プロローグ
あまりに突然のことだった。
世界の割れた音がした。
甲高く尖った音が長く長く尾を引いて、深い谷に木霊する。
キィィィィィィン…………――
なにが起きたのか、一瞬だけわからなかった。
けれど一拍の間もなく次の瞬間には、耐え難い痛みが鋭く胸を刺した。
あり得ないことが起きたのだ。
考えもしなかった、最悪の事態が。
割れてしまった。
二度と戻ってはこない。
大切な大切な、大切な……――。
「う、そだ……」
誰か、嘘だと言ってくれないか。
とても信じられない。
なのに他でもない自分自身の身体が、心が、感じる喪失を現実だと叫んでいる。
「……して……」
すぐに戻る、と言っていたじゃないか。
笑顔で見送ったのは、ほんの一刻前のことだ。
「どうして……どうして……ッ!」
わからない。
わかりたくない。
理由なんてどうでもいい。
ただ痛く、苦しく、哀しく、泥のような絶望へと心が呑まれてゆく。
どれほど離れていようと、共鳴しあっていた気配が。
自分の身よりも大切な、この世で唯一の最愛が。
その匂いも、温度も、手触りも、声も、すべてが。
今、この世界のどこにも、もう存在しない。
「あああぁぁぁぁぁぁーーーーーー……ッ!」
己の慟哭が谷に響く。
風が吹いた。
強く吹いた。
絶叫が突風になる。
吹き荒れる強い風に真っ黒な絶望が乗った。
衝撃は波となり、森を揺らし、岩を揺らし、地が揺れる。
この日、一頭の竜がこの世から消えたことを、世界中の皆が知った。
岩山が軋むほどの嵐と共に。
急速に昏く堕ちてゆく意識の最中にふと、最愛のひとの聲を微かに聴いた気がした。
最期の力を振り絞って放たれた愛の唄が、その欠片が、少しだけ。
胸の珠を掠めて消えていった――。
新連載はじめました……と同時に、駆け足投稿です。
しばしの間ですが、一気読みどうぞー。
完結を待ちたい方は、8月8日(予定)にまたお越しくださいませ!




