22. 異世界に対象年齢14歳を設定したら、0歳児のユウの体が突然消えていき……
ブロックの檻から脱出した僕は深呼吸してから、ユウと向きあう。
「拠点よりも先に、服を作ろう。正直に言うと、ユウの格好がエロくて、ゲームに集中できない」
「わし、エロい?」
「ぶっちゃけ痴女」
「ガーン」
ガーン!
どこからともなくタライが落ちてきてユウの頭部に命中し、ヒヨコが舞った。
ピヨピヨピヨ。
これもエモートだろうか。
「僕もパンイチだし……。僕等が日本で海以外を歩いていたら、速攻で通報されると思う。だから、拠点も大事だけど服を手に入れよう。服はどうやって入手するの?」
「知らないのじゃ」
「え?」
「今は、ユウが管理しているけど、このゲーム世界のフレームワークを創ったのは前の配信神なのじゃ。じゃから、調べれば仕組みは分かるし仕様変更できるけど、現時点では知らないのじゃ。イメージとしては、ワシはセーイチロウに触れることができるからセーイチロウに痛みを感じなくさせたり、ジャンプできなくしたりできる。セーイチロウのグラフィックを腋毛もさもさにすることも、もちろん容易い。けど、この世界の何処かに魔王がいたとしても、ワシはまだ魔王を観測していないから、仕様変更はできないのじゃ」
「なるほど。つまり、触れる距離にあるものの仕様を変更できるという感じか」
「のじゃ。お主は、いい感じに整理してくれるのじゃ~」
「ふむ。となると、服の入手方法で考えられるのは……
1.どこかにショップがあって売っている
2.ゾンビのような人型モンスターを倒して脱がす
3.人型じゃなくてもいいからとにかくモンスターを倒すとドロップする
4.宝箱や壺やタンスから拾う
5.素材を集めて自分でクリエイトする
6.課金する
7.クエストを達成すると手に入る
こんな感じかな。あ。ユウに仕様を変えてもらって、ゲームの初期状態で服を着ていることにするのもありか」
「やだ」
「……え?」
「最初は下着にすると決まっているのじゃ」
「なんで……」
「配信したときに下着姿の方が視聴者の食いつきがいいし、配信者もトークを展開しやすいのじゃ!」
「うーわ……。そういうところは配信神っぽい発想……」
「お主は自分の顔で遊んでいるから微妙に恥ずかしく感じるのじゃ。キャラクターエディットはいつでも実行可能なのじゃ」
「そういう考えもあるのか……」
「それがパンツか別の物か、たとえ明言されていなくても、パンツっぽい物は必要なのじゃ! お主だって3Dのゲームで女の子を使って、カメラ視点を低くしたりするじゃろ?」
「……そ、それは」
「するじゃろ?」
「否定はできない……」
「正直で可愛いやつぅ~。というわけじゃから、下着スタートは必須なのじゃ。服の下に着るから、下着。パンツと呼ばなければ、それで良いのじゃ!」
「分かったよ。まあ、布面積が多めで厚手の生地だし、初期状態はこれで良しとして……。服の入手方法に話を戻そう。服が簡単に手に入るなら、初期状態が下着でもいいし」
「さっきお主が言った入手方法、もう、忘れたのじゃ……」
「チャットのログに残せば文字として確認できそうだけど、どうやってメッセージを送るの?」
「わしにメッセージを送りたいと念じるのじゃ!」
「やっぱ、基本的に念じる感じか……。じゃ……。ぬんっ!」
僕は先程と同じことを念じてみた。チャットのログに表示できた。
「じゃ、これベースに検討しよう。先ず、モンスターが存在するか、コンピューター操作のNPCが存在するかどうかによって変わってくるな……。服の入手方法を整理すると……」
・この世界にNPCがいることが前提となる入手方法
1.どこかにショップがあって売っている
4.宝箱や壺やタンスから拾う
