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斥候部隊と遭遇

「はぁ……」

 縦隊で行軍中のアメリカ連隊の中央付近で馬に乗っていたアルトゥルは何処か上の空だった。


「どったの?」

 心配になったショーンが話し掛けたが、「ん……?」と短く返事をしてアルトゥルは黙り込んだ。


「……いや、カヨに“今回の遠征から外れてくれ”って頼んだらよ。怒られた」

「怒られた?」


 気を使ってショーンを含めてアメリカ連隊の兵士達はその場から離れていたので、そんな事が有ったのは知らなかった。


「何か……“すぐそうやって、自分達ばっか危険な事をする”とか“待ってるコッチの身にもなれ”とか捲し立てられてよぉ」

 怒られた事がショックで半分も憶えていないが、カヨこと女騎士ドミニカは、オルゼル城に向け進軍中している縦隊の先頭集団に居る。

 万が一、再会したドミニカ(カヨ)の身に何か有ったらと思うと気が気ではなかった。




「はぁ……」

 一方のドミニカも何処か上の空だったので、彼女の従士であるルジャは心配していた。


「どうしたんですか?」

 前世の夫だった、ロナルド・ハーバーの名前を聞いてから、父親のピウスツキ卿と共にアメリカ連隊を尋ねに行ってから、何処か上の空だった。


「……それが、ロンから“今回の遠征から身を引いてくれ”って頼まれて」

「……はあ」


 邪魔にならないように、姉妹のリリアとゲルベラと一緒にビトゥフへ買い物に行っていたが。


「何時も何時も、あの人達が戦争に行くのを基地の官舎に残ってる私達は子供達と一緒に待ってたのよ。あの人ベトナムの時には大佐だったから、同じ部隊の隊員家族の面倒も私が見てたんだけど、判る!?朝起きたら同じ隊員の夫が死んだって報せを聞く時の気持ち!……何時も勝手なんだから」


「……」

 思えば、ドミニカが騎士になる前も、父親のピウスツキ卿相手にも同じ様な事を言っていた事を思い出し、ルジャは目を背けた。




「ピウスツキ卿!竜騎士です!」

 前方の警戒に出ていた竜騎士が戻って来て、発光信号を出した。


「……橋が落ちているか」

 オルゼル城に通じる橋が反乱軍の手に落ちていることを知らされ、ピウスツキ卿は馬をニュクスの居る縦隊の中央へと走らせた。



「橋が落ちているか、面倒ね」

 ピウスツキ卿は少し後ろで発光信号を見ていたドミニカの横を通り過ぎた際に指示を出した。


「ドミニカ!小休止出来る場所を探してくれ!」

 考えなしに縦隊のまま、守りを固めた橋に到着して攻撃をしようものなら、アッという間に大混乱に陥るので、軍議を兼ねた休憩を出来る場所を確保したかった。


「了解!……前に出るぞ!ハイム、お前も部下を率いて後から続け!」

「応っ!」

 

 ドミニカの弟のハイムは演習の時に使った金棒の代わりに、刃渡り5尺に及ぶ大太刀と和弓を袋から取り出すと、自分達の部下と共に左翼側に展開した。


 それに呼応するように、同じく和弓を取り出したドミニカも部下と共に右翼に展開する。


 ドミニカ、ハイムそれぞれ1個小隊10人規模、更に軍用犬を4頭ずつ連れた斥候部隊は前方の様子を探りに野原を駆け始めた。




「ハーバー将軍!ハーバー将軍!」

 アルトゥルの元に馬に乗った伝令が駆け付けてきた。


「次の小休止で軍議を行います!用意をおねがいします!」

「定時の軍議は17時の予定じゃないか!?何が有った!?」


 大規模な軍事作戦では、各部隊の歩調を合わせるために決められた時間に会議を行う事になっていた。


「竜騎士が反乱軍を発見しました!」





「ドミニカ様!右前方!」



「ペドロ!左に兵士だ!」




 橋を渡り、斥候に出ていた反乱軍の人馬部隊とドミニカの部隊が遭遇した。


「相手は5人か。角笛を!」



「クソ!仕掛けてくる気か!」

 ドミニカの指示でルジャが角笛を吹き、菱形の隊形で進んでいた騎士達が一斉に進行方向をペドロ達の方へと変えた。


「逃げるぞ!」

 向こうは完全武装の騎士団。対してペドロ達は軽装の鎧を着けただけの人馬の集まり。


 正面からぶつかっても簡単に蹴散らされるのは判りきっていたので、大急ぎで橋の方へと逃げ始めた。




「生け捕るぞ!犬を放て!」

 反乱軍に鎮圧部隊の存在が知れ渡るのを防ぐために、ドミニカ達は逃げ出した人馬達を残らず捕らえようとしていた。




「おい、真っ直ぐ戻らないのか?」

「危険だ!見ろ!弓を持ってる!」


 ドミニカがペドロが持っている弓より大きな和弓に矢を番えるのが見えた。


「アイツはドミニカだ!一度見たことが有るんだ!殺られる前に逃げるぞ!」

「アレが!?」


 既に数々の武功を上げているドミニカが目の前に居ると判り、人馬達は浮足立った。




−ィィイイイイ!


