天下布武異世界デアルカ
戦国時代展に展示物を輸送中だったトラックに轢かれ、飛ばされた戦国時代。
しかしそこは俺の知っている戦国時代とは別物の世界だった。
何が別物って、武将たちが全員美少女になっていたんだ。
山中で道に迷っていた俺を救った美少女は自身を織田信長と名乗った。
何でも今から決死の特攻を仕掛けるべく、今川軍の本陣を探しているんだとか。
颯爽と駆け抜けていく馬上の彼女に俺は叫んだ。
敵は桶狭間に在り、と。
~NPCアクターズスクール~
「ねえねえ! お兄さん!」
箱が呼びかける。
「どうしたハコ。 今動きが取れん状態なんだが」
箱の声には切羽詰まった焦りの色がありありと浮かんでいるが、下手な対応は採れない。
さてどうしたものかと、騎士は突き付けられた銃口の一つを見つめた。
ラノベリオン世界に数多く存在するNPC。彼らはそれぞれ生まれ持った個性、または経験で培った個性をベースとしてNPC活動している。
しかし昨今のキャラクタ性重視の風潮において、主人公がNPCに求める個性は日々日々過激化を辿っており、NPC個々での演技力では追いつかないことが問題化してきた。
そこで運営NPCは極端な役作りを必要とするキャラクタに関して特別施設を作り、適性の認められる一部のNPCをそこで学ばせることにした。これがNPCアクターズスクールの始まりである。
街の一角に建つその建物は風景を損なわぬよう、また下手に主人公の興味を引かぬよう、一般的な集合住宅のような外観をしているが、中は木造校舎のようになっている。
「出来れば助けて欲しいんだけど!」
「だから俺も動きが取れんと言っているだろう」
「なんでわたしたち襲われてるんだろう?」
「迂闊だったな。 まさかここまでとは」
特別施設の中、ある教室前の廊下で騎士と箱は思わぬ襲撃を受けることとなった。
ここの女生徒と思わしきNPCたち数名が教室から飛び出し一斉に襲い掛かって来たのだ。騎士は四方から火縄銃の銃口を突き付けられて身動きできず、箱は生徒の一人が繰り出した日本刀の斬撃を上蓋でなんとか受け止めたまま押し合い状態となっている。教室内を見渡すが昼休みなので残念ながら教官らしき姿は見当たらない。
「どうしよう! 蓋がメリメリ切られてるよう! 何なのこの刀!?」
「なるほど。 それは”押し切り長谷部”という名刀だ。 その昔・・・」
「御託はいいから何とかしてよお兄さん!」
刃が上蓋にめり込んでくる光景をその内側から目の当たりにし、箱の悲鳴が涙交じりになっていく。
どうしたものかと一瞬考えたのち、騎士は彼女たちに用件を打ち明けることにした。我々はただ単に荷物を届けに来ただけなのだと。
本来であれば荷物の受け取り主以外に喋ってしまうことは守秘義務違反なのだが、騎士の身体どころか荷物までもが火縄銃で蜂の巣にされてしまうとただでさえ安い報酬がさらに減ってしまう。荷を守るための対処と言えばわかってもらえるだろう。
「うぬらはなんぞ」
騎士の思考に先んじて、取り囲む女生徒のうちの一人が口を開いた。長い黒髪と鋭い眼光が印象的な美少女だ。さすがこのクラスの生徒だけあって、その美しい顔にも威厳がにじみ出ている。
「荷物を届けに来た。 君たちの教官宛てだ」
「なっ・・教官殿!?」
騎士の言葉、特に後半部分は効果てき面だったようで、ざわっと一瞬のざわめきの後、取り囲んでいた銃口が一斉に降ろされる。箱と押し合いしていた女生徒も態度を一転、深くめり込んだ名刀を上蓋から引っこ抜こうと悪戦苦闘していた。
ここはNPCアクターズスクール”織田信長”課の教室。
かの戦国武将”織田信長”をモチーフとしたヒロインNPCを育成するための専門クラスである。
