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転生魔王の一刀両断剣

魔王として世界征服に乗り出した俺は、憎き勇者に敗れ無念の死を遂げた。

最後の魔力を振り絞って転生したところ、生まれ変わったのはなんと人間の身体。

魔力はおろか腕力も体力も貧弱な状態では何をやるにも話にならない。

召喚装備”魔刃ラグナロク”すらも変わり果て、鈍らのポンコツ刀になる始末だ。

再び力を取り戻すため三歳から身体を鍛えた俺に、ある日勇者小学校の推薦が来た。

魔王が勇者を演じるというのもなかなか洒落ていて一興というものか。

こうして勇者小学校に通うことになり、個性豊かな友達、もとい下僕共を作ったころ、初めての遠足が行われることとなった。場所は街の近くの初心者ダンジョン。

諸事情によって集合時間に遅れた俺は、下僕共を追ってダンジョン入り口にやって来たんだが、様子がおかしい。

言い知れぬ妙な雰囲気が入口から漏れてやがる。

とてつもなく強大なモンスター特有の殺気が。

俺は”魔刃ラグナロク”を召喚すると、ダンジョンへと突入するのだった。

 ~特設ダンジョン ボス部屋スタジオ~


「ねえねえ、お兄さん!」


 箱が呼びかける。


「どうしたハコ。 仕事は順調か」


 モルタルを壁に塗りつける、その手慣れた作業を止めることなく騎士は応えた。

 特設ダンジョンのボス部屋、通称”魔王の間”は毎度毎度に激戦が繰り広げられることから、内壁のあちこちに刀傷や魔法による焦げ跡が残っている。

 しかしその一つ一つを削り取り新しいタイルを張り付けてやれば、また元の禍々しくも美しい幽玄の空間に戻ることだろう。

 身なりの割にこういった作業を好むようで、騎士の機嫌がいつもより良さそうだと箱は感じた。


「ええとねえ。 この灰色のケーブルはどこに持ってけばいいのかな」


 箱が押す台車には何重にも巻かれてまとめられたケーブル線が乗っかっている。

 必要な部材を必要な場所へ運搬する重要な仕事だ。間違う訳にはいかない。

 騎士は作業の手を止めると、作業台の隅に広げられた全体施工図を覗き込んだ。


「VVFケーブルのD-⑬番か。 向こうの燭台用だな。 あの電飾担当に渡すといい」


「りょーかーい。 じゃあ行ってくるね!」


 ゴロゴロと台車を押して、箱はボス部屋の一角へ走っていく。

 ひょっとすると宝箱状の下半身の裏には、台車と同じようにキャスターが付いているのではないか。

 そんな思い付きをさっさと捨てると、騎士は左官作業に戻った。


 内容:ボス部屋スタジオの補修・設営

 職場:特設エリア

 時間:一日

 報酬:一万GP

 特記:建築技能者の優遇有り


 特別なイベント用に使われる数種類の特設エリアの中でも、特に使用頻度の高い特設ダンジョン。

 その中でもボスとの決戦シーンを演出するために解放されるのがボス部屋である。

 雰囲気を醸し出す凝った内装や舞台装置が備えられているこの部屋は、使用予定が入るたびに徹底した補修作業が行われる。

 そして騎士が自前の大工道具一式を持参してまで請け負った本日の仕事であった。




 ~特設ダンジョン ボス部屋スタジオ~


「ああ~、疲れたねえ。 お腹すいちゃったよう」


「そうだな。 少し早いが食堂に行くか」


 突貫工事で進められたスタジオ設営作業は予定よりも早く終わり、二人も撤収準備を始めた頃。

 不意に入り口付近が騒がしくなり、ボス部屋の大きな扉をくぐって巨大な檻が運び込まれた。

 檻の中には真っ赤な鱗が光沢を放つ、見事な飛竜が入れられている。


「わわっ! お兄さん見て見て! でっかい竜だよ! 凄いねえ」


「天然ものの見事な飛竜だな。 あれだけの個体を用意するとなると相当の対価がかかるはずだ」


「ひょっとしてあの竜が今回のボス?」


「台本によると、そのようだな」


 目の当たりにした巨大な飛竜に興味をそそられたのだろう。

 箱は仕舞った荷物をごそごそと漁ると、仕事の設営資料を引っ張り出した。

 どうやらろくに目も通していなかったようで、表紙に折り目すら付いていない。


「あ、これって”てんいち”の仕事だったんだ! なんだよもう、教えてよお兄さん!」


「なぜ俺が文句を言われるのかも疑問だが、まず”てんいち”とは何だ?」


「”転生勇者の一撃必殺剣”ってタイトルあるでしょ? 結構有名なやつ」


 箱が口にしたタイトルには聞き覚えがあった。

