岩石巨人
アトラ姉ちゃん似の岩石巨人が仁王立ちだったので、とりあえず正座させた。
ふ、服を着てないので、見ている方が恥ずかしい……。
オーク達は岩石巨人に攻撃をしているけれど、表面の岩が剥がれ落ちるだけで、動くには問題ない。
両手で城壁、屋根などを鷲掴みにして横に移動させ、出城の解体を始める。
後から進軍して来る人達の為に、通りやすいように道を広げる為に。
正座したまま前進して、更に出城を解体していくと、オーク達は先を争うように逃げて行く。
バラバラに逃げて行くので、どうやらオークの王はいないみたいだ。
もしいたら、上空までお越し願おうと思ったのに……。
ペガサスが驚きの声で言う。
「これほどの魔法を今まで見た事がありません。
あんなに大きな城の、更に数倍上回る岩石巨人を魔法で出せるなんて!」
ま、オレも始めてだけど、成功して良かったよ。
妖精が遠く離れていても、彼らの能力をオレが使える事が証明できた。
これって、メチャ凄いことだよ!
今までは、心が移動しなければ能力を使えなかったからな。
下を見ると、騎兵隊がここに押し寄せていた。
先導しているのはソルスティン王子で、横にはディース姉ちゃんが付き添うようにいる。
オレはディース姉ちゃんに、命力絆を使って状況を伝える。
『でぃーすねえちゃん、でじろは、がんせききょじんで、わきによせたよ。
そうとうせんを、おねがい』
『この岩石巨人をトルムルが魔法で出したの?
しかも、ここにあった魔王側の出城が無くなっているなんて信じられない……。
でも……、この岩石巨人、どことなくアトラ姉さんに似ているのはなぜなの……?』
あ……、し、しまった〜〜!
騎兵隊がここに来る前に、岩石巨人を消すのを忘れていた〜〜!
すぐに岩石巨人を霧散させる俺。
出城の後には何も残っていなくて、通りやすくなる。
俺はディース姉ちゃんに言い訳を試みた。
このままアトラ姉ちゃんの耳に入ると大変な事になる気がする。
『ねえちゃんの、さっかくだよ。
じょせいがた、になったのは、まちがいないけれど……』
『そうなの……?
でも、トルムルってば凄いわね。
最初の難関だった出城を、跡形も無く片ずけてしまうんだもの。
更に魔法のレベルが上がったみたいね』
な、何とか誤魔化せた……。
でも、俺の体内にあった魔法は殆ど空になってしまった。
超強力な魔法だけれど、連発できない……。
今回は仕方ないにしても、使い方を工夫しないと大変だ。
ここは姉ちゃんに任せて、俺達は次の目標に向かう。
次は、北の国と南の国に向かう街道の別れがある城塞都市だ。
北のメデア国にはゴルゴン姉妹の長女であるステンノーが居る。
南の国には妹のメドゥーサが居るので、その国での戦闘は最も激戦になる事を予想している。
とにかく、ここの城塞都市を落とさない事には、どの国の王都にも行けない。
岩石巨人で城塞都市を破壊するのは簡単だけれど、メドゥーサによって変えられた人間の石像を壊したくないので使えない。
さっきのオーク達がここに逃げ込んできており、結果的に兵が増強された。
でも、土の妖精が遠く離れていても能力を使えたので、今度は風の妖精シルフの能力を使う。
痺れの毒を城塞都市に隅から隅まで流すのに、強力な風の魔法が必要だからだ。
俺はモージル妖精王女を通して風の妖精シルフに連絡する。
『ノームの、のうりょく、つかうのが、せいこうした。
こんどは、シルフの、のうりょく、つかう』
『本当ですか?
成功、おめでとうございます。
流石トルムルさまですね。
今度は私の能力を存分に使ってくださいね』
シルフはエイル姉ちゃんと友好の儀式をしているので、姉ちゃんの横に浮かんで、俺に常に笑みを浮かべてくれている。
シルフは4大精霊なので、能力は桁違いに大きい。
少ない魔法でも最大規模での魔法を使う事ができる。
今回はその力が必要で、城塞都市の隅から隅まで痺れの毒を充満させるには、シルフの能力が絶対不可欠だ。
窓とドアを閉めている部屋に、小さな隙間から痺れの毒を入れるには普通では到底無理だ。
でもシルフの能力を使えば、どんな狭い隙間にも風は入って行く。
『おっ。今度は痺れの毒を使うな。
いよいよオレも協力できて嬉しいよトルムル』
隣で浮かんでいるモージル妖精王女の、横の頭であるドゥーヴルが言う。
ひねくれ者だけれど頭の回転はかなり良い。
『にんげんの、せきぞうを、こわしたくないので。
ドゥーヴェルの、とくいまほう、つかうよ』
お、俺……、初めてドゥーヴェルって言えたよ。
今まで言えなくて苦労していたんだよね。
気を良くした俺は、オシャブリを吸うのを飛ばして右手の中で風の魔法。
左手の中で痺れの魔法をイメージする。
イメージが完了したので、防具の中にあるピンクダイアモンドの魔法を使って、風と痺れの魔法を同時に発動する。
痺れの風は城塞都市に向かって吹き荒れる。
それから俺は長い時間かけて、城塞都市の隅々まで痺れの毒を充満させた。
痺れの風が通った後には魔物達が痙攣を起こしており、誰も立っていなかった。
ドゥーヴェルが言う。
『これはまた、呆れ返るほどだ。
城塞都市全て魔物を動けなくするなんて……』
思っている以上の効果で俺自身ビックリ。
多少は動ける魔物がいると予測していたのに……。
魔物が痺れて動かないのは良いんだけれど、この後は人海戦術で魔物の武器を取り上げて縛らなくてはいけない。
来た方向を見ると、ディース姉ちゃん達の騎馬隊が再び見えてきた。
『ディースねえちゃん、こんどは、じょうさいとしの、まものたち、しばって。
まものたち、しびれて、うごけない』
『トルムルってば、凄すぎるわよ。
本当に、城塞都市を制圧したの……?』
姉ちゃんが疑うのも無理もない。
俺自身、ここまでうまく行くとは思ってなかったからな。
『じょうさいとしの、せいもんを、あけるので、そこにきて』
『分かったわ、トルムル。
今夜は城塞都市でゆっくりできそうね』
予定では、城塞都市の近くで野営の予定だったんだよな。
俺は城塞都市の中に、ペガサスに乗って舞い降りた。
城塞都市の中には石像になった多くの人達が、道の脇に置かれている。
どの石像も顔が恐怖にいがみ、助けを呼ぶ声が今にも聞こえてきそう。
お母さんに抱かれた赤ちゃんまで石像になっているのは、見ていて心が痛む。
話には聞いていたけれど、実際に石像を見ると怒りがこみ上げてくる。
メドゥーサが人々を石像にした張本人だけれど、魔王に心を操られているので被害者の一人でもある。
そう思うと、魔王を倒さなければと決心を新たにする俺。。
ペガサスに乗った俺達は正門に着いたので、俺は重力魔法で重い閂を上げて門を開けた。
門の前ではディース姉ちゃん達が集まってきおり、歓声を上げながら城塞都市に入った。
ディース姉ちゃんが俺の横に来ると言う。
「トルムル、お疲れ様。
この城塞都市の地下には有名な温泉があるから、久し振りに一緒にはいろうね」
う、嘘だろ……。
ここに温泉があるって聞いてないよ、俺。
また、姉ちゃん達と温泉に入るのか、俺……。