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自宅のトイレが異世界に!転生者の美女2人と男1人に出会ったので、現代技術を使って産業革命を起こすことにしました  作者: 姜維信繁


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第37話 『取締役、須藤』

 王国暦1048年1月14日(月)20:18:00=地球暦2025年09月08日(月)13:00:00<田中健太(ケント)>


 調布市役所、銀行、そして田代との戸籍相談と警察署。


 午前中だけで一年分の役所仕事を片付けた気分だった。


 山城院長との進捗もエリカから連絡が入っている。


「取引しよう」と、独占契約という名の首輪と引き換えに、必要な医薬品と機器の供給を約束させたらしい。上出来だ。残る2つを片付けるため、オレは会社に向かった。ゲートが再び開くのは日没から。それまでに全部終わらせる。





 ■航空機エンジン設計事業本部役員フロア


「取締役技術顧問様のご来訪とは、光栄だな。いや、ここに来たってことは、前顧問になる考えがようやく決まったか」


 須藤は相変わらず皮肉っぽく笑いながら、来客用のソファをオレに勧めた。同期の中で一番出世が早かった男だ。今は人事・総務担当の取締役をやっている。


「閑職の肩書は伊達じゃないんだよ。だから今日は、その肩書ごと引き取ってもらいに来た」


「早期退職か? いやいやその前に、閑職だなんてとんでもない。まるでオレがお前を左遷させたみたいじゃないか」


 須藤の目つきが変わった。


 何を言っている。事実そのとおりじゃないか。本当に食えない男だ。仕事はできるし、このクソみたいな性格がなければいい友人になれたかもしれないが。


 いや、この性格だからこそ、上り詰めたのか。


 まあ、この際どうでもいい。


「それは断じて、ないぞ。オレはお前を買っていたんだ」


(オレの手足として働くならな)


 とでも言いたげだな。


「ただ……今の役職のまま辞めたら、規定の割増退職金だけだ。お前の性格なら、それだけで来たわけじゃないだろう」


「B7型エンジンの燃焼室設計、あれの初期案は誰の名前で特許が通ってる?」


 須藤の表情が止まる。オレはたたみかけた。


「実務は全部オレのチームがやった。名義は上に貸しただけだ。今さら蒸し返す気はない。ただ——閑職に追いやった人間の口から、その話が漏れる可能性がゼロだとは言い切れないよなという話をしている」


