④
数日後、陽菜は七海から突然連絡が来た。
今日バーホワイトで絢斗と話をすることになり、一緒に来て欲しいとのことだった。
ちなみに圭も出勤しており、四人で話をしたいと絢斗が言ったようだった。
陽菜は予想外の展開に緊張したが、少しでも二人の幸せのために自分にできることをしようと思った。
そして午後8時、バーホワイトにて。
途中で七海と待ち合わせした陽菜は二人でバーに入った。
絢斗は仕事は終わったが、まだ到着まで時間がかかるようだった。
「いらっしゃい、はるちゃんに七海さん。ドリンクはいかがいたしますか?」
今日も真っ黒に身を包んだ圭のバーテンダー姿はいつもと変わらずカッコ良い。
陽菜はその姿に癒されながら、緊張を少し解した。
「私、テキーラサンライズ。」
「私はファジーネーブルでお願いします。」
そして美味しお酒と料理をつまみながら、二人は他愛無い話をしていると絢斗が到着した。
「お待たせ。」
絢斗は緊張して顔を強張らせながら、七海の隣に座った。
「久しぶりだね。七海。」
「うん。」
久しぶりに会った割に二人の会話は弾まず、不穏な空気が流れていた。
その空気を察して明るく声をかけたのは、圭だった。
「絢斗さん今日もお仕事お疲れ様です。相変わらずスーツヨレヨレですよ。」
「スーツの手入れする時間なんてなくてさ。」
「早く可愛いお嫁さんもらってください。」
絢斗に対して圭は珍しく大胆な言葉を放ち、陽菜は神妙な顔をした。
陽菜は圭と絢斗の間に何かあったのかーと二人の親密な雰囲気を感じ取っていた。
そして絢斗が頼んだビールができると圭は水で四人は乾杯をし、早速本題に入った。
話をし始めたのは、七海からだった。
七海は自分の母親ががんの終末期であることを告げ、今は仕事もままならない生活を送っていることを絢斗に告げた。
そして絢斗を愛していて結婚はしたいが、東京に行くことも結婚することももう少し待ってほしいことを頼んだのであった。
その答えはもちろんイエスだろうと陽菜は思っていた。
しかし絢斗は自分の想像以上であった七海の過酷な状況に頭を抱え、弱々しい声で言ったのであった。
「七海は、俺と一緒にいて幸せになれるのかな?俺は七海のこと本当に愛してるよ。でも俺は東京に行くし、七海が地元で懸命に築き上げてきた仕事も台無しにしてしまう。結婚を延期にして、本当に俺と結婚をして七海は幸せになれる?」
想定外の絢斗の言葉に、七海は目を見開き固まっていた。
そして瞼には涙が溢れていた。
陽菜が七海の背中を摩ろうとしたとき、七海は勢いよく立ち上がった。
「私が絢斗と一緒にいて、幸せになれないと思ってるの?絢斗こそ私と一緒にいて幸せになれる自信がないんでしょ。ずっと言わないでおこうと思ってたけれど、私絢斗のお母さんから結婚しないでほしいって言われていたわ。」
それは陽菜さえ知らなかった事実だった。
陽菜は七海が親の介護をしながら、結婚のことで悩みどれだけ辛い思いをして過ごしてきたのだろうと目頭が熱くなった。
「俺の母さん、七海にまでそんなこと言ってたのか。」
「ねえどうして私にそれを直接教えてくれなかったの?絢斗こそ、辛い思いをしてきたのにどうして私に何一つ言ってくれなかったの?私達隠し事をして、本当に幸せになれる?絢斗は幸せになれないと思ってるなら、それが答えなのね。」
感情的に叫ぶ七海を見るのは、陽菜は七海に出会って15年初めてのことだった。
七海は顔を真っ赤にしながら席に戻り、カクテルグラスを一気飲みした。
「圭くん、テキーラショットでちょうだい。」
「七海、それはまずいって。」
「圭くん、テキーラショット陽菜にも。陽菜、今日は一緒に飲みましょう。そして絢斗。もう話は以上だから、出て行って。」
「七海…。分かったよ。」
絢斗はまだたくさん言いたいことがありそうな顔だったが、惜しみながらも尚早にバーホワイトを去って行った。
穏便に二人の幸せな未来を語り合うと思っていたはずなのに、どうしてこんなことになったのだろう。
陽菜は呆然としていたが、顔色を変えなかった圭は全てを知っていたのかと陽菜は悟った。
そして陽菜は意を決して七海のテキーラショット飲みに付き合い、泥酔したのであった。
泥酔した二人は早めに控室に運ばれた。
七海は結局心配して戻ってきた絢斗に連れられて家に帰って行った。
陽菜はもちろん圭の帰りを待ち、バイクに乗って帰ったのである。
そして陽菜は家に帰ると圭が注いでくれた水を飲みながら、ソファーで圭と対峙した。
「圭、口止めされてたのかもしれないけど。どうして教えてくれなかったの。絢斗のお母さんのこと。」
「はるちゃんにはやっぱりバレてたか。一応バーテンダーにも守秘義務があるからね。」
「それでもそんな大事なこと、圭だって背負いきれなかったでしょ?」
陽菜が感情的になるほど心配したのは、秘密を抱えていた圭に対してであった。
そんな陽菜の叱咤激励に、圭は体を抱き寄せ背中を摩った。
「はるちゃんだって背負い込みすぎてた。前に言ったよね?共倒れはよくないって。」
「それは圭だって…。」
「じゃあ約束する。これからは二人で抱えていこう。」
圭は陽菜と向き合い、小指を出して約束をしようとした。
陽菜はその指に手を重ね、ソファーにそのまま押し倒した。
「約束だからね。」
「うん…。」
そして陽菜はそのまま、圭の胸の上で寝てしまった。
圭は顔が真っ赤になり動悸がし、その夜はまともに眠れなかった。




