⑤
そして数日後。
日勤終わりに陽菜は茜の下に訪れた。
お互いゆっくり話をしたかったために、夜の訪問となった。
「いらっしゃい。ごめんね、今チビあか寝たところなの。」
「ママもご褒美タイムだね。」
陽菜が部屋についた時、椿はベビーベッドの上で両手を上に上げてすやすやと寝ておりとても愛くるしかった。
茜も数日前よりは明るく感じ、陽菜は安堵していた。
「最近ね暖かい時間に三人で散歩に行ってるの。夜は不安なのは変わらないけど、それがすごく楽しくて。最初は大変すぎて前を向けなかったけど、これからの我が子の成長が楽しみになって来たのよ。」
「良かった。」
そう言って椿を眺める茜はすっかり、母親の顔をしていた。
そんな茜の顔は凛々しく、陽菜は少し羨ましく思った。
「それで、陽菜はどうしたの?私で良かったら話して。」
「重い話になるけど、いい?」
「もちろん。陽菜はいつも私を救ってくれたじゃない。」
そう言う茜に、陽菜は圭に話した内容と同じ自分の生い立ちを全て話した。
茜は最後まで静かに頷き、傾聴してくれた。
「陽菜も何か抱えてるって、初めて会ったときに感じてた。でもそんなに重いものだったんだね。よくここまで一人で頑張って来たよ。」
茜の労いはその人生経験からか説得力があり、陽菜は胸が熱くなり目にまた涙を潤ませた。
「ううん。私も一人じゃなかった。辛い時はお姉ちゃんが支えてくれたし、東京でも元彼がいて。そして今も圭や茜や、七海。たくさんの人がいてくれる。でもお姉ちゃんはずっと一人で辛かったよね。」
「大丈夫だと思う。お姉ちゃんのことは陽菜がずっと思ってくれてたじゃない。今はまだ会えないかもしれないけど、きっとその気持ちはいつか伝わるわ。こんなに思ってくれる妹、いないわよ。」
「逃げたのに?私。」
「でも結局、地元に戻って来たじゃない。誰しも逃げたい時はあるわよ。それでも陽菜は無意識のうちに、解決したくてここに来たのよきっと。」
陽菜は茜に慰められ、胸の中に抱えていたモヤモヤが薄くなった気がした。
ー自分は今、姉の近くにいる。いつでもまた向き合えるところにいるんだ。
「それと、認めたら?もう一つ、大切なこと。」
「ん?」
「お母さんみたいなことしてくれる、少し変わったあいつのことよ。」
茜の揶揄した相手を陽菜はすぐに気付き、頬を赤らめた。
それは今の今まで誰も陽菜に言おうとしなかった事実である。
「大切に思ってるんでしょう?そろそろお互いのために、その気持ちに名前をつけたらどう?」
「それは…。私が幸せをになるってこと?」
「そこ躊躇する前に、陽菜はとっくにもう圭からたくさんの幸せをもらってるでしょう。」
そう、自分はずっと幸せになってはいけないと陽菜は思っていた。
しかし本当はもうとっくに圭のおかげで幸せで、居心地の良いその関係はもはや恋人以上のものであることを陽菜は確信していた。
「私の気持ち、伝えてもいいのかなぁ?」
「私と匠みたいに拗れる前に、早めに伝えなさい。皆んな、陰から応援してたのよ。」
「うん。分かった。でもその前に二人、会わなきゃいけない人がいるの。」
陽菜はそう言うと、ある人とちゃんと再会する決意をした。
一人は姉を支えて来た、母方の祖母だった。
時々姉の病状を聞いてはいたが改めて会うことはなく、ずっとちゃんと向き合って話をしたかったのである。
そして陽菜が決意をして間もなく、デリバリーしていたピザが届いた。
二人は他愛のない話をしながら、ピザをつまみにノンアルコールの缶チューハイを飲むと楽しいひとときを過ごしたのであった。
そして一週間後。
陽菜は母方の祖母と連絡を取り、休日に祖母の家で会うことになった。
祖母は女で一人母を育て、70才を超えた今でも現役助産師として働いていた。
「陽菜。」
祖母は会って早々、目を潤ませて陽菜の体を抱きしめた。
祖母に会うのは14年ぶりであり、皺の増えたその顔は苦労を重ねていることが見て取れた。
「上がって。今も好きかしら?ショートケーキあるのよ。」
「おばあちゃん。」
祖母の家も昔と変わらず少し散らかっており、懐かしかった。
母と姉とよく三人で遊びに来たものだった。
あの頃の自分はこんな未来が来ることなど想像していなかったのだろうと考えると、胸が苦しくなった。
「どうしてもっと早く来てくれなかったの。ずっと会いたかったんだよ、陽菜。立派になったわね。お母さんのことは本当に申し訳なかった。子供二人を捨てる娘に育ててしまって、陽菜には苦労をかけてしまったね。」
「おばあちゃんには関係ないわ。自分を責めないで。」
普段は明るい祖母が悲観的に言うのを聞くのは陽菜も切なく、笑顔を繕い祖母を庇った。
「私の方こそ、お姉ちゃんのことを支えてくれて本当にありがとう。お姉ちゃんはその…体調はどう?」
「最近新しい仕事を始めてその疲れが溜まってたからだろうって先生が。病院でゆっくりして、だんだん自分を取り戻しているよ。面会に行くとね、必ず陽菜の話をするのよ。朱美は陽菜を誇りに思っているの。」
「誇り…?」
陽菜はその言葉が胸に刺さり、目頭が熱くなった。
祖母は優しく微笑んでおり、陽菜の頭を優しく撫でて言った。
「陽菜が看護師になることは、朱美の夢になっていたのよ。仕事は楽しい?私もあなたが私と同じ世界で働いてること、嬉しく思っているわ。」
「おばあちゃん…。」
「いつか陽菜の働く姿を朱美は見たがっていたわ。そのうち二人でこっそり見に行こうと思うから、知らないふりをしてね。そしたらきっと朱美はまた前を見て生きていけるから。あなたの存在が心の支えになっているのよ。」
陽菜は祖母の言葉に胸が熱くなり、そして涙が溢れその場に崩れ落ちた。
姉の一番近くにいる祖母から姉の現状を聞くのはとても怖かった。
それはずっと姉から自分は恨まれていると思っていたからだった。
「おばあちゃん、私好きな人がいて。その人に告白して、もし付き合って幸せになってもお姉ちゃん許してくれるかな?」
「当たり前でしょう。あの子が一番喜ぶわ。ちなみに、朱美にも一丁前に彼氏いるのよ。アラフォーだからさすがにいないと困るか。」
祖母はそうあっけらかんに笑うと、キッチンに行きショートケーキを陽菜に持って来た。
「本当に姉妹ね。貴方達、考えすぎよ。甘いものでも食べましょう。」
陽菜は涙を滲みながら、甘いショートケーキの味を堪能した。
そして幼い頃四人で笑い合った日は確かに本物であった、あの瞬間だけは忘れないで生きていこうと決めたのであった。
圭と陽菜の過去編終わりました。
これから終盤、いよいよ二人の恋愛を中心に描いていきますのでどうぞよろしくお願いします。
ちなみに章を〜夜としているのはドラマを意識した作りにしているからになります♡
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