巨鳥対巨人
大竜巻を消し去ったので、伝説の巨鳥ジズは怒りに燃えている。
大きなくちばしを開けて、オレを食べようと襲いかかって来た!
ジズは巨鳥なので向こうの方が早いけれど、小回りが利かない。
俺は上下左右に逃げながら、どの攻撃が有効か考える。
反撃をするにしても、普通の攻撃では殺せない。
って言うか、生け捕りにして、魔王に支配された心を取り戻したい俺。
そうすると、攻撃魔法の種類は限られてくる。
痺れの魔法がいいのではと思うのだけれど、なにせ巨鳥なのでかなりの量が必要。
たぶん、今の俺のレベルでもジズに効くだけの痺れの毒を作れない。
火炎は、眼下に広がる森に燃え移ったら大変だし……。
モージル妖精女王と心が繋がっているので、王女の得意な雷撃魔法は使える。
けれど、殺してしまいそうで使いずらい。
カマイタチ系も、ジズが余りにも大き過ぎるので効かないと思う。
色々考えたけれど、やはりあれを使うしかない。
おっと危ない!
とっさに避けたけれど、このままだと食べられてしまう。
迷っている暇はないし、俺は覚悟を決めて、再び岩石巨人の魔法を使うことにした。
必死で逃げながら、手の中でアトラ姉ちゃんを思い出す。
またしても、服を着ていない姉ちゃんのイメージが出来上がった……。
あ、そうだ!
服を着せてあげればいいんだよ。
何で俺は、昨日気がつかなかったんだろうか?
これなら正々堂々と、アトラ姉ちゃんがいる前で姉ちゃん似の岩石巨人が出せる〜〜!
早速、手の中のアトラ姉ちゃんに服を着せると、戦闘服を着た、今のアトラ姉ちゃんとそっくりのイメージが出来上がった。
防具の中のピンクダイアモンドの魔法を使って、俺は再び神級土性魔法である岩石巨人を発動した。
ドッスゥ〜〜〜〜〜〜ン!!
ジズに乗っかる様に現れた岩石巨人!
アトラ姉ちゃんに似ており、今回は戦闘服を着ている。
ヤッタ〜〜〜〜〜〜!
大成功〜〜〜〜〜〜!
あ……、でも……、これからだよ。
ジズは暴れまくっているので、押さえ込まないとニーラの魔法が使えない。
両手で羽交い締めにして、足で尻尾に絡ませた。
ジズは岩石巨人を振り払おうとする。
けれど、重さが半端でない岩石巨人に耐えきれなくて,高度が急激に下がっていく。
ズゥズゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
ついにジズは地上に落ちた。
俺はウール王女に命力絆を使って連絡する。
『ニーラを、つれてきてくれ、ウールおうじょ』
『わかったわ、トルムル』
遠くの空から、ウール王女と魔王の娘ニーラを乗せたペガサスが飛んでくる。
ジズの頭近くに飛んでくると、ニーラは魔法を使って、魔王に支配されていた心を取り戻す。
怒りの目から、心優しい目に変わったジズは、大きな目をキョロキョロさせている。
ニーラを見ると、驚いた声で言う。
「私はなぜここにいるのですか、ニーラ様?
確か、卵を抱いていたはず……?」
「お父様によって、ジズは心を支配されていたのです。
私の横にいる賢者の長、トルムル様によってジズは正気に戻ることができたんですよ」
ジズは驚き、ニーラと俺を交互に見ている。
「うっすらと記憶にあるのは、赤ちゃんが賢者の長になったと知らされて、怒りに燃えた事。
それしか覚えていないのですが、貴方が本当に賢者の長に就任されたのですか……?」
正気に戻ったジズに、もはや岩石巨人は必要ないので霧散させる。
ジズの目の前に行くと、俺は言う。
「おとつい、けんじゃのおさ、になったトルムルです。
もとの、ジズにもどって、よかったですね」
「トルムル様が、先ほどの巨人を魔法で出されたのですか……?
失礼とは思うのですが、とても信じられなくて……」
ジズが驚くのは無理もないよな。
でも事実だから、正直に俺は言う。
「まちがいなく、ぼくが、がんせききょじんを、まほうでだしました」
横で聞いていたニーラが喜びの声で、ジズに言う。
「トルムル様の言う通りで、彼はすごい魔法使いなんですよ」
ジズは翼をたたんで、頭を下げて言う。
「ありがとうございます、トルムル様。
魔王に心を支配されていたとは、このジズ、不覚でした。
ここで失礼してもいいですか、トルムル様。
卵を抱いていたので、温めないといけません。
もうすぐ生まれると思うので、この冬の気温では卵が冷えて雛が死んでしまいます」
それは大変だ!
早く戻ってもらって、卵を温めないと。
そうだ、俺も行って雛が無事か確かめたい。
俺にも、多少は責任があるからな。
「いますぐ、いってください。
ぼくも、いっしょに、いきます。
せきにんを、すこしかんじるので、ひなのあんぴを、かくにんしたいです」
「トルムル様が責任を持つ必要がないですが……?」
「ぼくが、そうきめました。
はやくいきましょう」
そう言って俺はペガサスに乗った。
ペガサスは雛のいる所を知っているみたいで、全速力で空をかけて行く。
ジズは後から飛んで来ており、やはりペガサスが一番早い。
しばらくすると海が見えて来て、断崖絶壁の上に巣が見えてくる。
近くに行くと卵が余りにも巨大なので、ビックリする俺とウール王女!