 確かトラックに轢かれて異世界転生した青年が、どんな敵でも一撃で倒せるチート剣で成り上がり、勇者として活躍する話だったはず。


「ああ。 結構有名な作品だが、少し前に完結していたはずだ」


「続編が出たんだよ! 前作で倒された魔王が主人公ってお話の!」


「なるほど。 それが今作”転生魔王の一刀両断剣”という訳か」


 スマッシュヒットを飛ばした前作から引き継いだ潤沢なGPを今作につぎ込んでいるのだろう。

 ラノベで例えるならば強くてニューゲーム、または二週目と言ったところか。

 聞き覚えの無い作品が特設エリア”魔王の間”や天然ものの飛竜を用意出来た理由に、騎士はようやく得心することが出来た。


「では帰るぞ」


「ええ~!? この後”てんいち”の撮影なんでしょ!? 見ていこうよ!」


 今度こそ帰路に付こうとする騎士だったが、箱が駄々を捏ね始める。

 話しぶりからすると愛読している作品なのだろう。

 その山場が今からこの場所で繰り広げられるとなると、見学したいというのも解らない話ではないのだが。


「スタッフの邪魔になる。 それに無駄な残業は非効率的だ」


「この後予定無いじゃん! お願いだよう。 大人しくしてるから見ていこうよう」


 ボス部屋で主人公(プレイヤー)と飛竜が一騎打ちをするこの場面。

 主人公(プレイヤー)視点では二人っきりの戦いに見えるが、実は舞台裏や天井裏には多くのNPCがスタッフとして作業を行っている。

 多大なポイントを支払ったお得意様に最高の場面を提供するため、そして人気作の続編たる”転生魔王の一刀両断剣”をより盛り上げるため、万が一でも失敗は許されないのだ。

 そんなNPCたちの中に、まかりなりにも仕事に来た騎士と箱が残っていたとしても誰も咎めはしないだろう。

 しかしこの場に残るメリットは薄く、起こりうるデメリットは次々に想定される。

 さて、どうしたものかと思案する騎士の耳に、その名を呼ぶしゃがれ声が聞こえて来た。


「おう、そこにいるのはモブイチじゃねえか。 久しぶりだなオイ」


「む、その声はタテイタ殿。 ご無沙汰している」


 声のする方を振り返ると、やって来たのは真っ白な白衣に帽子、前掛けを身に付けた料理人のような中年NPCだ。

 飛竜の檻に付き添うかたちでスタジオ入りしてきたモンスター班のスタッフらしい。

 気難しそうな顔に、威嚇にも似たような獰猛な笑顔を浮かべている。

 何よりも目に付くのは、広い背中に負われた日本刀のような包丁だろう。


「お前さんもこの仕事場だったのか。 奇遇だなあオイ」


「そうだな。 とは言え我々はもう引き上げるところだが」


「相変わらず連れねえやつだ。 まあ、また今度一杯飲もうや」


 そう言って騎士の背中をバシバシ叩くと、白衣の男は檻の元へと帰っていった。

 ガハハと豪快に笑いながら背中越しに手を振る仕草が、妙に渋さを醸し出す。


「ねえねえお兄さん。 あの人だれ?」


 白衣の男を見送る騎士の手を、箱が引っ張る。

 この場には特に似つかわしくない出で立ちの男に興味を曳かれたのだろうか。


「あの男はタテイタ殿。 一流の包丁人NPCだ」


「え、なに? 料理する人? 美味しいもの作れるの?」


「違う。 料理人ではなく包丁人。 包丁捌きの達人だ」


「なに言ってるのかさっぱり解んないよ」


 クエスチョンマークを浮かべながら箱が頭を抱える。

 最初から説明するのはとても面倒だが、相棒の経験と知識になるのであれば。

 今後のためには仕方がないと諦めて、騎士は手短に説明するのだった。


 ラノベリオン世界においてゲームを進めれば貯まるGP、または課金することで手に入るRPを消費すれば、特別な舞台や強力な敵を用意することが出来る。

 今回で言えば初級ダンジョンの中になぜかボス部屋を発見し、飛竜が出現するという展開だ。

 そしてさらに各種ポイントをつぎ込めば、そのバトル展開にまで注文を付けることすら可能になる。


「ところでハコ。 台本は読んだのか」


「ついさっきだけどね。 最新作を読めたような、ネタバレ喰らったような変な気分だよ」


「では、今回はどんな話が展開されるか説明できるか?」


「ええと、主人公が隠しボス部屋見つけて、一発で竜を倒す、感じかな?」


 読んだというわりには大雑把で、何故か疑問形で締めくくられた箱のたどたどしい説明。

 正しい展開は、封印されていたボス部屋で飛竜に遭遇するが、ボス部屋に蓄積されていた魔力を吸収し一時的に力を取り戻した”魔刃ラグナロク”によって飛竜を一刀のもとに切り伏せるというものだ。

