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オルゼル城包囲の始まり

「爆薬はコレだけだな?」

「ああ、それだけだよ」


 城に侵入したポルツァーノ兄弟たちが城内に仕掛けた時限爆弾を荒鷲の騎士団が全て回収した。


「良く造ったな。ダイナマイトかコレ?」

 束ねたダイナマイトに時計を縛り付けた、判りやすい見た目をした時限爆弾に騎士の1人は半ば呆れつつ質問した。


「ああ、そうだ。ダイナマイト工場を経営していた男を雇って造らせたんだ。時計もスイス人を雇って造った高級品だ」


「なんとまあ……」


 城内に鐘が鳴り響き、遅れて「敵だー!」と、兵士が叫ぶのが聞こえてきた。


「お出でなすったか」

 騎士はそう言い残すと、爆弾を木箱に入れ部屋から出ようとした。


「ああ、待ってくれ。何が来たんだ?」

「反乱軍だ!予定を前倒しして攻めてきたんだよ!」





「左から騎士団!」

 オルゼル城の南を東進していた人馬の部隊に斥候に出ていた騎士団の1隊が接近してきた。


「迎え撃つか!?」

「いや!橋に向かうぞ!」


 人馬の部隊を指揮するペドロは橋へと急いだ。




「速いっ!」

 追う騎士団の1隊は目の前で加速する人馬に置いていかれた。


 完全武装の騎士を乗せた軍馬と違い、相手は鎧を着けただけの人馬。向こうの方が軽い分足が速かった。


「後方!村に歩兵が向かいます!」

「ええいっ、クソぉ!」

 振り返った先で、城の麓に在る村へ、歩兵の集団が向かうのが見えた。


「引き返すぞ!」

 残っている住民の避難を優先させるべく騎士の1隊は村へと引き返した。




「ペドロは橋を確保したな」

 南西からゆっくりと城に近付く反乱軍の本隊を指揮するブレンヌスは、橋に反乱軍の旗が翻ったのを見て村の方に視線を移した。


「村の方も住民を追い出してます。間もなく作業に取り掛かれます」


 大森林に住む妖精から大量に買い込んだ資材を乗せた荷馬車が続々と本隊の近くへ現れ、積んできた資材の荷卸作業が始まっていた。


「いそげ、明日にはビトゥフから援軍が到着するはずだ」




「反乱軍は村の手前で止まりました」

 オルゼル城に立てこもる騎士団達は防戦準備に追われていた。


「投石機の準備が出来ました。射ちますか!?」

 騎士団が防戦の指揮をしている塔に騎士の1人が指示を仰ぐために現れた。

「まだだ、待機させろ」


 先頭集団に十分届く距離だが、射程外に逃げられたら意味がなかったので騎士団長のイゴール卿は射撃をさせなかった。


「敵軍に動きです!」


 イゴール卿を含む騎士達は双眼鏡で村の方を見ると、地面が動いていた。


「何でしょうか!?」

「堀を造ってるんだ」


 地面が沈み込む形で2本の堀が現れ、更に反乱軍側の地面が膨らみ、高さ6メートルの土塁が姿を表した。


「一体誰が魔法を」

「奴隷の中に魔法が使えるのが居るのだろう」


 城を取り囲む形で堀と土塁が魔法で築かれるのを見ながら騎士の1人が力無く吐き捨てた。


「そんな馬鹿な、奴隷ごときが」

「大方、捕まった時に黙っていたんだろ!」


 出来上がった空堀と土塁に反乱軍の兵士が木の枝を尖らせた杭や丸太を加工して造った杭を刺し、更に城と空堀の間に幾重にも掘りを巡らせ始めた。


「塹壕でしょうか?」

「……“アレシアの戦い”だ」


 反乱軍の兵士が土塁の要所要所に櫓を建て、反対側にも土塁と空堀の設営を始めたのを見ながら、イゴール卿が呟いた。


「異世界で古代に起きた戦いだ。街を包囲しつつ、外から包囲を破ろうとした敵の援軍を跳ね除けた戦いだ。奴等、この城を包囲中に援軍に逆包囲される事を想定しているのだろう」





『新設されたポーレ第1大隊。魔王軍の中核を担う第1軍団所属。指揮官はファレスキ出身。パヴェウ・アダムスキー大佐』


 オルゼル城の行為が進む最中。ビトゥフでは反乱鎮圧に駆け付けたニュクスの軍勢を中心に観閲行進を行っていた。


「かしぃーらー……」


 徒歩で行進するアダムスキー大佐の号令で旗手がポーレ族の旗を掲げ、アダムスキー大佐も剣を掲げた。


「なかっ!」


 大佐と旗手は剣と旗を下ろし、後ろに続く士官は挙手の敬礼、更に後ろの第1大隊の兵士達の内、一番右端を除く兵士が受閲するヴィルク族のチェスワフ部族長に顔面を向け、頭の敬礼をした。


 連日のテロ事件で不安が広がったビトゥフの住民を安心させるために、チェスワフ部族長が思い付きを口にした所、その話しが独り歩きし。気付けばオルゼル城から竜に乗り戻って来た頃には準備が出来ていたのだ。


(眠い……)