「……脅しか」


「頼み事だ。金額と引き換えに、オレは何も言わない。それだけの話だよ」





 沈黙が数秒続いた後、須藤は深く息を吐いてノートPCを開いた。


「上乗せの原資は特別功労枠から出す。ただし条件がある。退職後も技術顧問契約という形で、月イチの形だけの出社は残せ。完全に縁を切ると、逆に総務が勘ぐる」


 ありがたい。


 オレは1千万程度の減額で交渉しようと思っていたが、ヤツから譲歩を引き出せた。


「構わない。むしろ好都合だ」


 実際、ゲートが開くのは夜だけだ。月に1度の出社ぐらいなら、こっちの都合に合わせて調整できる。


「もう1つ頼みがある。今住んでる社宅、あの築30年のマンションだ。あれを個人で買い取りたい」


「は?」


 須藤が顔を上げた。


「……何を企んでいる? いや、お前のことだから、この期におよんで手の込んだことはしないだろうが……。あんな老朽化した物件、社としてはとっくに売却対象だぞ」


「だから買い取りたいんだ。売却対象なら話が早い」


 須藤はしばらくオレの顔を見ていたが、やがて肩をすくめた。


「……まるでお前が異世界に転生でもして、あの部屋に扉でもあるんじゃないかってくらい、必死な顔をしているな」


 ……。


 図星を突かれてオレは表情を動かさないようにするのに苦労した。


「資産管理部には話を通しておく。ただし、査定は市場価格でやらせてもらう。友人価格はナシだ」


「上等だ」


 土地代(建物価値0)<異世界


 なのだ。


 まあいい……。この件が終わればこいつともおさらばだ。もう会うこともないだろう。


 オレは席を立ち、須藤に向かって小さく頭を下げた。


「世話になったな」


「……礼はいらない。さっさと消えてくれ」


 須藤は目も合わせずにパソコンの画面に視線を戻し、オレは踵を返して役員フロアを後にした。





 健太が部屋を出て行った後も、須藤はしばらくドアを見つめたまま動かなかった。


「……おかしい」


 誰もいない部屋に、独り言がこぼれる。


 技術一辺倒で社内政治にも一切興味を示さなかった健太が、いきなり今日になって突然早期退職を切り出してきた。


 しかも、とっくに売却対象になっている老朽化した社宅マンションを、市場価格で買い取るという。


 結局最終的な退職金は1億になったが、今後のことを考えれば足りるのだろうか。


 離婚していたことは知っている。だが身辺整理だけなら、あんな部屋に固執する理由がない。


 須藤は椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。


「扉」——冗談のつもりで口にした一言に、健太の表情が一瞬だけ強張った。あれは単なる図星というより、もっと別の何かを隠している人間の顔だった。


 何かある。


 それが何かは分からない。


 分からないまま金を払い続けるのは、性に合わない。


 須藤はデスクの引き出しから名刺入れを取り出し、1枚を抜いた。かつて社内の不正調査で世話になった調査会社の連絡先だ。





「——もしもし、須藤です。ちょっと、個人的に調べてほしい人間がいるんですが」





 ■王国暦1048年1月14日(月)23:48:00=地球暦2025年09月08日(月)16:30:00


 喫茶店「アルデバラン」


 須藤との話を終えて、最後に向かったのは駅前の喫茶店だった。


 窓際の席で先に待っていた日向が、オレの顔を見るなり片手を上げる。警備会社を経営している同期で、須藤とはまた違うタイプの、体育会系の男だ。


「健太か。オレはお前に聞きたいことが山程あるんだ」


 オレが席に着くなり、日向はこちらの返事も待たずに切り出した。


「半年ぐらい前だったか。マルクスっていう外国人が、お前の代理人だって預金通帳のコピーと委任状を持ってウチに来た。LRADを貸してくれ、ってな」


「……ありがとう、あの時は。それと、すまない」


「いいさ。約束は約束だ。警察にも言わなかっただろ。だがあれで大体察しはついてる。お前が言う護身用って、催涙スプレーとかスタンガンのレベルじゃないんだろ。あの時と同じ、そういう目をしてるぞ」


 気心の知れた、というのは歳をとっても変わらないらしい。


 田代にしろ日向にしろ、持つべきものは友達だ。卒業して結婚もし、お互いの生活があるとはいっても、これだけは何物にも代えがたい。





 外の空が、少しずつ橙色に変わり始めていた。日没まで、もうそう長くはない。


「——込み入った話になる。時間、大丈夫か」


「1時間だけならな」


 オレは深呼吸して、切り出した。


「拠点を守る話がしたい。今度、まとまった人数と資産を一箇所に集める。当然狙われるリスクも上がる。侵入検知、監視の組み方、警備のノウハウを借りたい。それと、前のLRADよりもう一段上の、非殺傷の装備も欲しい」


 日向は少し考えるように黙り込んだ。


「——お前がそっち系の物騒な仕事に手を出すとは思えん。マルクスの時も、殺傷目的じゃないとは聞いた。だから多分、お前自身じゃなくて、誰かを守るためだろ。違うか」


 図星だった。答えないことが、そのまま答えになる。


「言えない事情がある、ってことは伝わったよ」


 日向は小さく笑って、身を乗り出した。


「うちの海外拠点、フィリピンとタイにVIPの警護要員を訓練してる施設がある。侵入検知、監視網の組み方、そのあたりのノウハウならマニュアルと機材一式でまとめて渡せる。大型のLRADや閃光音響手榴弾みたいな非殺傷装備も、向こうの在庫を融通できる」


「頼めるか」


「――貸し1つだ。うちの人間に持ってこさせる。段取りも通関もこっちでやる」


「お前は動かなくていいのか」


「お前が動く方が目立つ。うちは警備機材の輸入実績がある会社だ。人を出す方が、余計な穴を作らずに済む」


「いつ頃になる」


「向こうの調整もある。早くても1か月は見てくれ。まとまったら連絡する」





 次回予告 第38話


 須藤との交渉に臨んだケントは、B7型エンジンの特許問題を交渉材料に、早期退職金の上乗せと社宅マンションの個人買取を勝ち取る。


 だが健太の豹変ぶりに違和感を覚えた須藤は、退出後、調査会社に彼の身辺調査を依頼するのであった。


 一方、警備会社を営む同期・日向とは、かつてのLRAD貸与の件を清算しつつ、ミニ科学都市の防衛体制強化に向けた協力を取り付ける。


 日向の会社を通じて、警備のノウハウと非殺傷装備を1か月後を目処に調達する算段がついたのだ。


 次回、ケントは異世界へ帰還する。銃の完成に向けて動き出す一行だったが、ミニ科学都市の建設地を巡り、思わぬ横槍が——。

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