・この世界にモンスター(動物)がいることが前提となる入手方法
2.ゾンビのような人型モンスターを倒して脱がす
3.人型じゃなくてもいいからとにかくモンスターを倒すとドロップする
5.素材を集めて自分でクリエイトする
・分類不能な入手方法
6.課金する
7.クエストを達成すると手に入る
「こうなるかな。モンスターを前提とする2、3、5は避けたいな……。一見すると簡単そうな5だけど、羊毛を手に入れるためにハサミが必要になり、ハサミを手に入れるために鉄が必要になり、鉄を手に入れるために石のツルハシが必要になったり別のエリアに移動する必要があったりする。もちろん、鉄の入手まではゲームの面白いところなんだけど、僕は可能な限り早く服をゲットしたい。となると、7だ! これを仕様変更してもらう」
「のじゃ~? NPCがいないのに、どうやってクエストを達成するのじゃ?」
「ふふっ。ゲームによっては、必ずしもNPCから依頼されるものだけとは限らないんだよ。『システム』が依頼主になるんだ。例えば『初めてアイテムを手に入れる』とか『ゲーム世界で三〇分過ごす』とか『木材を四個手に入れる』とか『石を四個拾うとか』。さらに言うなら、このクエストに従って行動すると、それがゲームのチュートリアルになっているといい。世界にのめりこみやすい」
「ほあぁ。セーイチロウは本当に頼りになるのじゃ」
「もっと褒めて!」
「いよっ! セーイチロウは本当に頼りになるのじゃ!」
「ありがとう! もっと!」
「セーイチロウ! セーイチロウ! 頼りになる男、セーイチロウ!」
「同じことしか言ってない! とにかく、僕は様々なゲーム配信を見ながら、指示厨にならないように耐えてきた反動で、今、色々言いたい」
「いよっ! いきなり始まる自分語り!」
「ゾンビゲーの画面に『装備を調えろ』と表示されていて、机に銃器が置いてあるのに艦長がポコラ達と一緒に『おっしゃ、いくぞ!』『オー!』と手ぶらで拠点を飛びだしてゾンビに襲われて、開始一分で全滅したのを僕は忘れない……。しかもそれが『死んだら即終了』配信だったから配信が一分で終わったよ……」
「いよっ! それがどうした!」
「ねえ、『いよっ!』の使い方、下手過ぎん?」
「いよっ! そんなこと初めて言われたのじゃ」
「僕も初めて、人に『いよっ!』が下手って指摘したよ。……とにかく、このゲーム世界はチュートリアルに従って行動していたら死なずにひととおりゲームシステムを学べるようにしてほしい。あと、道具を作って素材を回収するような、基本的なことを覚えたいよっ!」
「チュートリアルを無視した者には、逃れられぬ残酷な死を……」
「いや、まあ、そうなんだけど……。いきなりそんな邪悪そうな口調で言わんでも……。あと、冗談だと思うけど、ゲームだし、柔らかく死ぬようにしてよ? 画面が黒くなるだけで。血とか欠損とかもなしで」
「いよっ! 分かったのじゃ」
本当に分かっているのか、ちょい不安だけど、まあ、駄目なときはその都度、指摘していこう。
「あ。言う順番がおかしいかもしれないけど、この世界、全年齢対象にしてね?」
「分かったのじゃ。……うっ!」
ユウがいきなり胸を押さえて呻きだした。
「どうしたの? 胸がデカすぎて苦しいとか言ったら、うちの妹にぶちのめされるよ?」
「この世界を全年齢対象にしたら……」
「したら……?」
「乳首が消えたのじゃ! 見て! さっきまでぽっちが浮いていたのに、消えたのじゃ! ほら、見て!」
ユウが胸を張ってずいっと、突きだしてくる。
もちろん僕は顔ごと視線を空へ逃がす。
「知らんがな!」
「知らんがなじゃすまされないのじゃ。今後、ワシがお主の赤ちゃんを産んだとき、おっぱいをあげられないのじゃ!」
「なんで僕の赤ちゃん?!」
ギュッ!
