DKだろうがそんな洒落た作りではない。


 昭和の時代に建てられた木造アパートで、玄関を入ると狭い廊下を挟んで左手にトイレと狭い脱衣所と風呂場。

 右手は三畳ほどの台所と、仕切りもない六畳間。奥の襖を開けると四畳半二部屋、と言う居室だ。


 かほりが生まれたときに引っ越す計画もあったが、諸物価高騰の折アパートの家賃を考えると簡単ではない。

 下町ではあるが小学校から高校まで徒歩圏内にあり、地元のスーパーやコンビニもある。施設が充実しているのも一因で、大五郎が通う五島庵も平坦な道を自転車で10分足らずでいけるのもまた魅力だ。


 朝四時半。

 まだ外は薄暗い。

 下着姿で寝ていた大五郎は布団から起き上がり大あくびをする。横では佳代子が丸まっている。四畳半では姉妹が寝息を立てている。


 あんこ職人の朝は早い。


 大五郎は台所に立つと、大して大きくない冷蔵庫から麦茶の入っている薬缶を取り出し、佳代子たちを起こさないように湯呑にそっと一杯。

 ごくり……と飲み干すとこれが彼の朝飯だ。

 布団の頭の上にきっちりと畳んである作業着に静かに着替え、廊下を伝いそっと外に出る。

 二槽式の洗濯機横においてある自転車に乗ると、大五郎は五島庵に向けて出勤だ。

「今日も暑くなるぞう」

 そう呟く大五郎だ。


 五時ちょっと前、五島庵の建物の間に自転車を止め、裏口から入る。

 大釜に水を汲み上げ、ガス台に火を付ける。煮えだす前に小豆の大袋と砂糖の入った袋を抱え上げ、粒餡仕込みの準備にかかる。

 同じ朝でも夏場と冬では仕込み方が違う。


 ただ、たまには見込み違いも発生するのだが……


 程よく火が周り大釜の湯が程よく煮だち始めた。

「良し頃合いだ」

 小豆の袋に手を突っ込み、大釜に放り込む。

 

 レシピなどない。すべては大五郎の鍛え上げた直感だ。


 煮立つ大釜を覗くと、小豆の表面から苦味成分が出てくる。お玉に持ち替え浮き出たタンニンを器用にすくい上げ、捨てていく。

「おはようございます……」

 眠そうな目をこすりながら五島庵の跡取りになる高校生、玲苑が入ってきた。将来、店主・五島のり平の二代目を担う若者だ。

「おう、ちょうどいい、渋ぎり手伝え」

「はいはい」

「はい、は一度でいい」

 変なところにこだわる大五郎だ。

 覗き込む玲苑。

「まだ早そうですよ、チョイさん」


 誰が付けたのかわからないが「チョイ」は大五郎のあだ名だ。


「夏場はこれぐれえだ。玲苑、そっちで大釜を用意して水を張れ……え? 火をつけるのかだと? あったりメエだろ。手順忘れんなよ」

 どやす大五郎。

「煮立たすなよ。渋切り終わったらそっちに入れるぞ」

「はいはい」

「はい、は一度だ」

 大釜を抱え上げ大きな金属製のザルに小豆を流し込む。湯切りだ。

 もうもうと湯気が立ち上がる。いつも壮観な眺めだが、大五郎はザルの取っ手を掴み、玲苑が用意した大釜に移し替える。

「弱火だ弱火っ」

 大五郎の声が飛ぶ。

 「はい」

 玲苑はガスのスイッチを操作する。

「な、弱火でコトコト煮るんだ。煮立たすな。そっと煮るんだぞ。ヘラでゆっくりかき回せよ」

「はい」

「どうだ、柔らかくなってきたか……見ててどうすんだ。指でつまめよ」

「チョイさん熱いですよお」

「誰が手を突っ込めといった? すくって確かめんだよ」

「はい」

「砂糖は一気に入れない。小分けだ。焦がすな、ヘラを使え」

「はい」

 そうこうして出来上がったあんこを五島のり平にわたし、仕事は完了した。


 が……どうやら作りすぎたようだ。


「チョイさん、持ってってくれ」

 のり平から渡されたあんこはずっしりと重い。

『またやっちまったか。まあいいさ』

 サービス精神旺盛なのか毎回少し多めに仕込むクセが有るようだ。


 十時五十分、大五郎は帰宅した

「ただいま」

 大五郎はちゃぶ台にビニール袋のあんこを転がした。

「また?」 

 佳代子は顔をしかめる。

「いくら甘党でも毎日じゃねえ」

「毎日じゃねえぞ。三日ぶりだあ。それより飯」

「はいはい」

「はい、は……」

 佳代子に大五郎は言葉を呑む。


 食後、大五郎は外に出た。暑さがジリジリと背中を照りつける。


 散歩のつもりだが中年女に声をかけられた。

「ちょいとチョイさん」

「おう、裏飯屋の若女将じゃねえか、どした?」

「うちの猫が網戸破っちゃって。ちょいと見れくれる? うちの旦那じゃ頼りなくってさあ」

「おうよ」

 大五郎は腰が軽い。

 若女将の家につくと、網戸が派手に破れている。

「チーコが小鳥見つけてさあ、飛び出したんだよ」

「猫に罪はネエが、ずいぶんとやらかしたもんだな。ちょいと待っておくんなせえ」

 アパートの戻り、押し入れをゴソゴソかき回す。

「あんた何やってんのさ? これからスーパーにいくから後お願いよ」

 スーパーと言っても買い物ではない。佳代子はレジアルバイトをしているのだ。

「おう、いってきな」

 