 もちろん課金主たる主人公(プレイヤー)から要望された内容である。

 相応の課金するか作品をヒットさせれば、書き手が望むストーリー展開に可能な限り融通を利かせるというのがこのラノベリオン世界の基本的スタンスなのだ。


「大筋は合っている。 ところがそれが問題でな」


「え? どういうこと?」


「あの立派な天然ものの飛竜、実際に一撃で倒せると思うか?」


「あ、そういうこと」


 二人そろって檻に目を向ける。

 その中の飛竜はダンジョンに入るサイズとは言え、屈んだ状態も三メートルはありそうだ。

 檻から出されて直立した場合、高く設計されたボス部屋の天井近くまで頭が届くかもしれない。

 さらにその逞しく発達した巨体を、鋼鉄よりも頑強な鱗で覆っているときた。

 この強敵を一撃で倒すとなると、ラノベリオン世界でも有数の廃プレイヤーが課金アイテムの一時強化薬を服用して達成できるかどうかというほど困難な課題となる。

 また、騎士たちのような自我あるNPCであれば手加減や死んだ振りも出来ようが、自動制御で動くモンスターとなるとそうもいかない。


「そこでタテイタ殿の出番だ」


「やっとさっきのおじさんの説明なんだね」


 伝説の包丁人タテイタ。

 彼の役目は、あらかじめモンスターを下処理すること。

 その職人芸たる包丁捌きをもって、主人公(プレイヤー)でも倒せるように体力を削っておくのが仕事である。


「ええ? でもそんなことしたらモンスター弱らない? 死にかけの竜じゃあ絵にならないよ?」


「そこがタテイタ殿の職人芸だ。 モンスターは切られたことすら気付かない」


 その名は秘剣”隠し包丁”。

 背中に負いし日本刀のような包丁は伊達ではなく、得物を捌く速度は瞬くほど鋭く短い。

 生け作りにされたリヴァイアサンが捌かれたことに気付かず、頭と骨だけで海を泳いだという逸話は、業界内ではあまりにも有名である。


「はええ。 いろんな仕事があるんだねえ」


「全ては日々の積み重ねだ。 ハコも見習ってもう少し仕事熱心にだな」


「あのでっかい包丁、カッコいいねえ! お兄さんももっと良い武器買ったら?」


 お説教になりそうな雲行きを察知したのだろう。

 さっと話題をずらした箱の話術も、職人芸と言えばそうかもしれない。

 見習い職人程度の小手先芸に呆れ半分で騎士は返した。


「あの包丁は職人道具だが、武器は所詮消耗品だ。 俺の場合はこっちだろうな」


 そう言って右手に持った工具箱を挙げて見せる。

 中に納められているのは、長年愛用している自前の大工道具一式だ。

 いずれ買い替えなければならない武器よりも、使えば使うほど手に馴染んでくる道具にこそ金をかけるべきだというのが騎士の持論であった。


「おおい! モブイチぃ! ちょっと手を貸してくれや!」


「お兄さん、さっきのおじさんが呼んでるよ?」


 檻の近くへと戻っていったタテイタから大きな胴間声が飛んできた。

 そろそろ飛竜を調理し始める段取りのはずだが、何かあったのだろうか。

 二人は顔を見合わせると、モンスター班スタッフの元へと向かった。

 檻の中には処理前の飛竜。そして横の作業台ではタテイタが台本を睨みつけている。


「タテイタ殿、なにかあったのか」


「ああ、ちょいと難儀しててよお。 おめえさん、計算は得意か?」


「計算? さして得意とは言えないが」


「まあとにかく、こいつを見てくれや」


 タテイタが騎士に押し付けたのは、モンスター班用の台本。