いきなりユウが両手で僕の乳首をつまんできた。
痛みは感じないけど、反射的に僕は叫ぶ。
「痛い! 痛い! やめて!」
「男の乳首があるのは不公平なのじゃ! 全年齢対応で女の乳首を消すなら、男の乳首も消すべきなのじゃ! 乳首差別! 乳首差別なのじゃ!」
「やめて! 分かった! この世界の対象を、乳首が許される年齢まであげていいから!」
「うむ、なのじゃ……。この世界の対象年齢は一四歳以上になったのじゃ。あ……」
「今度は何が……。あ……」
すーっ……。
ユウの体が透けて、向こう側が見えだす。
「わし、VTuberが生まれてから誕生した若い神だから……一四歳以下……」
「ユウゥゥゥゥゥッッ!」
ユウの体は完全に透明になってしまう。
パサッ……。
下着が地面に落ちた。
「そんな……。ユウ……。嘘……でしょ?」
今までユウがいた場所に、 手を伸ばしても何にも触れない。
「ユウ……?」
ドサッ……。
ショックに打ちひしがれた僕は地面に膝をつく。
「ううっ……。下着を残されても、想い出の品として持ち帰るわけにもいかないし困るだろ……」
「なーんちゃった!」
「知ってたけどね!」
背後から声がしたから振り返る。普通に見慣れた半裸のユウが立っていた。
「死んだらこんな感じで消えて、初期位置で復活するのじゃ」
「あ、うん。実演、ありがとう。下着が落ちる演出はいらないかな……。所持アイテムだけ落とす感じで」
「えー。私の下着拾ったくせに~」
「え? あっ!」
土:20
下着:1
「インベントリに格納されてる! 不可抗力だよ! 吸っちゃっただけだよ!」
「吸った?! そ、そういうゲームじゃないのじゃ……」
「変な誤解しないで。吸ったっていうのは、アイテムに近づいたら勝手に入手しちゃうという意味で。うーわっ。解説文の『可愛いあの子が着けていた上下セットの下着。ちょっといい匂いがする……かも』がイラッとくる!」
「じろじろ見るなんて、エッチ……」
「見てるのは解説文ね!」
僕は『インベントリから下着を取りだす』と念じた。
右手に胸用の布、左手にパンツが出現した。
ユウが嬉しそうに超至近距離から僕の顔面を指してくる。
「パンイチの男が女性用下着を両手に握りしめているーう!」
「不可抗力だからね?!」
「ヒューマン、楽しそうで何よりなのじゃ」
パシャッ!
「え。なに、今の写真を撮ったような効果音」
「ゲームの想い出を残すためにスクリーンショットを撮ったのじゃ!」
「そんな機能要らないから! あ、いや、攻略で役立つ場面があるかもしれないけど、消して! 今の消して!」
「えー。どうしよっかなー」
「頼むて」
「答えはもちろん~。ノー! 嫌でぇ~す!」
僕はエモート『むきー!』を選択する。
「むきー!」
歯ぎしりしながら、腕をフリフリ、地団駄を踏んだ。
「とにかく、これ、返すから」
僕は両手の下着をユウに渡した。
「死ぬと下着が増えていくから、売ってお金儲けができるかもなのじゃ」
「アイテム増殖バグでお金を稼ぐのはあるあるかもしれないけど、下着を売るのはあかんでしょ……。ねえ、というか、なんか眠くなってきたんだけど……」
この眠気はゲーム内の眠気ではなく、本体の眠気だ。
急速に意識が薄くなってくる。
「えー。もう終わりー?」
「うん。多分、もう意識が飛ぶ……。明日は土曜日だから、来れたら来るよ」
「分かったのじゃ。ユウは世界のスケールを小さくする作業がまだ途中だから、続きをしながら待っているのじゃ」
「うん。お願い。じゃ、おやすみなさい」
「それじゃ、また次回、お会いしましょう! チャンネル登録、よろしく~」
「うわっ、いきなり最後だけ配信者っぽい!」
僕は現実世界に戻ってきた。
やはり眠気が限界だ。もう、体が動かない。このまま眠って意識が飛ぶはず。
そもそも消灯時間になってからゲーム世界に転移しているから、眠くて当然だよな。こればかりはしょうがない……。




