1-2『歪な研究所』
二人は白い通路を歩く。
通路の両脇には牢屋に備えられる動像のように部屋が存在し、その中では金属の蛇が天井から垂れ下がり被験体達から素材を調達している。
「……チッ」
:壁:に備えられた硝子の中はいつになっても見慣れない。
……その中の一つに少女型の樹の妖精が被験体として活用されている部屋がある。
「ーーっ!!」
樹の妖精は天井に備えられる:鉄の触手:により無理やり腋を挙げられていた。
そしてその先端にある小さな刃物で腋を斬られ、
そこから滴る青色の樹液を密着している:透明な壺:に流し込まれている。
彼女は羞恥に染まりながらも『緑色の魔法』を発動させた。
……展開された陣を中心に彼女の肉体の一部が肥大していくのが分かる。
その際彼女の視界はルージュ達二人を捉えた。
「っ!!」
怒りに顔を滲ませながら歪な大きさになった腕を振り払う。
振る時に触手も薙ぎ払われ残骸は地面に落ちた。
それはけたたましい音を立てながら透明な壁に激突するが頑丈過ぎた為ヒビを入れる事すら叶わなかった。
間髪入れず穴が空いた地面から別の触手が現れた。
それは刃物を持つ型では無く針が先端にある型だった。
触手は暴れる少女型の暴走体を抑えつけると、
下半部に沈静化させる薬を打ち込んだ。
そして少女は眠りに入った。
……これからの彼女の行く末を案じてならない。
触手を壊してしまった彼女の末路は悲惨な物になるだろう。
彼女は償えきれない罪を犯してしまった。
締め付けられる感情を抑えるように左胸に手を当てると懐に仕舞ってあるであろう『木の板』が脈動している事に気付いた。
それに手を掛けようと指を入れたら横に居たアリスが平坦な声を掛けてきた。
「考えても辛いだけだよ〜?」
ベールと仮面で表情こそ分からないが心配してくれているのだろう。
そう言われ触れかける指を仕舞いつつルージュは今一度暴走した少女を見た。
少女らしいあどけない寝顔があった。
次第に騒ぎを察知した複数の超高性能な動像が部屋に入ると掃除をし始め、担架を持った二体が少女を運び出した。
そんな様子を神妙な面持ちで見ているとアリスがルージュの手を握り歩き出した。
そして怒気を含んだ声で戒められた。
「……余り見惚れないで下さい。時間がないんですから」
「……ああ。すまない」
ルージュは釈然としない思いを抱えながらもそれを無視し先導された。
……そして研究所の最奥地へと辿り着いたのだった。