 サッと目を通したところ、当然ながら騎士が持っているスタジオ設備班の台本とは中身が違う。

 タテイタと二人そろってしばらく打ち合わせをしたのち、騎士は相棒を振り返った。

 箱は間近で飛竜が見れたのが嬉しいらしく、檻の周りを行き来していたところだ。


「おいハコ。 数字の計算は得意だったな」


「え? そりゃあ一応ね。 お金の計算とかなら得意だよ」


 人食い箱の亜種であるモンスター娘が胸を張る。

 道理の計算は苦手だが、数字の計算ならお手のもの。

 箱が自慢とするところだ。


「でも、なんの計算すればいいの?」


「ダメージ計算だ。 主人公(プレイヤー)の一撃がどれだけ叩きだすのか予測したい」


「頼むよ嬢ちゃん。 飛竜の体力をどれだけ削ればいいのか、今回は特に難しくてなあ」


 厳つい顔に申し訳なさげな表情を浮かべてタテイタが説明する。

 低レベル主人公(プレイヤー)が高レベルの飛竜を一撃で倒すストーリー上、可能な限り飛竜の体力を削らなければならない。

 そのわずかな残し幅を、普通であれば事前情報と職人経験で割り出すところなのだが、今回はその事前情報が特にややこしかった。


「じゃあ竜の体力を残り一ポイントまで削ったらどうかな?」


「そりゃあ駄目だ。 風が吹いただけで死んじまう」


 タテイタが指さす先には、ボス部屋の壁に備え付けられた大型ファンがあった。

 本来風など吹くはずの無いダンジョンで、雰囲気作りのために砂塵やドライアイス煙を巻き上げるための舞台装置である。


「そういう訳だ。 情報を読み上げるから計算してくれ」


「本当に面目無え。 礼はするからよう嬢ちゃん」


「わかったよ。 やってみるね」


 一流の職人が素人に意見を求めるのはきっと恥に違いない。

 それでもタテイタが恥を忍んで二人に助けを求めたのも、一流の職人だからなのかもしれない。

 そんなことを薄ぼんやりと感じていると、騎士はさっそくとばかりに情報を読み上げ始めた。

 箱は慌てて頭をダメージ計算に切り替える。


「主人公は六歳の少年。 同年代では強いほうでおよそ十二歳程度の身体能力だ」


「ふんふん」


「装備の”魔刃ラグナロク”は封印状態で、本来の二%の攻撃力しか出せん」


「ふんふん」


「所持スキルの”初級剣術”によって、剣の攻撃力が十%上乗せされる」


「ふんふん」


「昨晩、秘密特訓をしたことで、腕力が一時的に五ポイント加算されている」


「う、うん」


「しかし利き手の血豆が潰れたため、剣の握りが七パーセント弱くなっている」


「うう・・・、ええと」


「そして集合場所に来る途中、馬車に轢かれそうな猫を庇って右足を怪我している」


「ちょ、ちょっと・・・」


「ついでに朝食の牛乳が古かったらしく、腹具合が良くない」


「いや、あの。 だから」


「どうだ、計算は出来たか? もう時間が無いぞ」


 一流の職人が困り果てるには、当然ながら相応の理由がある訳で。

 箱は半べそを掻きながらも、頭をフル回転させるのだった。




 ~特設ダンジョン ボス部屋スタジオ~


 全ての準備を整えた一時間後、とうとう主人公(プレイヤー)がやって来た。

 成り行きで関わってしまった以上、騎士たちも残業し舞台裏から様子を見守る。

 すれ違いざまの一撃で終わる戦闘場面だ。

 照明担当や音響担当、全てのNPCが息を飲む。

 ボス部屋中央では、主人公(プレイヤー)と飛竜が睨み合い・・・。