内容:荷物の宅配
職場:NPCアクターズスクール
時間:指定
報酬:五千GP
特記:なし
教師宛ての荷物なのだから職員室に持っていくべきだったのだが、最近ようやく戦国武将の勉強を始めた箱が授業風景を覗きたいと言い出したために教室に寄った、そんな場面での一騒動だ。
ようやく身の安全を確保しながらも騎士は心の中で唸った。なるほど演技指導が行き届いていると。
ざっと見渡すだけで黒髪やら赤髪やら金髪やら、色とりどりの髪色を思い思いの髪型にまとめた個性豊かな面子だが、どの生徒もテンプレ通りの信長キャラを身に付けているらしく、素晴らしい狂気と手の早さだった。
そしてその名を聞いただけで彼女らが引き下がったところを見ると、教官も噂通りの人物なのだろう。
それに引換え、我が相棒の迂闊さはどうにかならんのかと頭を痛ませる。
「なんだ。 ここの生徒みんな女の子じゃん」
第六天魔王”織田信長”役のクラスだと聞いて、野性味に溢れる威厳に満ちた男性NPC集団だと勝手に思い込んでいた箱が教室を覗いて発した失言。それが女生徒たちを激高させるトリガーとなったのだから、間違っても彼女たちに文句を言うつもりは無い。彼女らもまた主人公の要望を叶えるために勤めている点では、騎士たちと何ら違いは無いのだ。
敢えてこの騒動において誰かに文句を言うのであれば、騎士の責めるような視線にも気付かず、蓋の傷を検めている隣の相棒か。
「うええ! 蓋がめっちゃ傷付いてる!」
「ハコ。 その刀傷は自前で修理しろ。 俺の保険は使わせん」
「えええ! なんで? 高くつくじゃん!」
「それは・・・」
自業自得だと返そうとした、その時だった。
出かかった騎士の言葉は、固唾と共に喉に落ちていく。
ガシャリ、ガシャリ
甲冑を身に付けた時独特の足音など聴き慣れているはずなのだが、音が鳴るたび背筋が凍る錯覚に見舞われる。
廊下の反対側から近付くその気配が、箱の背中越しに見えるあまりにも異質な存在感が、目を背けることすら許さない。
朱が指したように輝く眼光と、茶筅に纏められた髷。
騎士と大差無い体格に南蛮甲冑を着込んだその男は、黒い霧のようなものを曳きながらやって来た。校舎の窓から差し込む晴天の光さえ遮られている。
長い廊下を悠々と歩いて来たはずなのだが一瞬で距離を詰められたように感じるのは、恐らく気圧されていたからだろう。
二人を取り囲んでいた女生徒たちはあっという間に教室内に飛び込んでしまったらしく、気付くと廊下には騎士と箱がたたずむのみ。どうやらこのクラスの教官に違いないその男は、騎士の前まで来ると眼光をギラリと光らせた。
「うぬらはなんぞ」
同じNPCであるはずの教官が放つ威圧感に、思わず片膝をつき座礼しそうになる。本物とはこれほどのものかと舌を巻きながらも、騎士はなんとか踏ん張った。着くべき左足には教官の威容に腰を抜かした箱がすがり着いているのだ。未だ頼りない相棒に、情けない姿を晒したくはない。
「教官殿か。 注文の荷物を届けに来た」
なんとか平常を装い、用件を吐き出す。
その途端に、教官の周囲を取り囲んでいた黒い霧が薄くなり・・・
「で、あるか」
その一言で騎士を押し潰さんとする重い空気が嘘のように消えてしまった。
いや、消えてしまって初めて、今まで空気に押し潰されそうだったことに気付いたというのが正しい。
言葉を発した教官がニヤリと笑う。目は鋭さこそ失わないものの、先ほどまでの威圧感は無く、指していた朱色も影を潜めている。
どことなく悪戯を成功させた悪ガキが勝ち誇ったような表情だと騎士は感じた。
「すまんな。 この役どころは初手の衝撃力が肝要でな」
そう言って教官は豪快に笑う。
騎士が感じたものはどうやら的中していたらしい。
