④
そしてとうとう徹とのデート当日。
午前11時、陽菜はまた泣きそうな圭に見送られながら、前回と同じホテルのラウンジで待ち合わせした。
「良かった。来てくれて。じゃあ行こうか。」
今日のデートプランはもちろん全て徹任せのものだった。
まず映画館に行き陽菜の観たかった映画を鑑賞した。
それからイタリアンレストランに行きランチコースを頼み、二人はいろんな話をした。
徹は小児外科医をしており、病院で遭ったことを話し毎日大変なこともあるがやりがいを感じる日々だと話した。
陽菜も仕事のこともそくだが、仲の良い友人達の話をした。
開業医の息子が25才にして看護師から医師を目指した話、ホストと看護師のおめでた婚の話、お堅い銀行員とエステシャンが駆け落ちするように結婚した話。
陽菜は話題に尽きず、徹は相槌をして聞いてはよく笑って聞いてくれた。
そして二人がレストランを出ると、天候が曇っていた。
「もう少し話したいんだ。ラウンジに戻らないか?」
「うん。」
もう、時間は夕方になろうとしていた。
陽菜と徹はホテルのラウンジに戻ると、揃ってコーヒーを啜った。
たった二日間しか会わなかったが、一年半という長い月日を忘れるくらい濃い時間を過ごしたと陽菜は感じていた。
「言おうか言わないか迷ったんだけど。ずっと陽菜に嘘をついていたことがあるんだ。本当のことを聞いて欲しい。」
「嘘?」
「あぁ。でも決して陽菜に同情してもらいたいわけじゃない。ただ最後まで嘘をついてるのは嫌だったから。」
そして珍しく神妙な顔つきで徹が話し始めたのは、過去のことだった。
「俺の両親、本当は事故じゃなくて心中だったんだ。ちなみに一人っ子じゃなくて、妹も二人いた。火事でみんな死んで俺だけ残ったんだ。俺はずっと、なんで俺だけ生き残ったのかと思って生きてた。陽菜に会うまでは。」
「そんな…。」
陽菜はいつも笑顔が絶えなかった徹が一人抱えていた辛い過去に驚きのあまり、つい口に手を覆った。
全身に身震いがし、そして徹もまた震えていることが分かりついその手を重ねた。
「でも陽菜と出会ってから、毎日すごく楽しかった。それに今は仕事で人を助けることで、自分が生きている理由を見出せたているんだ。ごめん、俺は本当は東京を離れられない。それにまたプロポーズをして、困らせてごめんな。これでやっと俺も踏ん切りがつけたよ。」
「辛かったんだね。」
「陽菜だって、ずっと辛い過去を言わずに一人で生きてたんだよな。三日前はそんな陽菜を置いていくのに不安だったけど、今日陽菜から友達のこととかいろんな話を聞いて安心したよ。今日はたくさんの笑顔を見れたから俺は安心して東京に帰られるよ。陽菜は地元に戻ってきて本当に良かったな。」
徹はそう言うと、またいつもと変わらぬ笑顔で立ち上がっていた。
しかしどこか無理をしていて悲哀を漂うその姿に、陽菜はつい徹を抱きしめてしまった。
「私も徹に出会えて良かった。幸せになってね。もし私で良かったら、何かあったら連絡してほしい。もちろんまた会いに来てもいいし。あ、なんか私振ったくせに失礼だよねこんな言動。」
「最後の一言は逆に俺の心に刺さったんだけど。陽菜も幸せになれよ。てか早くあのバーテンダーと付き合っちゃえよ。」
「それは…。っていうか、私の圭にここ数日ちょっかい出してたでしょ?」
陽菜は圭の話が出たことについ顔を赤らめ、徹の胸を軽く叩いた。
徹が圭と遭遇していたことは、また別の話である。
「陽菜に相応しいか、見極めてたんだよ。でもあいつ若いのにめっちゃいい奴すぎて負けたわ。最後の方、俺が好きになっちゃうところだった。早くあいつのところに行ってこい。」
「うん。」
そう言うと徹は陽菜の体を離して背を向けさせ、背中を押したのであった。
徹の声は震えていて、陽菜は泣いているのだと感じた。
「またね。」
「うん。」
陽菜は振り返らず、徹と別れた。
本当は帰りにバーホワイトに寄ろうと思っていたが、無理そうだった。
自宅に帰るまでの道すがら徹と一緒にいた日々を思い出すと目が潤んでいた。
「ありがとう。今まで。」
徹は東京に逃げた自分を救ってくれたかけがえのない存在だった。
新しい恋に踏み出したとしても、決して徹のことを忘れてはいけないと心に誓い徹の幸せを願ったのであった。