「うぁっ!」


「何だ!?」


 かん高い音を立てながら、矢が脇を通り抜けたので、ペドロ達は耳を塞いだ。


「まただ!」


 再び矢が脇を通り抜け、ペドロ達は苦悶の表情を浮かべながら逃げれる場所を探した。


「ピィーッ!ピィーッ!」


「犬だ!」

 騎士相手なら余裕で逃げれるが、放たれた犬は厄介だった。騎士よりも速く、それでいて人馬以上に持久力が有るので、あまり時間を掛けられなかった。

 危険を承知で森を抜けて橋まで帰るか、今はまだ音がする矢に晒された状態だが、狙い撃ちにされるリスクを覚悟で迂回路を進むか。



「しょうがない、森に入るぞ!」


 森の中で矢を凌ごうとペドロ達は再び向きを変えたが。



「うわ!」

 人馬の1人が前のめりに倒れた。


「おい!大丈夫か!?」


 後ろ脚に騎士団の誰かが投げたボーラが巻き付き、転倒したのだ。


「構うな!逃げてくれ!」

 転倒した際に脚を挫き、走れないと判断した兵士が叫ぶのを聞き、ペドロ達は森へ急いだ。



「この!離せ!」

 軍用犬に襲われる仲間の声が聞こえてきたが、どうする事も出来ず、ペドロ達は無我夢中で森の中を進んだ。




「森に入るな!」

 軍用犬だけ森へ送り込み、ドミニカは後ろを向き弟のハイムを探した。

 既に転倒した人馬は後ろ手に両手を縛られ、4つ脚も人馬を拘束するための鉄製の枷によって自由を奪われていた。


 もはや遠くに行くことが出来ない人馬の捕虜をこの場に置いて、自分達も追撃に出ても良いが、自分達だけでは人手が足りるか不安だった。


「先回りだ!急げ」

 ハイム達も軍用犬を放ち追撃戦に移行していたので、ドミニカはペドロを追い続けた。



「ああっ!くっそ!」

 木々の枝で顔や手足を傷付け、木の根っこに脚を取られつつもペドロ達は森の中を進み続けた。


「おい!犬が!」

 気が付けば、遥か後方に居た筈の軍用犬が側面に回り、進路を塞ごうとしていた。


「何時の間に!?」

 コチラは進むのに難儀しているのに、軍用犬は森の中で速度を維持しつつ進むのは予想外だった。


「ピーッ!」

 背後では犬笛が聞こえ、側面の軍用犬は見えている他にも、複数匹の軍用犬の足音や呼吸音が聞こえる。


 段々と軍用犬の気配が近付き、ペドロ達は走りながらも頭頂部の耳を動かし、周囲の様子を探り続けた。


「ぅぁ!」

 にも関わらず、集団の左前を走っていた仲間の首元に、茂みから飛び出てきた軍用犬の一匹が噛み付き。仲間は小さい悲鳴を上げてその場に倒れた。


 それを合図に、左側から一斉に軍用犬が飛び掛かって来たので、ペドロ達は剣を抜いたがとても敵わなかった。


「離せ!この犬!」

 的確に剣を持つ側の手首に噛み付き。更に4つ脚にも複数の軍用犬が噛み付いた事で、更に1人がその場に倒された。


「うわぁー!」

 8匹居る軍用犬は、必ず複数匹で人馬の1人に襲い掛かるので、森に逃げ込めた人馬達は完全に足を止められた。



「うおおぉぉ!」

「なっ!?」

 ハイムが大太刀を振り回し、人馬の1人が背中を打たれその場に倒れた。

 軍用犬に気を取られている間に、下馬した騎士達に追い付かれた事をペドロ達は知るよしはなかった。


「囲め!」


「うわっ!?」

 投げ縄が首などに掛けられ、アッという間にペドロも捕らえられてしまった。


「縛り上げろ、捕虜にする」


 暴れる人馬達を引き倒し、次々と縛り上げようとするが、当然人馬達は四肢の蹄を蹴り上げるなどして抵抗していた。


「おらぁ!暴れんな!」

 一際暴れる人馬を巨漢のハイムが押し倒し、後ろ手に手を縛ろうとしたが。


「いや!」

「へ!???????」


 革鎧を着込んでいて、髪も短かったので気付かなかったが、ハイムが腕を掴む際に軽く胸に触れた時に違和感を憶えた。


「ドコ触ってるのよ!」

 顔面を平手打ちされたが、ハイムは混乱していた。


「女!?」


 相手が女性だと気付き、ハイムは慌てて手を離した。


「ご、ごめんなさい!」

 ハイムが急に謝り、他の騎士や従士も少し下がったので人馬の女は逆にびっくりした。


「姉ちゃん!来てくれ!」

 もしや、逃げるチャンスかと思ったが、すぐに藪を掻き分けドミニカ達が出て来たので、それは叶わなかった。


「何?」

「女の人居る!」


 眉を顰めたドミニカは人馬の女とハイムを交互に見た。


「あんたね!いい加減慣れなさいよ!」


 人馬の女を押し倒し、ドミニカは後ろ手に縛り始めたので、ハイネは慌て始めた。


「ちょっと、乱暴」


「やぜぇらしか!ぎばっか言うな!おまんらはさっさと周囲を調べてこい!」

 毎度毎度、ハイネ達騎士団の男性陣が女性絡みになると途端にナヨナヨするのでドミニカはイライラし始め薩摩弁で捲し立てたが、急に知らない言葉で怒鳴り散らすドミニカに驚き人馬の女は抵抗するのを止めた。

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