なんとその卵、普通の家と同じくらいの大きさだ!
卵を見ると、ヒビがいくつも走っており、中から殻を突く音が聴こえてくる。
誕生の瞬間に立ち会えるなんて、何て俺って幸運なんだろうか?
少しして、くちばしが見えてきて、もうすぐ割れるのが俺でも分かった。
ジッと見ていると、いきなり殻が取れて、中から雛が出てきた。
真っ白い雛で、体がまだ濡れている。
断崖から吹く海風で、雛の羽毛が乾いてきた。
突然、雛は泣き出した。
「ビィ〜〜、ビィ〜〜、ビィ〜〜」
口を大きく上に開けて鳴いているので、間違いなくお腹を空かせているんだ。
ジズはまだ来ていなくて、どうすればいいのだろうか?
ペガサスが俺に言う。
「ジズから聞いた話では、雛は魚を食べるそうです。
雛がお腹を空かしているのに、我々では魚を捕まえる事ができないのが残念です」
魚を捕まえる……?
海にはリヴァタリアンがいるので、もし近くにいれば魚を調達できるかもしれない。
リヴァタリアンに連絡をとる。
『リヴァタリアンは、どこにいるの。
ジズのひな、かえって、さかな、ひつようなんだけれど?』
『グマル国の断崖絶壁の沖合にいます。
今からそちらに向かいます。
先ほど、小魚の群れをお腹いっぱいに食べたので、それを雛にあげればいい』
やった〜〜!
これで雛に魚を食べさせられる。
沖を見ると、猛スピードでこちらに向かっているリヴァタリアンが見えて来た。
全力でこちらに向かっているみたいで、水しぶきが空高く上がっているのが見える。
リヴァタリアンはあっという間に断崖の下にくると、頭を上に持ち上げ、口を大きく開けた。
口の中には、マグロくらいの大きな魚が飛び跳ねている。
リヴァタリアンは確か、小さな魚って言ったような気がしたんだけれど……?
これだと大き過ぎて……?
イヤイヤ。
雛もそれなりにデカイので、マグロで丁度いいかも……?
取り敢えずは、1匹だけ重力魔法で雛の口に移動させる。
雛は喜んで大きな魚を丸呑みにした。
まだお腹が減っているらしく、再び大きな口を開けて鳴き出した。
俺はそれから、雛が鳴かなくなるまで魚を重力魔法で雛の口に持っていった。
フウー。
それにしても雛ってよく食べて、4、50匹は食べたよ……。
一段落すると、ジズが東の空から舞い降りてきた。
雛が生まれていて、お腹が膨らんでいるのを見て一安心している。
ジズは,リヴァタリアンがどうしてここにいて、魚を雛にあげることができたのか不思議がっている。
『リヴァタリアンが魚を取って来てくれたのですか?
でも、どうして雛が生まれたのを知っていたの?」
「ハゲワシ様が儂に教えてくれた。
ハゲワシ様は儂と親友になって、心が繋がっているからな」
「邪悪な魔王に対抗できるのはトルムル様しかいないのを、これで二度確認できました。
私も仲間に加えて下さらないでしょうか?」
ジズが仲間になるって、大歓迎だよ。
リヴァタリアンと同じくらい戦力になる。
それに、雛って可愛いよな。
ちょっとだけ、デカイけれど……。
「ジズも、なかまになる、だいかんげい。
まおうをたおすため、みんなで、きょうりょくする」
「ありがとうございます、トルムル様。
それでは私から、これをお受け取り下さい」
そう言うとジズは、巨大なくちばしを大きく開き始めた。
口の奥から、何かが急速に迫っている。
でも、危害を加える気配を全く感じなかったので、少し怖かったけれどそこに踏み止まった。
喉の奥から、霧のようなものが出てきて俺を覆う。
リヴァイアタンの時と同じで、これは魂の一部なのか……?
「これで、私とトルムル様は遠く離れていても、心で会話ができるようになりました。
これからもよろしくお願いします」
そう言ったジズは頭を下げた。
これで一件落着。
あ、姉ちゃん達に連絡するの忘れてた〜〜。
すぐに、姉ちゃん達とヒミン王女に連絡を入れる。
『ジズと、ともだちになった。
ジズのひながかえって、とてもかわいい。
これから、かえるので、あんしんして』
『よかったよ、トルムル。
急にペガサスに乗って西の空に向かったから。
連絡しようと思っていたけれど、控えていたんだよ。
それと、私似の岩石巨人はとても気に入った。
でも、何も私はしていないのに、英雄扱いを周りから受けて困っているけれど……』
よかった〜〜。
アトラ姉ちゃんが気に入ってくれて。
キュゥ〜〜。
キュゥ〜〜。
お腹の虫が鳴った……。
朝ごはんを食べてないので鳴ったんだ。
でも、二回同時になったのはどうしてなの……?
ウール王女が少し恥ずかしそうに言う。
「トルムル、おなかすいたね。
わたしも、おなかのむしがなった。
はやくかえろ」
もう1つの音は、ウール王女のお腹の虫だったんだ。
「ハゲワシ様は、お腹が空いていたのか?
では、この魚を持って帰るがいい」
やったね。
これで、美味しい魚料理が食べれる。
帰る時、俺とウール王女はそれぞれ20匹の魚を重力魔法で持った。
城塞都市に帰ると、合計40匹の大きな魚を持って帰ったので、みんなが喜んでくれた。
そして、大いに士気が上がったので、俺も大満足な1日の始まりだった。