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十二話

 冷たい白い霧は建物すら陰鬱にさせる。


 寂しくも美しい灰色の世界を作り出す。


 三日後には最強の魔術師が決められる魔法試験が行われる会場、オータル闘技場は一見廃墟の様に見える。


 円形に作られたこの場所に黒いマントを羽織った女性たちが集まっていた。


 彼女たちはフードを深く被り顔を隠して、見える所にネズミの紋章が描かれたコインを革紐で身につけていた。


「皆さん、契約に従い行動をお願いします」


 少女の呼びかけに黒いマントの集団は黙々と動き始める。

 彼女たちは低く震える様な歌を響かせながら魔法陣を描いていく。


 

 我らは契約に従い

 我らは契約に従い


 尊厳を取り戻しました、子供たちを取り戻してくれました


 我らは契約に従い

 我らは契約に従い


 唯一の味方なのだから、その為ならば、我らは契約に従い

 ウッチ・ロードの元で従順たるしもべとなります


 我らは契約に従い、たった一つのチャンスのために

 決して破ってはいけない、大事な大事な契約

 子供でも知っている、大事な大事な契約


 我らの母との約束は絶対デス




 着々と儀式の用意を進めていく彼女たちの歌は霧の中に不気味な音として響き渡る。

 そこに闘技場の警備を任された男が歌声に釣られてやって来た。


「なんだ、お前たちは?」


 黙々と作業を続ける女性たちに問いただす。

 怪しい団体に警備員の男は警戒を怠らない。


「……」


 彼女たちは手を止める事なく、筆を動かしていた。


「聞いているのか⁉︎」


 腰の警棒を取り出しながら男は叫ぶ。その時、コツコツと靴の音を響かせて近づく少女がいた。


 淡い紫色の髪。

 髪の隙間から覗く、血の様な赤い瞳は輝いていた。


 少女の顔はとても年頃の子供とは思えない無表情に凍り付いている。


 彼女は淡々と男に訳を話す。


「申し訳ございません。彼女たちは契約により、組織員、契約者以外と口を聞くことができないのです。最もあなたの様な乱暴なお方には誰も口を開く事はございません」


 クスリと微笑む顔は凍りついており、男を一瞬狼狽えさせた。しかし、すぐに男は自分の職務である闘技場の警備を全うしようとする。


「ここは現在、立ち入り禁止になっている。即刻立ち去りたまえ」


 帽子を持ち上げながら話す男に少女は何も言わない。

 男はピクリと眉を吊り上げて待ったが、それでも答えてはくれなかった。


「聞いているのか貴様!」


 痺れを切らした男は警棒を振り上げて、少女に殴れかかろうとする。


 ゴキ、グシャ!


 鈍い音が円形の闘技場に響く。

 巨大な猛獣の様な黒雲が男を覆う。

 紫の雷が男の肉と骨を引き裂いていった。


「はぁ」


 少女は陰鬱なため息をこぼす。

 上半身を無くし、崩れる男を見下ろしながら呟いた。


「契約違反デス」


 契約は守らねばならない。


「貴方はここの警備を引き受ける際、契約をしたのでしょう? ならば、書いてあったはずです。私たちの邪魔をしてはならないと」


 目の前の単細胞にその様なことを言ったところでもはや意味はない。

 少女は振り返り、契約に則り魔法陣の完成を急がせた。


 引き潰された男の血は、じんわりと闘技場の中心に伸びていく。

 闘技場の中央に流れてゆき、地下へと落ちていった。


 隠された聖杯に男の血が注がれていく。

 聖杯が満たされるにはまだ、まだ足りなかった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

何やらあやしい集団が細工をしていますね。

この国には関われば不幸になる組織が五つございます。そのうちの一つです。

ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。

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