万感の意味を込めて、騎士は小さくため息をついた。
~NPCアクターズスクール 教室内~
「首を刎ねい!」
「「「首を刎ねい!」」」
教壇に立つ教官の発声を追って、二十名ほどの少女たちが声を上げる。
掲示板に張り出された時間割によると、”織田信長”課昼一番の授業は決め台詞の練習らしい。ちなみに午前中は歴史と軍略の授業が一単元づつあり、この後は幸若舞『敦盛』のレッスン、茶道の実技講習と続くようだ。
既に終わってしまった午前中の授業内容に興味を引かれながらも、騎士は教室の後ろで彼女らの授業風景を見守った。
あの後騎士は荷物を渡そうとしたのだが、あいにく教官は受け取り印となる花押型を持ち合わせていなかった。職員室に保管しているらしいのだが、今から取りに戻ると授業開始に間に合わない。
「模範となるものが規則を破る訳にはいかぬ」
悠然とそう告げる教官であったが、騎士にも異論はない。
どちらかと言えばいざこざを起こして時間を浪費した騎士たちに問題があるのだから。あれがなければ昼休み中に受け渡しが済んでいたことだろう。
こうして受け取り印を貰うため一時間ほど待つことになった騎士と箱は、どうせだからという教官の誘いで授業を見学することになった。戦国武将を勉強していると豪語する箱が興味深げに教室内を見回しているのが目に付いたのだろう。提案する教官の顔は、やっぱり悪ガキのような表情であった。
「鉄砲三段撃ち、放てぇい!」
「「「鉄砲三段撃ち、放てぇい!」」」」
「おい貴様、眼光が足りん。 もう少し眼力を籠めよ」
「はい! 了解しました!」
教官が個々に指導を与え、女生徒たちはそれにハキハキと応える。
やはりこういう場でも統率力はものを言うものだ。
感心しながら参観していた騎士であったが、隣に座る箱に二の腕をトントンと叩かれる。
「ねえねえお兄さん。 今のって変じゃない?」
そう問いかける箱の顔は、何かを言いたくてうずうずしている様子が見える。
騎士は嫌な予感が脳裏を過ぎり、敢えて彼女の疑問を封殺することにしたのだが。
「授業中だ。 静かにしていろ」
「鉄砲三段撃ちってホントは無かったんでしょ? わたし勉強してるから知ってるよ」
喉元過ぎれば熱さ忘れる。騎士の封殺は意味を成さなかった。先ほど下手な失言で女生徒に襲われ上蓋を刻まれた経験は、能天気な頭には刻まれていないらしい。
この場において迂闊に過ぎる失言を、かつて魔王と呼ばれた男は当然聞き逃しはしなかった。
折りたたまれた扇子で教壇をバシンと一打ち、教室全員の視線を集めると教官は口を開く。心なしか背後に背負う黒い霧が復活しているようだ。
「ほう。 もう一度言ってみろ箱娘」
「へっ?」
思わぬ言葉に箱が目を丸くする。
「三段撃ちがまやかしだと抜かすか。 なかなか面白いことを言う」
「ひっ、あ、いや、それは・・・あはは」
向けられた眼光は、廊下の時のように鋭く冷たい。
巨大な氷塊に押し潰されるような錯覚に、箱は思わず蓋を閉じて引きこもってしまった。それでも刀傷から外の様子を覗っているところを見ると、そのままにしておく方が意外に便利なのかもしれない。
そんな箱の脅えなど意にも介さなかったらしい。教官は鋭さを保ったままの視線を、女生徒たちへと向けなおす。
「さて小さな客人からの有難い意見だがどう思う? 貴様らの採るべき見解を述べよ」
教室が一瞬ざわめく。
とは言え周囲の様子を伺う女生徒が一人も居なかったのは、流石といえば流石であろうか。
すぐさま教室最前列右端の席に座る、恐らく出席番号一番であろう女生徒が起立して答えた。
「最新の研究では三段撃ちの運用自体が不可能という実験結果が出ています」
「ほう。 それで」
