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へとへと さん

〈へとへとさん〉

 疲れている人


 εー εー εー

  εー εー εー


 よくブラック企業の勤め人を描写する際に「毎日毎日終電だよ」と言わせたりするが、そんなのはまだ甘い。

 なぜなら下には下があるからだ。


 会社徒歩圏内に独身寮。


 家賃、普通(なんなら高目)。

 光熱費、自腹。

 家電、自腹。

 火災保険、自腹。

 生活面、サポート無し。


 つまりは、中古のマンション? アパート? を会社が買い取って家賃を徴収しているだけなわけだが、これだけで “終電” という言い訳が、リミッターが使えなくなるのだから困ったものである。

 別に家賃が安いわけでもないのだから他のところにすれば良かった、なんてのは後の祭。

「近いと便利だよー」なんて言葉の裏(誰にとって)が読めなかった自分を恥じるのみだ。


 ルルルルル。


 ご存じだろうか?


 警備会社と契約している場合、いつまで経っても夜間の警備がONにならないと確認の電話が入る。

 私の勤めているところはだいたい二時か三時(もちろん昼間じゃないよ? 正真正銘、二十四時間表記でもって)頃に電話が鳴る。つまりはそんな時間まで人が残っているのは変ってこと。まあ、基本9時ー17ご時の会社だし? それから八時間労働丸一日分以上働いている、なんてのは異常とされても仕方ない。丑三つ時だし。

 もうすっかりお馴染みになった警備会社の人に「大変ですね。もうそのビルだけじゃなくて、うちの班受け持ちで働いているのあなただけですよ」って言われてからさらに一時間。ようやく目処が立った(・・・・・・)ので帰る事にする。

 ・・・どうなっとんじゃこの会社。


 タイムカードは押さない。


 深夜残業開始時間で押してあるから。


 ここ何ヵ月、いや何年、下手したら十数年毎日同じ時間に打刻されているのに疑問を挟む人はいないのだろうか?

 まあ、本来の時刻はメモっているし、なんならデスクのパソコンの稼動ログもある。


 ふう。


 警備をいれて、鍵をかけ、やっと一日が終わる。(一日? 終わる?)


 ぺたりぺたりと夜の薄暗い廊下に響く足音。

 向かいのガラス張りのビルに映るこちらの影で明るいのはこの階だけだ。


 ぺたり、ぺたり、ぺたり。

 ぺたり、ぺたり、ぺたり。


 絨毯敷きなら抑えられるのだろうが、コンクリートに薄い、もう古びてなんの模様かも不明なシートを貼った廊下じゃ足音を立てないのは難しい。


 ぺたり、ぺたり、べたり。

 ぺたり、ぺたり、ぺたり。


 まあ、抑えるつもりもないし、足音がしたからといって文句を言う人もいない。


 このビルにいるのはもう───


「先に行ってくださいっっ!」


───俺だけのはず、だった。


 え? 先に え?


 ぺたぺたぺたっ。


 思わず窓に駆け寄り、上下(うえした)確認。

 うん。当たり前だが誰もいない。

 ついでに車も通らない。


 ぺたり、ぺたり、ぺたり。


 そもそも、若い女性の声だったしな。

 ちなみにうちの会社にそんな人はいない。

 パートにきてくれる事務のおばちゃんは。

 ・・・おばちゃんである。


 遭遇すると、怖いよりビックリ! って本当なんだな。


 これから数日、さっきのことを思い出して震えたりするんだろうか。


 とりあえず。


「いや、足音だけの妖怪じゃねーよ!」


 とある女性芸人の声でなされる脳内ツッコミは止まらなくなった。


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