案、その一、ピク◯ン
「いい作戦を思いついた。」
「はぁ。」
「・・・なんとなく貴方みたいなタイプの作戦はロクデモナイ様なイメージがあるけど?」
すごくいい笑顔でそういうのは頭の中まで筋肉が詰まったような筋肉モリモリマッチョマン、まあ、勇者の中で一人異彩を放つ筋肉魔法なる自身とその周囲の少しだけ、正確な範囲は不明だが、その空間内において筋力というかその鍛え上げられた肉体と技術の起こす超物理現象、若しくは物理限界を超えた行動をする変態である。
例としては空中での二段ジャンプや摩擦によって塵を発火させもはやそれ自体が凶器である拳の生み出す風圧で撃ち出す。など、常識的に不可能だがそのあらゆる常識を超越した強靭で、強力で凶悪な肉体操作と強度があればかろうじて実現が可能であろうという物理的な魔法、詰まる所魔法の様に見える筋力の暴力である。
そしてそれを聞いているのは神凪、そして元迷宮都市の迷宮管理者であったクロと名ずけられた|高位魔導不死性迷宮管理者・・・まあ、仰々しい名前を退けて容姿だけで見るならただの幼女である。黒い髪と瞳が無駄に色っぽい美幼女である。特に他意はないが、目麗しい事をきちんと伝えておかないと神凪という一人の男にかなりの風評被害を与えてしまうような気がするからだが、ぶっちゃけ見た目幼女を手篭めにしている時点で風評については死んでいるのかもしれない。
「ふむ、まあ、碌でも無いことは碌でも無いが・・・逆に聞くが内部の様子も、相手の情報も万全とは言い難いこの現状で碌な作戦を立てられるものなどいるだろうか?」
彼そう言ってからあの理不尽を思い浮かべたが、流石にそこまで無茶苦茶じゃ無いだろうと直ぐに考えを否定し被りを振った。
「そうだな…いなくは無いと思うが…流石に無いか?」
神凪もあの超越人外を思い浮かべるが、ダンジョンという性質を持った建造物であるという特性上いかなる外部からの破壊も、魔法的な探査もできない筈だと思い直したもののそれくらいの無理は如何にかして通してしまいそうだから彼は恐ろしいのだ。
神凪はとりあえずかなりの希望的な観測になるそれを頭の隅に置いておいた。
「アレが動くならもうその時点で解決しちゃうんじゃないの?それこそあの塔を斬り捨てたりなんかして。」
幼女が元ダンジョンマスターとしての経験を含めても「迷宮の外壁を壊せるとは思えないけど」と付け足し、とりあえず意見を言いおわった彼女の次に作戦を言おうとした筋肉が少し息を吸う。
次の瞬間凄まじい怪音と共に何か巨大なものがズレ動く地鳴りの様な音がし、その後少し間を開けて大量の土石が地面に叩きつけられる破壊音の様な音が発生、そこからさらに少し遅れて凄まじい風圧が彼らを襲った。
そして一言。
「流石だなぁ…」
「そうだな。」
「マジモンねアレは。」
彼らの視線の先には斜めに根元を断ち切られその均衡を崩した巨塔と何故か草木が吹き飛び地面のえぐれた様に凹んだ場所で剣身が完璧に魔力と純粋な運動エネルギーによって生み出された空気との摩擦熱で吹き飛んだ柄だけの剣を振り切ったヒミツの姿が、あった。
しかし、あっけにとられる間も無く巨塔はその異様な姿を瞬く間に修復し元の姿に、多少感じられる魔力は減った様な気がするがまだ親玉生きている上にこの建物の破壊は事実上不可能であるというのが判明したのだった。
「まあ、あの御仁は置いておいて、一先ず我らが取れる戦法は、ズバリ人海戦術であろう。」
「マジ流石だなぁ…」
「迷宮の外壁って案外鮮やかに切れるのね…」
あまりのインパクトに神凪とクロの口が塞がらないままだが、時間的な猶予があるかは不明な上意識はきちんと筋肉魔法の使い手であると彼の方へはっきりと向いているため話を続ける。
そして筋肉魔法使いは作戦というにもおこがましい、人数を使ったゴリ押し的な迷宮の一斉探査を提案した。
いや、至極真っ当な作戦と言えるのだが、あのパワーバランスというか世界の法則というか、常識的な様々なもののことごとくが崩れる原因であるヒミツの存在がその作戦がどうしてもその正当性を失わせた。
いや、というか大半のやつはあの絶(対的に現実感の足りない光)景を見てあいつだけでいんじゃねと思った。
が、まあ単独で強くとも相手の数や規模が不明なためヒミツだけで済むという可能性は極めて低い上に敵は転移門や転移魔法の類を封殺してきている。
そのため相手が攻めに転じた時一方的にかつ距離の離れた街々に転移を活用し同時攻撃をして来る可能性が高いのだ。頭数はいた方が無難である。
しかし異界の邪神やらなんやらというおどろおどろしい上に現実感が薄いものの目の前にある巨塔や先のダンジョンが浮遊するなどの騒ぎがあって現実としてその力の強大さがありありと出されていたので、冒険者全体の士気は高いと言えるものではなく。ほとんどが半ば逃げ腰であった。しかしヒミツのあの攻撃はそう言ったもの達を、奮い立たせ同時に目の前に存在する超級冒険者という頼もしい存在に目を向けさせた。目立つ事でその力でカリスマを示す。超級冒険者の手本だろう。
しかしそのフルフェイスの兜にとって周りには見えない彼の表情は渋かった。
「・・・・」
(可笑しい、いや、おかしくはないし合理的だが・・・)
彼が何故あの塔を切ったのか、それにはきちんと理由がある。
「なるほどー、考えたねー。」
あっけらかんとしたマーリンの声が空に解ける。彼女が塔の周囲をそれこそ杖に乗って空を飛んで探しても、そのどこにも出入り口らしいものは無かったのだ。
「・・・さて、どうするかな。」
転移不可、出入不能、ダンジョンとして破綻しているこのダンジョンをどう攻略しようか、もう少し思案しなければならない様だ。