「ねえねえ、お兄さん」


「あまり声を立てるな。 どうした」


「間違ってたらごめんね? 怪我したのって・・・左足でよかったっけ?」


 騎士の動きは素早かった。咄嗟に手元の工具箱が開かれる。

 主人公(プレイヤー)が怪我しているのは右足。

 箱の問いはすなわち、ダメージ計算が失敗していることを意味する。


「ラグナロク解放!! 奥義! 魔王雷光斬!!」


「グオオオオ!」


 奥義と言うことになっている技を叫ぶ主人公(プレイヤー)と吼え猛ける飛竜。

 ボス部屋の中央で、二つの影が交差し・・・。

 そして倒れるはずの、倒れなければならないはずの飛竜は瀕死ながらも残り体力一ポイントで立っていた。

 事態を誰よりも早く察知した騎士が紫電の速さで止めの攻撃を投擲しなければ、決め顔の主人公(プレイヤー)を背後から火炎ブレスが襲う大失態となっていただろう。




 ~NPC派遣センター地下食堂~


「元気出しなよ、お兄さん。 わたしももう少ししっかりするからさ」


「ああ」


 食事時とは言え、いつも以上に寡黙な騎士を箱が励ます。

 流石に計算ミスの責任を感じているのか、珍しく料理には手を付けていない。


「投げた道具の代金、補填されて良かったじゃん」


「道具そのものが返ってくるわけではない」


 あの時、騎士がとっさに投擲した大工道具だが、その後飛竜から素材を剥ぎ取り始めた主人公(プレイヤー)に発見されてしまう。

 緊急事態とは言え、台本に予定されていないアイテムを放り込んでしまったのだ。

 あわや懲罰案件かと肝を冷やしたが、結果として責任を問われることは無く、それどころか私物補填用の代金に加えて追加報酬まで出ることとなった。

 なんでもあの主人公(プレイヤー)が拾った大工道具にヒントを得て、より物語を発展させたとかなんとか。

 そういう訳で騎士が愛用していた大工道具自体は運営(マスター)権限で徴発され、残念ながら返ってこなかった。


「あの道具、変わった形してたね。 なんていう道具だったの?」


槍鉋(やりがんな)だ。 木材を削るために使う」


「じゃあさ、臨時収入あったんだし、この後それ買いに行こうよ!」


「そうだな、買い物には行こう。 槍鉋(やりがんな)は買わないが」


 落ち込んだ雰囲気を払しょくするためか、いつも以上に弾んだ声で箱が提案する。

 それに乗った騎士だが、再び使い込む予定の大工道具を今日の今日で買うつもりなど無い。

 行きつけの工具屋を何店も回り、納得のいくものを吟味するつもりである。


「え? じゃあ何買うの?」


 当然とも言える箱の疑問。

 騎士はようやく口を付けたジョッキを降ろすと、その疑問に答えた。


「投擲用のナイフに決まっているだろう」

嫌な予感は当たっていた。

まさか魔王時代に飼っていた飛竜が襲ってくるとは。

かなりのピンチだったが、”魔刃ラグナロク”のお陰で事なきを得た。

しかし俺の魔力を辿って来たにしては妙だ。なぜダンジョンの中に飛竜が居た?

真っ二つになった死体を調べた俺は、そこで驚くべきものを発見した。

何かを警告するかのように飛竜に刺さっていたのは、苦無。

こんな特徴的な刃物を使うやつなど、この世界には一人しかいない。

かつての俺の右腕、悪魔忍者ニドヘグルが動いているというのか・・・。

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