案その二、ゴリ押し。
「クッ、まさか出入り口がないとは…不覚!」
「まあ、そうだろうな、敵は鋭角を通して幾らでも魔物を送りこめる上にこちらの世界のものではないが空間と時間の支配者だ。彼らだけが出入りするにはわかりやすい出入り口など要らないだろうな。」
「・・・ダンジョンマスターとしては複雑ね。」
四つ這いで地面を揺らす大男は置いておいて、さてはてどうしたものかと頭を悩ませる。そもそも出入り口が無いならば攻めに転じても数を生かすことができない、いや、前提として数が活かせる可能性があるというだけで数がいてもどうしようもない場合もあるのだが・・・
「内部に通路や部屋はあった。ということは中は空洞の多い一般的な迷路型の迷宮だな。」
「それがわかってもねー?」
(まだあっちに引きこもってるのかな?)
(それはあり得ません、この様な干渉をしている以上何処かに分霊なりなんなりを現界しているはずです。)
マーリンとヒミツはとりあえず合流、王様ズが外交問題を片付けるまでの間は冒険者だけで持ちこたえなければならないと気張っていたが出入り口が無いというのが知れれば緊張感はかなり薄れてしまう。情報の流出は最低限に新たな作戦を立てるしか無い。
第三者視点を持つヒミツは最初からマトモな出入り口が無いと踏んでとりあえず切って見て中身を確認したのだが、マーリンから上空の方にも出入り口が無いと聞いて首をかしげた。
「それはおかしい、ならこの魔力はどっから漏れてるんだ?」
「ムゥ・・・ヒミツはどっからだと思う?」
「さぁな。それを今考えているんだ。」
とりあえずアンサラーを左の鞘に召喚、短剣の鞘には全て久方ぶりに出した|偽聖剣エクスカリバー《使い捨てレーザーブレード》を装填、背中に透華、副武装に黒剣と釘をセット、何故か影収納やアイテム収納系召喚系の転移系空間魔法に不調がないのを不審に思いつつも本気武装の数々を確認、装備していく。
さて、魔力と言うというのはそもそも粒子状の何かである。という話は以前死ぬほど適当に書いたがそれが漏れ出てくるというのは実際にそこに隙間があることを示している。これは大気に含まれるためであるとか、そもそも物の中に存在しているからとか色々あるが今回妙であるのは完全に密閉されている筈の出入り口のない迷宮のどこから、どの様に、この禍々しい圧迫感を与えてくる魔力が出てきているか、である。
実際、先ほど切った時に膨大な魔力が中から吹き出し感じられる威圧感が減ったのでこの魔力が塔から、さらに言うならば塔の内部に蓄えられた魔力出るというのは確定的に明らかとなったのだが、いかんせんその経路が、現在漏れ出している場所がどこにあるか不明であるのだ。
「地下。塔周囲の空間の何処かに転移陣がある。雲の上の頂点に穴が空いており塔では無く煙突である。目に見えない、魔力の通れる微細な穴が大量にある。・・・どれもしっくりこないな?」
「そうだねぇ、どれもこれも漏れ方にムラがあったり、指向性がはっきりしている場合が多い、強いていうなら微細な穴がある。というのだけど、それだったらもっと魔力の通れる量は少ない筈だね。」
「まあいい、面倒だから再生しなくなるまで吹き飛ばす。」
「え?ちょと、ま!?」
突然に魔力を高めるヒミツに驚き後頭部を蹴り飛ばすマーリン、それはそうだ。作戦会議をしていたと思ったら仲間が突然『もうめんどいから突撃する。』的なことを言って地形ごと全てを無に帰そうとしているのだ。誰だって止めるし、少なくとも宮廷所属である彼女にとっての理由としては自国領になるかもしれない場所を消しとばすなんて真似はして欲しくないからだ。
「・・・だが、なぁ、あまり手をこまねいていると取り返しがつかなくなるぞ?俺は相手が変身中でも容赦なく攻撃する派だからサクッと終わらせたいんだが?」
「確かに非常に共感できるけども!私も面倒は嫌いだけれど!とりあえずこの国境付近で騒ぎを起こせば下手しなくても戦争が起きるのよ!」
それもそうかと冗談めいた手振りをし思い直した風に見える彼だがその実、魔力を高めたり切ったりしても塔からの反撃らしい反撃がないためその意識のほとんどを探索に、月の賢者の知識の運用に重きを置いており、マーリンが説教を続けるもののそのうち立ったまま動かなくなったヒミツを不審に思い杖で突こうとしたところ、突然魔力を収束させて純粋な月の魔力で編まれた両刃の西洋剣を左手に右手にアンサラーを持って明後日の方向を斬りつけた。
「見つけた。」
そう呟くと透華を抜かずに能力だけを発動させ何故か空中で止まった月の魔力による斬撃に向かって次元の裏から襲いくる不可視の刃を味わってもらった。
「ごぼ!?あ?」
術者が多大な損傷を受けることによって魔法的、上位存在からの妨害などあらゆる認識阻害は解除され同時に塔の入り口がその姿を現した。
マーリンが一体何をやったのか聞きたそうにヒミツを見つめるがヒミツは空中に突然現れたかの様に見える全身を不可視の刃でズタズタに引き裂かれた状態のおそらくこの塔と関係がある悍ましいナニカの中に躊躇いなく手を突っ込み、中身をかき混ぜる様に何かを探している。
「師匠ー一体何・・・を・・・?」
「あった。」
唐突に現れたか出入り口をされが出現させたかを察したらしい山田がヒミツの元に駆け寄ってきた時、ヒミツは極めて無感動にその鋭角と悍ましいナニカ粘性のもので構成された怪物の中から脳らしきモノ心臓らしきモノを取り出し粉砕したところだった。
「とりあえずこれで確実だろう。」
「いや、まあ、そうだろうけどさ?」
あまりにも猟奇的なその光景に人斬り抜刀斎じみた山田も絶句、勇者の中には虹色にモザイクをかけられそうな胃の内容物の逆流現象を起こしている者も多々いた様だがヒミツは何の気もなさそうに聖剣を油断なく構え、入り口にはいっていった。
「あ、いっちゃった…ま、いっか。多分大丈夫でしょ。」
それを見送ったマーリンはそれよりも彼のやったほぼゴリ押しでしかない魔力放出による索敵をもっと効率化できないか思案しながらアーサーとモードレッドに伝書使い魔を送った。




