対パンツァーアンドロイド戦
『敵は後退して行きます!』
巨大オートマタの前方下部に在る、装甲人形の管制室からの報告だった。
「歩兵は着いてこれるか?」
『後から別の1個中隊が上がってきました。行けます』
「よし、前進だ!パンツァーアンドロイドは前へ」
「了解!」
『了解!』
正操縦士がレバーを2本倒すと、オートマタは前後に大きく揺れ、後ろ脚の付け根付近からディーゼルエンジンの白煙を吐き、再び前へ動き始めた。
「狙撃組は撤収させました。防御陣地は砲兵中隊を中心に塹壕をA・B・Cの3列態勢で掘らせました、それとそれぞれに前装砲と鹵獲した後装砲を据え置き十字砲火を形成しています」
アルトゥルは前線からの報告を聞き、次の作戦を練っていた。
「オートマタは6体って話だが、随伴歩兵はどうだ?減らし切れたか?」
「クシラ騎士団とケイマン中尉達がかなりの損害を与えたようですが、撤収させた狙撃班が1個中隊規模の援軍を目撃しています」
林の先から援軍が来たと聞いたアルトゥルは、林の南側に鉛筆で印を書き始めた。
「2個小隊を抽出して、南側に回り込ませろ。敵が迂回するのを阻止しつつ、2足歩行オートマタの排除が完了したら側面から一気に叩くぞ。それと、もう1個小隊を林の先の三叉路まで前進させて、退路を断て」
アルトゥルから反撃の用意を命じられ、幕僚達は動き始めた。
しかし、急な方針変換で振り回される形では無く、指示されているのを待っていたかのように、次々と言われた事を実行に移し始めた。
「3個小隊は用意できています。それぞれ手榴弾を多めに持たせてます」
防御陣地で勢いが殺げた敵に対し反撃を加えるのは効果的だった。そのまま敵の攻囲陣にまで前進できるだけの準備をアメリカ連隊は既に出来ていた。
「来たぞっ……」
塹壕の途中に設けられた砲塁に潜む砲兵達は、林から1段低くなっている開所にオートマタが飛び降りて来るのを見て、息を潜めた。
草木を使い偽装しているので、動かなければ位置がバレない筈だが、オートマタの首が此方を向くので大砲の拉縄を握る兵士は緊張で手足が軽く震えた。
時間の流れが遅く感じるが、オートマタは独特な機械音を響かせ2,3歩歩いた所で止まると、巨大オートマタや随伴歩兵が降りてくるのを待っている様子だった。
(くそ、どうする?)
(歩兵が来てない。それに、合図が未だだ……)
指揮官のギレイ少佐が発砲するまで待機する事になっているが、ギレイ少佐の居る塹壕は動く気配が無かった。
(5体しか居ないぞ)
ギレイ少佐の塹壕の位置からは全体を見渡せるはずが、出て来たオートマタは5体しか確認できずにいた。
もう1体は林の中で待っているのか、それとも……。
(歩兵が来た。巨大オートマタもだ)
騎士団にやられた歩兵達と同様に、前装式ライフルと剣や槍で武装した反乱農兵だったが、2足歩行タイプのオートマタが既に敵を蹴散らし、全面に立っての進軍の為、士気は高かった。
(半分降りてからだ……。用意を)
部下が悟られない様に慎重に砲を動かし、拉縄も手に持った。
少しでも指揮と戦力を分断させるため、林から半分出た所で攻撃の合図をする腹積もりだった。
「……」
狙撃手が持ち帰った話では、1個中隊規模と聞いていた。ギレイは兵達の動きから上下関係を勘案しつつ林から降りる兵を一人一人観察した。
1段……1メートル程の高さの林から真っ先に飛び降りる者、此方の様子を窺い慎重に滑り降りる者、木立に隠れ様子を見る者、段の上から指示を出す者。
「……撃てぇ!」
拉縄が引っ張られ、砲撃の衝撃と爆音に包まれつつ、ギレイは砲が狙っていたオートマタを観測し続けた。
「命中だ!」
砲撃に気付いたオートマタが銃口を此方に向けたが、引き金を引く前に、先に此方の砲撃が腰に当たり、オートマタは甲冑の様な装甲板や内部の部品を飛び散らしながら弾け飛んだ。
すぐ側にいた歩兵達は飛んで来た破片を全身に浴び、その場に倒れ込み。また、他の砲塁からも砲撃が始まり、塹壕からの射撃で歩兵達はその場に倒れ込んだ。
「っ退避!」
だが、そんな状況でギレイはオートマタが砲撃を避け、此方に機銃を向けているのを見た。
ギレイ達が砲塁から塹壕に駆け出すや否や、オートマタの銃撃が砲塁めがけて開始された。
「無力化出来たのは1体だけか!?」
