21. ゲーム世界に行ったら土ブロックに囲まれてた。ユウめ、やりやがったな!
ゲーム異世界に転移し――。
真っ暗だった。
「え? こっちも夜? 星や月もないの? 暗すぎん? うっ!」
歩こうとしたけど、何故か身動き取れない。
「え? 前も後ろも何かある。囲まれてる? まさか……! 一時中断!」
僕の意識がすっと体から抜けて、視点が後方やや上空に移動する。
明るい。昨日と同じだだっ広い平地に、土ブロックを一〇個くらい積み重ねたオブジェがあり、その周りで銀髪灰色下着の外国人少女が楽しそうに飛び跳ねている。
「やっぱり! 僕の周囲が土ブロックに囲まれてる!」
土や木をブロック化して再設置できるゲームで、ログアウトしたユーザーの再出現位置の周辺をあらかじめ囲んでおくのは、定番の悪戯だ。
「土だから簡単に破壊できるはず……」
僕は一時停止を解除する。
昨日遊んだ感じだと爪と指の間に土が挟まることも汚れることもなかったし、手で掘るか。
先ずは顔の前のブロックを掘ってみた。五回ほど引っ掻いたら、教室の後ろにある個人用ロッカーくらいの範囲で土が消えた。
多分ブロック四個で人間サイズになるくらいのサイズだ。
にゅっ。
「のじゃ~」
土窓の向こうに、ユウが現れた。
相変わらず、自ら発光しているかのように瞳がキラキラ輝いている。
絶世の美女と表現すべきなんだろうけど、子供っぽい表情と言動から、クソガキという印象が強い。
ぽこっ!
再び真っ暗になった。僕が掘ったところにまた土ブロックが設置されたようだ。
「ふーん。そっか……」
僕は努めて低く冷たい声を、独り言のように漏らす。
「こんな意地悪するんだ……。あーあ。今日はもうログアウトしちゃおっかな……」
「やだーっ!」
ぼこっ!
目の前のブロックが消えて、四角く切り取られた明るい枠の中に、涙目のユウが現れる。
「冗談で~す!」
僕はエモートで「変顔」を実行した。狭い空間内でどれだけの行動ができているかは分からないけど、きっと相手を苛つかせるくらいのことはしているだろう。
「あぅ~べべろべろ、あぅ~」
「むきーっ!」
「むきーって……。怒り方、下手すぎん? とりあえず出して」
「しょうがないにゃあ……」
外側からユウが土ブロックを破壊し始めたから、僕も内側から破壊し始める。
やがて上半身が出たところで、ジャンプして出ようとするが、ジャンプできないことを思いだす。
「ユウ。意見がブレて悪いんだけど、やっぱジャンプできるようにして。現状だと、斜面や小さい段差は歩いて移動できるけど、ブロックくらいの段差があると移動不能になっちゃう」
「分かったのじゃー。したよ」
「ありがと」
僕はジャンプして土ブロックの檻から抜けだした。
「平地に土ブロックが数個積んであるのはなんか見た目が気持ち悪いから、破壊しよ」
「分かったのじゃ!」
土:20
破壊した土が勝手にゲットされるから、インベントリはこんな感じになった。うん。ゲーム開始直後って感じでちょっとワクワクする。
「それじゃ、今日はセーイチロウのリスポーンポイントになる拠点を作るのじゃ!」
「あ。待って。ちょっと確認したいことがあるんだけど」
「のじゃ~?」
「なんか、現実世界でもゲーム仕様が適用されているっぽいんだけど」
「そうなの?」
「あ、この反応。知らない感じか……。なんかさ、現実でもジャンプできなかったし、インベントリが開けちゃった」
「むむむ。こっちのコピー肉体と情報が同期しているのかもしれんね。いったん、魂ケーブル抜いて挿し直す?」
「何その物騒な修正方法。怖いんですけど」
「のじゃ~……。不便がなければ、そのままで」
「魂ケーブルとやらの抜き差しが怖いし、まあ、便利と言えば便利だし、このままでいっかあ……。あっ。そうだ」
僕は回収したばかりの土ブロックを積み重ねながら、説明する。
「のじゃ~?」
「えっと。ちょっと、これはなんとかしてほしい仕様があって……」
僕は三方だけの箱を作った。
「ねえ、ちょっと、ここに入ってみて」
「え~。わしを閉じこめるつもり~? エッチなのは駄目なのじゃ~」
「そうじゃなくて。いいから」
「もー」
ユウが土ブロックの間に入った。僕はユウの前に立つ。
「ジャンプせず、土ブロックを破壊せず、ここから出て」
「ん~?」
ユウは僕の右と左を確認して、右側の方が少し隙間が広いと判断したのか、そこに体を割りこませて外に出ようとする。
しかし、出れない。その場で歩くモーションをするだけだ。
「あれれ?」
「ほら。なんかさ、四方をオブジェクトに囲まれていると、動けなくなるっぽい。箱庭ゲーでもRPGでもよくある仕様だけど、これ、なんとかならないかな? 現実世界で四人に囲まれたら動けなくなる」