「ですから私は、後年の創作であるという説が正しいと思います」
「で、あるか。 わかった」
教官の言葉に、女生徒は安堵して着席する。
まかりなりにも織田信長に関する知識は女生徒各自が研究しているのだろう。続く二番三番以降もほとんどが同じような”鉄砲三段撃ち”を疑問視する意見であった。
二十人の女生徒に一通り聞き終わると教官は小さくため息をつき、ふと教室の後ろに控える騎士へと話を向けた。
「客人よ。 無作法で済まぬが届けに来た荷を渡してくれぬか?」
「む、この荷物を?」
「うむ。 どうも我が生徒らは最新の研究とやらを好むらしい」
教官の要請に、騎士は迷うことなく席を立った。
女生徒たちの席を抜けて教壇に向かいながら、胸甲の中から取り出したのは分厚い茶色の紙袋。それを受け取った教官が小柄を使って開封すると、中からはハードカバーの書籍が出て来た。薄い黄土色の表紙に黒字で『織田信長の真実』と題打たれたそれは、出版されたばかりの織田信長に関する学術書である。
「ようもまあ根掘り葉掘りと調べおるものよ」
苦笑いにしてはいささか獰猛な笑みを浮かべつつ、教官はサッと目次に目を通す。パラパラとめくりながら三十秒ほど書籍に目を落としたところで、その記述が見つかったのだろう。改めて女生徒らに戻した視線は相変わらず鋭い。
少しだけ弛緩していた教室の空気がことさら引き締まるなか、
「確かに。 最新の研究でも三段撃ちは否定されておるわ」
その言葉にホッとしたらしく、女生徒らが一堂に胸を撫で下ろす。
教官からすればこのような態度すら矯正対象なのだが、この場は見逃すことにした。目先の小さな利より取るべき攻め手が今はあるのだ。
「そう言えば、一人だけ意見を聞くのを忘れておったな」
敢えてすっとぼけるような口ぶりで、荷物を渡すと早々に教室の後ろへ下がった騎士へと声をかける。
「さて客人よ。 貴様はどう思う」
「む、俺か」
再び飛んできた教官の声だが、荷を渡した流れで薄々魂胆を見抜いていた騎士は動揺することも無かった。
まして聞かれている答えは、夕飯時にでも箱に教えようと考えていた内容だ。
「教官殿は”採るべき見解”を問われた。 我々NPCにとっての正解は全て主人公次第だ」
即答した騎士の答えは、敢えて少し解りにくくしたものだった。
箱に言って聞かせるならともかく、女生徒たちの背中を崖下へと突き飛ばすような嗜虐的趣味は持ち合わせてはおらず、もっと言えばそれに相応しい、相応し過ぎる人物が教壇で牙を研いでいるのだ。
「で、あるか。 正鵠だな」
その言葉は、今までで一番重々しく放たれた。
女生徒らに放たれる眼光も、先ほどから一転、鈍く重い。
まったく何種類の眼光を使い分けるのだと騎士は驚きつつ着席した。予定外の役割はもう終わったのだ。
「貴様ら、三段撃ちを好む主人公にも、先ほどの高説を垂れ、否定するのか」
「・・・!!」
「貴様らは歴史学者にでもなるのか? ならばこのクラスには不要であるな」
「・・・・・・」
ピシリと擬音が聞こえるように、張りつめた空気にヒビが走る。
流石に信長課に選出されるだけあって女生徒らの理解力は高いようだ。自分たちの思い違いを察したらしい。求めるべきは歴史的に正しい織田信長ではなく、主人公が理想とする織田信長なのだと。
まして特別教育を受けた女生徒らは、遅かれ早かれ最上位クラスのヒロインNPCとして配属される身だ。より一層の立ち振る舞いが求められる立場に、正しい歴史感も下手な先入観も無用の長物でしかない。
しんと静まり返った教室。女生徒らは身じろぎ一つしない。聡明な彼女らのこと、己らの犯した過ちを噛み締めているのだろう。
その空気をことのほか満喫したところで、ようやく教官は口を開いた。表情はまたしても悪ガキモードだ。