 佳代子は外に出る。大五郎も鍵もかけずに出る。

 大五郎は予備の網戸とパッキンを手に携え若女将宅へ。

「チョイさんありがとね」

 修理した網戸に若女将は上機嫌だ。

「店に顔出してよ、一杯おごるからさあ」

「えへへ、そうかい。じゃな」

 大五郎は手を振り出ていく。


 帰り際、またもや声をかけられる大五郎。

「おや、鈴木の姉御、どした?」

「ドアの滑りが悪くってさ……チョイさん見てくれる?」

「おう、待ってろ」

 またもや押し入れをかき回すと潤滑剤を手にして鈴木邸に行く大五郎。

「チョイさん、助かる~」

 両手を合わせ喜ぶ鈴木の姉御だ。

「じゃな」


 アパートまで数メートルというところで自転車を押して歩く女に声をかけられた。

「おう、ジャンバラ屋の女将さんかい、どした」

「見りゃわかるだろ、両方同時のパンクでさあ……重くってやんなっちゃうよ」

 確かに電池があるぶん重い電動自転車だ。女手一つじゃ荷が重い。

 スタンドを掛けタイヤを回しじっと見る大五郎。

「こりゃあ、ムシだな」

「何よおムシって」

「空気が漏れないように養生するもんだ。待ってな」

 四畳半の押し入れをかき分ける大五郎。

「あった、これだ」

 大五郎はムシをポケットに入れ、空気入れを持参する。

「あらずいぶんと用意のいいことねえ」

「おうよ、娘のもコイツが原因でな、予備に取っといたんだ」

 六角スパナを器用に回し後輪のバルブを取ると、大五郎の予想通りだ。

 破れたムシを、ぽいっと投げ捨てる。

「このゴムをここに押し込んでっと……ほらいい塩梅だ」

 同じく持ってきた空気入れで空気を送り込むと、すぐに固くなった。

「前もおんなじじゃあ。あらよっと……」

「すごーい、やっぱチャイさん、頼りになるわ。後でおごるからさ、店、来て」

「えへへ、そうかい。間違っちゃいねえが後でチャリ屋にな、見てもらえよ、じゃな」


 どうも大五郎は女性に人気あるようだ。


 大五郎はアパートに戻ってエアコンのスイッチを入れる。

 長年の使用でいくら温度を下げてもそよそよ風だ。おまけにエアコンは六畳間にしかない。

『買い替えるしかねえか……でも先立つもんてぇのがなあ……』


 それでも大五郎は畳の上で寝入ってしまった。


「とうちゃん起きなよ」

 華蓮に揺り起こされる大五郎。

「ん……? 寝ちまったか……」

 大五郎は背伸びして大きく欠伸をした。「風呂でも沸かすか」

「風呂洗ってないじゃん」

「昨日の今日だ。まだ綺麗だ」

 意に介することなく大五郎は風呂のスイッチを入れる。

「きったねえじゃんかよ」

 華蓮の抗議にも関わらず、大五郎は平気だ。

「夏場だ、すぐ沸く」

 かほりも帰宅した。

「おう、早えぇな」

「時短だよ」

 そう言いながら二人の前で制服を脱ぎ捨てる。

 何しろ狭いアパートだ。いつもの佐野家の風景だ。


「風呂沸いたな」

 大五郎は立ち上がり、狭い廊下で次々と服を脱ぎ、姉妹の前でスッポンポンになる。

 なにしろ脱衣所と言っても半畳もないくらい狭い。それが気に入らない大五郎は、平気で狭い廊下で裸になるのが常だった。

 姉妹としても見慣れた風景だ。

「ちょっくら入ってくらあ」

 言い残すと風呂場に入りタイルの風呂桶をまたぐ。


 ざぶ~んと音が響く。

「とうちゃんまたカラダ洗ってないよ」

「そだね」

 音で様子がわかるというのも、ボロアパートならではだ。


 ちょっとして、タオルでゴシゴシと頭をかきながら大五郎が出てくる。

「お前たちも入れよ。ガス代がもったいねえ」

 かほりが言う。

「パンツはいてよ」


 午後七時前

 ただいま、と、佳代子が帰ってきた。

「遅かったな」

 パンツ一丁の大五郎がビールを煽りながら、迎える。

「あんた、またその格好?」

困った顔をする佳代子。

「いいじゃねえか……暑いんだからよ」

「ご飯にしましょ」

 ちゃぶ台の上に野菜をゴロゴロ転がす。

「何だお前もやっちまった口かあ」

「あんたのあんことは違うんだよ。もらってきたんだ」

 佳代子は口をとがらす。

「似たようなもんだ……」

「え、何だって。あんこじゃ腹、膨らまないよ」

 

 手早く調理をはじめる佳代子。


 午後八時

「じゃ先に寝るぞ」

 ちゃぶ台が片付けられたリビングが寝室に早変わりする。

「お前のぶんも敷いとくぞ」


 佳代子たちは四畳半に追いやられ、テレビを見たりして時間を過ごす。


 こうして佐野家の一日が終わり、明日もまた同じことが繰り返されるのだった――







※本作は、執筆における誤字脱字の校正および構成の補助として、AIツールを利用しております。あんこの製造過程はCopilotを参考にしましたが、物語の核となるプロットや描写は作者自身の手によるものです。




スケロク商事とは真逆のテイストをお届けしました。いかがだったでしょうか。

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