「現実世界で四人に囲まれる?! セーイチロウ、どんな人生送ってるん?」
「……確かに! 僕、凄く変なこと言った!」
「大丈夫? 元気出して。ほら。現実世界の辛いこと、ユウに相談していいからさ……」
「かつてないほど優しいのやめて! とにかく、電車とかバスとか困るかもだし、人間くらいのサイズのオブジェクトは押したら退かせるようにならないかな?」
「分かったのじゃ。じゃあ、そこで動かないでね」
「うん」
僕はユウを外に出さないよう、立ち塞がる。
ユウは前進し……。胸が僕の体に――。
ずっと意図的に視線を向けないようにして、意識しないようにしていたから、実際のサイズはよく分からないけど、かなり大きかった気がするものが触れ――。
「待って!」
触れる瞬間、僕は後方に下がった。
「わーい。ヒューマンが退いたのじゃ!」
「違うでしょ、今のは。僕が僕の意志で退いたの。そうじゃなくて、手で押して」
「えー。セーちゃんのエッチ。ゲームなのに興奮してるんだ」
「グラフィックとか触感とかリアルすぎるし、ゲームというより異世界転移だから、無理なものは無理でしょ。とにかくやり直し。戻って。手しか使ったらダメだからね」
「分かったのじゃ。……手で、シてあげるね……」
「なんか気になる言い方ぁ……!」
ユウが土ブロックの間に戻り、僕が立ち塞がり、再開だ。
「じゃ。行くのじゃ。こちょこちょこちょ~」
「あははっ! ちょっ、待っ! そうじゃないっ!」
僕は腋に突っ込まれていたユウの手を掴んで、引っぺがす。
「変わって! 僕が中」
「君が外」
「そう。……ん? 違う。僕が外じゃなくて、君が外」
「君が外、私は中、了解」
「入れ替わるだけの単純なことなんだから、ややこしくしないで」
「分かったのじゃ。えいっ!」
「痛いッ!」
あ、いや、反射的に叫んだだけで痛くはないんだけど、いきなり頭突きを喰らってしまった。
「……あっ! 目の前に私がいるのじゃ! 私達――」
「入れ替わってるー! って、入れ替わってないから。そんなことのためだけに頭突きしないで! 立ち位置を変えるの。ほら」
「ん」
僕達は立ち位置を入れ替えた。
「むふふ」
「なにさ、その意味深な笑い」
「セーちゃん。できるの?」
「え?」
「私の、か、ら、だ。触って、押しのけて」
「……ッ?!」
「目の前にいる女の子を押しのけるために、女の子の柔らかいところ、力いっぱい、押、し、て」
「なんで、そんないきなりセンシティブな言い方するの?! え?! 待って、本当に、これ、僕閉じこめられてる?!」
ヤバイ。左右と後方は土ブロックで逃げ場はない。
うっかりしてた。妹を退かす時みたいに、肩とか二の腕とかを押せばいいかと思っていた。
けど、ユウはいまだに下着姿だから、押しのけようとすると絶対に肌を触ってしまう。
「ねえ。ユウが創ってるこの世界からバンされるセンシティブライン、探ってみる?」
「く、ううっ……」
どうする。
ここはゲーム世界なんだし、気にせずユウの体に触れるか?
でも、僕は将来的にこの世界で妹に配信してもらいたいと思っているし、なんなら妹のVTuber活動をユウにもコラボで応援してもらいたいなーなんてことも、ちらっと思ってる。
悪い言い方になるけど、利用する気まんまん、くっくっくっ、てやつだ。
だから、ここで僕がユウの肌に触れたら、数ヶ月後か数年後に――。
『今日は配信神のユウちゃんがコラボに来てくれたよー。よろしくねー』
『よろしくなのじゃー』
『質問が来てるよ。えっと「お二人が知り合った切っ掛けを教えてください」だって』
『えへへ。クルミんのお兄ちゃんにおっぱいを鷲づかみにされて揉みしだかれたのが切っ掛けなのじゃ~』
『え。何それ。お兄ちゃん、どういうこと?!』
なんてことになったら、地獄だ。
以前、Vの誰かが『人間の肌は繋がってるでしょ? だから手もおっぱいの延長線にあるわけ。分かる? つまり握手はおっぱいを揉むことに等しいんだよ?」みたいなことを言っていた。
同じような屁理屈で、僕がユウの胸に触れたことにされてしまうかもしれない。
「ううっ……。僕の負けでいいから許して」
僕はユウに背を向け、周囲の土ブロックを回収して脱出することにした。
「あれれ~? いつ、なんの勝負になってのかにゃ~?」
ユウが背後からツンツンつついてきた。
悔しいッ……!
あと、そこは、ちょっとエッチなラブコメみたいに、おっぱいを当ててきてよ……!
あ、いや、僕がエロいからそういうのを期待しているわけではなく、定番のオチってやつがあるでしょ!




