空からの脅威
夜明け前に目が覚めた。
姉ちゃん達の、イビキと歯ぎしりが聞こえるぐらいで、今夜はとても静かな夜だ……。
昨日の戦果は予想以上で、魔王側の出城を更地にできたし、今いる城塞都市も無傷のまま奪還できた。
その為、みんな後処理で疲れているみたいで、城塞都市にいる人達は、見張り以外はぐっすりと眠っている。
昨夜は姉ちゃん達と一緒に温泉に入った。
久し振りに姉ちゃん達と入って、身も心も洗われた〜〜。
でも、何で俺は夜明け前に目が覚めたんだろうか?
意識を伸ばして異常がないか確かめる。
城塞都市内では異常が見つからない。
まてよ……?
西の空から何かの気配を感じる。
1匹だけみたいで、急速にこちらに向かっている。
西にあるグマル国は、メドゥーサの姉であるユウリュアレーが治めていた。
魔王の娘ニーラによって正気に戻ったユウリュアレーは、再びグマル国に戻って行った。
グマル国を、元の人間の国に戻すよう努力する為に。
おそらく、ユウリュアレーの意見に対して、納得できなかった魔物がこちらに向かっているんだ。
でも、1匹だけこちらに向かっているのが気になる。
幹部級であるのは間違いなく、相当手強いのは気配でわかる。
魔物がここに来るのに、まだ時間があるみたいだけれど、緊急にみんなを起こした方がようさそうだ。
俺は命力絆を使って大声で姉ちゃん達と、ヒミン王女、ウール王女を起こす。
『まものが、にしのそらから、せっきんちゅう。
みんなおきて、たたかうじゅんび、ひつよう』
心に直接響く大声を出したので、飛び起きる姉ちゃん達。
『西の空からですね。
見張りの所に行って、緊急の鐘を鳴らして全員を起こします』
すぐに返事をしたのはヒミン王女だ。
幼い頃から鍛えられているので、一瞬で起きて状況を把握する能力はずば抜けている。
『ヒミンおうじょ、おねがい。
ねえちゃんたちは、おうじ、たちにつたえ、そちらで、こうどうをともにして。
ウールおうじょは、こちらにきて、ぼくとごうりゅう。
ニーラといっしょに、ペガサスにのる』
『『『『『『『『わかったわ、トルムル』』』』』』』
姉ちゃん達は返事をすると、ベッドから飛び起きて戦闘服に着替え始める。
俺は壁の方を向いて、姉ちゃん達の着替えを見ないようにしながら、戦闘服に着替えて防具を装着した。
姉ちゃん達の着替えが終わった頃だと思い後ろを向くと、エイル姉ちゃんがニーラの着替えを手伝っている。
「ニーラが着替え中なんだから、トルムル向こう向いてて!」
強〜〜く、エイル姉ちゃんに注意される俺は、壁の方を再び向く。
姉ちゃん達の着替えを見ても何にも言わないのに何で……?
しかも昨夜、ニーラも一緒に温泉に入ったんだけれど……。
わ、訳が分からない……?
「もういいわよ、トルムル。
女の子が着替えている途中は、絶対に見てはダメよ!」
そう言ってエイル姉ちゃんは、ドアから出て行く音が聞こえた。
俺は恐る恐るニーラの方を向くと、彼女が恥ずかしそうにしている。
エイル姉ちゃんって、俺とニーラの関係を複雑にして部屋を出て行った気がするんだけれど……?
どう声をかけて良いか分からず迷っていると、ドアが元気よく開いてウール王女が入って来た。
た、助かった〜〜。
このままだと、気まずい雰囲気が続くだけだった。
「トルムルとニーラ、じゅんびできた?」
ウール王女が、とびっきりの笑顔で俺を見て言った。
「じゅんびできた。
ペガサスの、ところに、いそごう」
2人が了解の返事をすると、緊急なので重力魔法で移動する。
ペガサスは既に広場に出て、俺達を乗せて飛べる準備ができていた。
緊急の鐘はなっているけれど、ペガサスは敵襲だけしか知らないから俺に聞いてくる。
「敵の大群が押し寄せてきたのでしょうか、トルムル様?」
俺は人差し指を立てて言う。
「いっぴきだけ、こちらにとんで、きている。
でも、かなりてごわい、あいて」
ペガサスは思い当たる魔物がいるみたいで、驚いて言う。
「1匹だけこちらに飛んできているのは、おそらくジズ。
巨鳥で、翼を広げるとレヴィアタンと同じくらい。
でも、卵を抱いているので動けないはずなんですが……?」
ジズだって!
母ちゃんが言っていた巨鳥で、海のレヴィアタンと、陸のベヒーモスと同じ伝説上の生き物。
それが実在して、飛んで来るなんて……。
でも、レヴィアタンがいたんだから、ジズもいるよな。
気を引き締めて戦わないと、やばい事になりそうだ。
俺は防具の中に、オシャブリがあるのを確かめる。
オシャブリが予備も含めて2つあったので、安心する俺。
「こんかいは、ぼくだけ、べつこうどう、します。
ぼくが、いいよというまで、とおくのそらの、あんぜんけんでたいき。
たたかいが、おわったら、ジズのちかくにきて、ニーラがまほうを、つかう」
3人が了解すると、俺は単独で夜明け前の、まだ薄暗い夜空に舞い上がった。
東の空は、ほんのりと明るくなり始めている。
西の空に意識を向けると、増悪の感情をむき出しにして飛んで来ているのが分かる。
城塞都市の上で戦うのは得策でないので、俺は西に移動を開始。
しばらくすると、巨鳥のシルエットが西の空に見えてくる。
まだ遠く離れているのに、なんという大きさ!
本当に、リヴァタリアンと同じクラスの大きさだ!
向こうも俺に気が付いたみたいで、ここまで聞こえる大声で言う。
「小さな点にしか見えないが、お前が今度賢者の長になったトルムルだな。
私の盟友であるリヴァタリアンを、拐かした罪を贖うがいい」
そう言ったジズは高速に翼を動かして、いくつもの竜巻を生み出す。
一つ一つが巨大な竜巻で、こちらに向かっている。
ゴアァァ〜〜〜〜〜〜!!
ゴアァァ〜〜〜〜〜〜!!
ゴアァァ〜〜〜〜〜〜!!
ゴアァァ〜〜〜〜〜〜!!
最悪なのが、竜巻の進路に城塞都市がある事だ!
大型の竜巻が城塞都市を襲えば、壊滅状態になるのは必至。
俺のいる空域は竜巻の影響で、暴風になっている。
俺一人だったら、重力魔法で耐える事が出来るんだけれど……。
アトラ姉ちゃんが命力絆で緊急連絡してくる。
『巨大竜巻がこっちにやって来る。
トルムル、何とかできないか!』
そう言われても……。
そうだ!
竜巻をこちらも出して相殺すればいいいいんだよな。
何ですぐに気がつかなかったんだろうか。
シルフに連絡して、能力を使う事を伝えた。
風の向きが違う大竜巻を、同じ数だけ作り出した。
ジズの竜巻は、俺の竜巻に相殺されて次第に小さくなっていき、最後には消えた。
アトラ姉ちゃんから連絡が入る。
『トルムルは凄いな!
あれだけの竜巻を消せるなんて!』
やったね、俺。
今度は俺の攻撃の開始だ〜〜!