「まあよい。 この辺りの話は貴様らにはまだ早かったかもしれん。 追々身に付けよ」
教官の言葉に再度教室内の空気が少し弛緩し・・・
「さて、ここからが本題だが・・・」
自ら作ったその好機を、教官は当然見逃しはしなかった。
「箱娘でも気付くような疑問が、なぜ貴様ら"織田信長"課の生徒から出てこなかったのか」
ヒビが入っていた空気が、粉々に砕け散る。
「よもや信長ともあろうものが、人の顔色を伺っていたのではあるまいな」
黒い霧が立ち込める教室内に、浮かぶ女生徒たちの表情は蒼い。
よくもまあこれほど緩急を付けて相手を翻弄するものだと、状況を見渡しながら騎士は舌を巻いた。
箱が疑問を口にしたのはただ単に後先考えない迂闊な性格によるものであり、それを女生徒らに求めるのはいささか可哀想とも思うのだが。
「ねえねえ、お兄さん! もう教室出ようよ! 心臓に悪いよう」
さっきから場の雰囲気に併せて出たり入ったりしていた箱が、おどろおどろしい空気にとうとう泣き言を言い始めた。
なんとも思わぬ発見だ。自分にも嗜虐的な部分はあったようだと感じながら、騎士は答えた。
「三段撃ちの三射目はこれからだろう。 これを見ずに何を見るんだ」
~NPC派遣センター地下食堂~
「えっ!? 本人てどういうこと!?」
「そのままの意味だ。 あの教官こそが第六天魔王”織田信長”その人だ」
噛り付いていた肉から口を離す箱の顔は、やはり驚きに満ちていた。
「なんでそんな人がラノベリオンにいるのさ!?」
「良くは知らんが神官のNPCが復活させたらしい。 信長課には最適の教官だろう」
魔法に関しては門外漢である騎士にとってその辺りは詳しくない。知人のNPCから聞いた話をそのまま教えた。それを聞いた箱はしばらく云々と唸ったのちに何かを思いついたらしい。いつぞやの失言の時と似たような表情を浮かべた。
「あ、嘘でしょ! だって信長本人が自分の研究書を取り寄せる訳無いじゃん!」
「いや、紛れも無い本人だ。 恐らく研究書は、自身を見直すためのものだろう」
「え? なんでそんなことすんの?」
「自分をモデルに作られたと言って美少女がわんさと送られてみろ。 屈指の戦国武将といえど自分を見失うものだ」
騎士の説明に箱はぼんやりと想像を膨らます。
逆転の立場で例えるとして、箱をモデルにしたキャラが揃いも揃ってむくつけき益荒男だったとしたら。なるほど流石に自身を見つめなおしたくなるかもしれない。少なくとも姿見で容姿の確認くらいはするだろう。
減衰する食欲に手に持ったままの肉を皿に戻し、ウンザリしながらも予定の開いた口を開く。
「大体さ、なんで死んだ人がホイホイ生き返ってるのさ。 そんな簡単なもんなの?」
「いや、俺たちNPCと違い、人を復活させるのは難しいらしいのだが・・・」
これまた知人から聞きかじった知識を思い出しながらもグイッとジョッキを一煽り、一拍置くと騎士は言った。
「放っておいても復活するらしいぞ。 とりわけ”魔王”という連中だけは」
三列目で銃を掃除し、二列目で弾を籠め、最前列で射撃するとまた三列目に下がる。
鉄砲隊を三列に分けて随時入れ替えることで、次弾発射まで一分近くかかるという火縄銃の欠点を補うのだ。
これによって絶え間ない射撃を加えることが出来る上に、次弾発射までの隙を狙って押し寄せる敵兵を一網打尽に出来る。
俺が教えたこの秘策に、信長は美しく勇ましい表情をピシリと凍りつかせた。
聡明な彼女のことだから、その威力をすぐさま理解し絶句しているのだろう。
いつもは唯我独尊の彼女が蒼ざめるのを眺めながら、こういうのもたまには悪くないと俺はほくそ笑んだ。




