狂気に耐える心造り。
「は!?」
「む?起きたか。」
ヒミツが素手で嬲り殺している神話生物を見て起きて早々SAN値が直葬されそうなジャンヌだったがどうにか耐える。
頭を抑えつつもしっかりと二本の足で立つ彼女の姿は今までわからないなりにやって着た成果であるのだろう。
ばシュンと首が吹き飛び鮮血が撒き散らされる。
「や、おはよう。ご機嫌はいかがかな?」
「・・・最悪ね。この場所の空気も、血の匂いも、相変わらずニヤニヤとしたあんたの顔も。」
自分の修練不足も、と彼女の唇が動いたのをヒミツは見なかったことにし、レクチャーを開始する。
「さて、通常狂気への抵抗力を持つのは魔法の使い手、もしくは異界の知識を持つ者、そう言った奴らは常時狂気を見に受け、それを身に取り込んでいる。それに比べると純粋な精神力と魔力によってのみ抵抗しようとするお前さんは異端であり、真っ当な人間だ。」
「そんな御託はいいから、早くしてちょうだい!」
耳鳴りのひどくなってきたジャンヌは脂汗を流しながら顔を歪めヒミツに抗議する。
「オーケーオーケー、話は簡単だ。理解できず、理解しようとするから流れ込んでくる外界の智慧に押しつぶされる。要はあるがままを受け入れればいい。」
俺はそう言ってとりあえずこの周辺にでる神話生物の基礎スペックと大凡の外形情報を集めた思念をジャンヌに送り込む、その全ては本や俺の経験からくる現実として存在する彼らの情報、つまり外界の智慧でもなんでもないただの魔物の特徴である。
ただ、ちょっとミスってほぼ全ての情報を一気に送ってしまったためジャンヌが声を殺して転げ回っていた。調整をミスしたのは俺なのでとりあえず周りの掃除をしてしまうことにした。
「っぐぅ!あああああ!なにすんのよ!頭が破裂するかと思ったわ!!」
何回か気を失っていたが無事に目を覚ますジャンヌ、顔色も随分とましになった。
「オーオー、生きてたか、しぶといね。」
「ったく、こんなとこで死んでられないわよ!・・・あら?普通に歩けるししゃべれるわね?」
「そいつはまずいな、精神浄化!」
さて、再度顔色が悪くなったジャンヌに発破をかけ相変わらず鋭角だらけの牢から少しでた通路に進んでいく。
「言っとくが今回は親玉をとっちめるとこまで行かないとダメだから多少無理やりでも少なくとも神話生物の群れぐらい相手にできるようになってもらうぞ。」
「望むところよ!」
そう言いながらさっきから邪神の領域に当てられて歩みがだいぶん遅い上に本来は狂人を真人間にする位の威力を持つはずの彼女の精神安定の祈りや不撓不屈の奇跡の効きが異様に悪い、恐らく現状を俯瞰する事に慣れておらず・・・ん?というか
「もしかしてジャンヌ、お前「言わないで!わかってるから、聖女の旗がない私が如何にただの村娘かなんて私自身が一番よく知っているから!」・・・あまり大声を立てるな、敵がくる。」
《ヒミツー、これ大丈夫?》
(ちとマズイかもな。)
さて、誤算があった。どうやらジャンヌが聖女の旗と神による加護の通りにくいこの空間ではちょっと力が強いだけの村娘であるということと、思いの外彼女自身の精神力や魔力というのが低いという事である。
(まあ、魔力がないのは俺が聖水を作らせた所為だ。これは俺が魔力の補給をすれば済む、だが、あまりにも精神が不安定すぎる。)
戦闘やスペックに問題はないようでジャンヌは俺の後ろで襲いかかってきたウネウネとした全身が筋肉でできたスライム、どうやらショゴスの失敗作のようだが、を祈りによって強化された身体能力で踏み抜き聖なる焔で焼き尽くしている。
だが目に見えて顔色がが悪くなっていく。
「・・・魔力を分ける。少し止まれ、」
「・・・」
俺が手刀で一閃するのみで消えていく神話生物を呆然と見ながら力が抜けたようにぺたりと座り込むジャンヌ、どうにも様子がおかしい、念のためにとミゼール達を先遣隊として目印や明かりを設置してもらっているのにもかかわらず動きが悪すぎる。
俺が手を取ろうとすると驚いたように振り払い、壁に背をつけるほど跳び下がる。
「・・・・信用しなくてもいいがとりあえず魔力を分けたい、少し我慢してくれないか?」
「あっ・・・その、ごめんなさい。」
どうにもしおらしい彼女にドギマギしながらもその白魚のような血の気の引いた手を取りできるだけ純化し無色にした魔力を流し込む。少々艶っぽい声が出ているが気にしない。
「・・・・よし、これくらいだろう。というか今回はやめてお「絶対やめない。」・・・ふむ、そうか。」
念のためにマーリンと小夜に念話をつなげ外の情報とこちらの情報を共有しておく。なんで次元の裏にいるのかについて色々言われたが俺だってミゼールの兄様に罠にはめられただけである知るわけがない。
『取り敢えずそっちに突入できるのは後2日後、ついでにヒミツの結界のおかげで侵攻が遅れてるとはいえやっぱ総量が違うからじりじり押されてる。一週間で次元の裏がこっちに現出してくるだろうね。』
「オーケー、わかった。こっちはできるだけ探索と安全地帯の確保をしよう。ま、親玉を片付けてもいいんだが・・・」
ヒミツはジャンヌを見る。
「ま、やるだけやるさ。」
『あ、ジャンヌちゃんに手を出したら殺すから!じゃあね!』
・・・そういう意味ではないし、多分傷物にするなという意味だろうがこの迷宮という特殊空間に年頃の男女という組み合わせは危険だよね。
「・・・2日後に冒険者も勇者も全員乗り込んでくる。それまでに君がどうにかなるとは現時点では思えない、それはいいか?」
「・・・ええ、私自身旗や防具の精神安定に頼り切ってたのをいま痛切に実感してるわ、そ「だが、それが普通だ。」え?」
俺は無理やり震える体を抑えようとする彼女の前に焚き火を作り、暖かくした茶をだす。
「ま、取り敢えず落ち着け、焦っても結果は出ない。」
倒すのは簡単だが、後続を作らねば俺が楽して旅できないという安易な考えから始めた山田を弟子に迎えるというか選択や、アリス達を雇・・・そういや会いに行ってねえややばいな。
おっとそれたな。
まあ、そういう流れで超級冒険者ジャンヌに戦い方を指南することに決めたのはいいが・・・少し本気を出さないとダメらしい。
そっと彼女に羽織らせている外套に魔力を通す。すると一瞬で彼女の目には元の強気な光が戻る。
「取り敢えず不安ならなんでもいいから吐き出してしまえ、それが心の隙に成る。」
「・・・私にここで泣き喚けって言うの?」
酷く心外だと言わんばかりのその眼光の中にどのくらい彼女の本音が含まれているのだろう。先ほどのしおらしい彼女を見た俺はそんな事をぼんやりと考えていた。