オートマタからの反撃にあい、塹壕に頭を引っ込めたショーンは他の兵士に叫んだ。
「ああ!最初に吹き飛んだ奴だけで、他は避けやがった!アイツら見掛けより素早いぞ!」
叫んだ兵士が頭を少し出すと、空かさずオートマタは機銃で狙ってきた。
「ああ、くそ!おい、爺さん。コレじゃ頭も出せねえよ!」
三途の川で一緒だったので、ショーンの事を爺扱いしている兵士は悪態を吐いた。
「ああ、そうだな。場所を変えるぞ、着いて来いよ!」
手榴弾を1発投げ付けたショーンは、塹壕の中を進み後ろのB列まで下がり始めた。
途中、砲撃せずに隠されていた砲がオートマタへ射撃を開始したが、どうなったか確認する余裕はなかった。
「ふぅーーーーっ……」
撃ち合う音を聞きつつ、アルトゥルはずっと指揮所として使っている橋塔1階の天井を眺めていた。
(1人20発携行させてる……。予備で塹壕内に運び込んだが……)
勝ち負けが決まる前だが、補給士官からの報告が悩みのタネだった。
「弾がねぇ……」
アルトゥルは怨めしそうに言葉を漏らした。
橋頭堡確保の為、アメリカ連隊が先陣を切ったが、ボルトアクションライフルを使うため銃弾の消費が激しく、このままだと解囲戦に参加出来るか微妙なのだ。
かと言って、反乱軍に対してアドバンテージである射撃を控え、白兵戦だけで戦うにもリスクはある。
「A列から撤退!」
伝令の叫び声が指揮所に響いた。
現に今も、前線で部下が必死で戦っているので「節約してくれ!」なんて軽いノリで言える筈はなく、アルトゥルは悩み続けた。
「計画通りだ!順調だぞ!」
撤退する味方の兵士が撃たれ、目の前で倒れたが、誰かがそう叫んだのをショーンは聞いた。
「順調だぁ!?」
倒れた兵士の脈を確認しようとしたが、背中が大きく吹き飛ばされているので即死したのに気付いた。
「いいか!映画みたいに真っ直ぐ飛ばないからな!ちゃんと距離を合わせろよ!」
開けたAが列で使うには距離が有ったので、B列に用意していたパンツァーファウストを手渡しながらショーンは叫んだ。
受け取った兵士達は事前の打ち合わせ通り、狭い塹壕や岩陰等に身を潜めオートマタを待ち構え始めた。
「矢だ!伏せろ!」
途中で随伴歩兵に混じっていた弓隊が山なりに放ったやが矢が真上から降り注いできた。
「あっ!」
左の肩甲骨の辺りに衝撃を感じ、ショーンはよろけた。
「おい!大丈夫か!」
興奮状態だからか、不思議と痛みを感じ無い状況だが、恐る恐る右手で左肩から肩甲骨へと手を伸ばすと指先が矢に触れた。
「なんてこった……」
自分の事を不死身のヒーローか何かだと思っていた訳では無いが、矢が身体に突き刺さった事態にショーンは動揺した。
「ライバックさん!」
近くに居たドミニカが慌てて駆け寄ってきた。
「急所は外れてます……抜くと血が出るので」
「ああ、知ってる!コレでも僕ぁ医者だよ!」
ショーンが軽く混乱しているのに気付いたドミニカは、何も言わずに鏃の根本から矢竹をへし折った。
「邪魔になるから根本近くで折りましたよ」
一瞬、何の事か判らなかったショーンだったが、鏃が無い矢を見せられ状況を理解した。
「てか、片手でへし折ったよね?」
「来るぞー!」
叫び声と共に、大きな足音が近付いてきた。
そして、足音が止んだと思った瞬間、1体のオートマタが塹壕の広くなった所、ショーン達の目の前に飛び降りてきた。
「げっ!」
持っていた機銃の弾を撃ち尽くしたので、接近戦を挑んで来たのだが、ドミニカはそのオートマタに向かい走り出した。
「ピィー!ピィー!ピィー!」
直ぐにドミニカに気付いたオートマタはブザーを鳴らし、右腕に内蔵されていた大剣を突き出し向かって来た。
「危な」
ショーンは叫んだが、オートマタが剣を振り上げたがドミニカは剣を抜くこと無く懐に飛び込むと、半歩右に飛び、オートマタの脇腹に自らの右拳を叩き込んだ。
「い゛!?」
まるで大砲の様な音を轟かせて放たれた拳は装甲がないオートマタの脇腹の隙間に刺さると、衝撃と共にオートマタはビクリと身体を強張らせ後ろ向きに倒れた。
「……あ、イシス様の言ってた通りだ」
イシスから「脇腹は装甲が無いから殴れば落ちるよ」と聞いていたので試してみたら、本当に一撃で倒せたのでドミニカは驚いた。