 一睡もしていないチェスワフ部族長は、下町の市場に設けられた観客席の上で、検閲部隊の兵士達の敬礼を受ける役なのだが、観客が多く欠伸すら出来ずにいた。


 幸い、耳元で軍楽隊が行進曲を弾き続けているため、眠りに落ちることはないが。


『続きまして、クヴィル族“クシラ騎士団”クヴィル族の転生者によって結成された騎士団で、指揮官は騎士団長のピウスツキ・ラント卿』


 突然、曲が途切れ、間髪入れずに日本の“抜刀隊行進曲”に替わった。


「かしぃーらー!……中っ!」


 先程の第1大隊と違い、コチラは騎士団なので全員馬に騎乗していた。


『旗手はピウスツキ卿の娘 ドミニカ・ラント』


 8条の旭日旗を掲げるドミニカの名前が読まれると、行進を見に来ていた女性陣から黄色い声援が上がった。


 男勝りで、男性騎士に混じり戦に出ているドミニカの噂はビトゥフでも知られており、此処でも声援が上がったのだが、チェスワフ部族長は内心苦笑いしていた。


(今回も縁談が流れたもんな……)


 既にドミニカは20代手前だが、男勝りの性格が災いして、何度も縁談話が流れていた。


(幾ら美人でもあの性格ではな)


 そして、今年になってようやく、荒鷲の騎士団の跡取りであるリシャルドと縁談が纏まっていたが、リシャルドは反乱軍を率いて蜂起したので、縁談は自然消滅状態だった。


『続きまして、クヴィル族第1大隊……』


 再び曲が変わり、クヴィル族の兵士達の行進が始まったが、特に知り合いでも無いので、チェスワフ部族長の印象には残らなかった。


 その後も、南部部族の部族長や騎士団長が率いる幾つかの大隊の行進を受閲し、亡命マルキ王国の兵士が“カチューシャ”の曲に合わせて行進しているのが印象に残った位だった。


「続きまして、ポーレ第2大隊。指揮官は鎮圧軍指揮官を兼ねる魔王グナエウス・ユリウス・カエサルの妹君、クレオパトラ・ニュクス将軍」


「かしーらー!……中!」

 馬に乗るニュクスが人狼のする2指の敬礼をしてくれたので、チェスワフ部族長は胸をなでおろした。


(右手を伸ばされたら堪らからな……)

 ローマ式の右腕を伸ばす敬礼をされて、転生者の一部から“ナチ式”だと批判されるのを恐れていたが、ニュクス本人は言われた事を守っていた。


(まあ、観衆が右腕を伸ばしているが)

 魔王様がローマ人だと聞いた一部の観衆は右手を伸ばしていたが、それに関しては見て見ぬフリを決め込んだ。


『最後に各部族混成連隊、アメリカ連隊。指揮官はロナルド・ハーバー将軍』


 曲がアメリカ軍歌の『陸軍は進んで行く』に変わり、サーベルを持ったアルトゥルを先頭に士官とボルトアクションライフルを担いだ兵士が行進し始めた。


「かしぃーらーー!なかっ!」


(ミランの長男坊だったが、何だあのヒゲは)


 アルトゥルの顔は知っていたが、顎髭が生えていたので面食らった。


 今世では14歳のアルトゥルが若く見られるのを気にして付け髭をしていただけだったが、観衆は後ろのアメリカ連隊の歩兵の方を見ていた。



「銃かあれ?」

「鎧着てないわね」


 他の部隊と違い、兵士達は鎧を着ておらず、武器もライフルに銃剣だったので目立っていたのだ。


「農民か?」

「商人みたいなのも居るぞ」


 おまけに、服装もバラバラだったので余計だった。


「ミニットマンかな?」

「何だいそりゃ?」

「異世界のアメリカに居た民兵の事だよ。普段は農家や猟師をしてるけど、戦の時は駆け付けてくる連中なんだ」



「おい、人馬が居るぞ」

「人猫もだ」

 部隊の後列に人狼以外の種族が居るので観衆の一部が驚いて声を上げた。


「ハーバーって上院議員だったよな?」


「奴隷を解放するって話は本当なのか?」


 観衆の中に転生者が居るので、魔王が進める予定の“奴隷解放”の件も含め話題にはなっているのはアルトゥルの狙い通りだった。


 奴隷解放戦線(FELN)の煽る武装蜂起をせずとも奴隷は解放され、なおかつ蜂起に参加した事を不問とする。

 意図的に噂は流しているが、魔王側に着いたアメリカ連隊が実際に解放奴隷を兵士として採用しているのを見せるのは効果が有った訳だ。





「右向けー。止まれ!」


 ビトゥフの街から出た街壁の外の広場では、行進に参加した部隊が行進に参加しなかった部隊と合流を始めていた。


「ご苦労さん。1時間後にオルゼル城に向けて出発する。みじけぇが買い物するなりゆっくり休んでくれ」


 他の指揮官が長々と自分の部下に訓示をしたり、出発準備をしている中、アルトゥルは短くそう言い、部下達を解散させた。

 

「さぁってと」

 自分も家族用にとビトゥフ名物のぶどう酒でも買おうかと思案していると、ドミニカとピウスツキ卿がコッチを見てるのに気付いた。


「げっ!?」

 “何かしくったか!?”と考えていると、2人は兵士の波を掻き分けながら近付いてくるので、一瞬目を逸らしてから再び確認したが、やはり真っ直ぐ近付いてきた。


「あなた、ロナルド・ハーバーなの?」

「お、おう。そうだよ」

 背の高いドミニカを見上げつつアルトゥルは答えた。


「アメリカの上院議員で、左右違う靴下をたまに履いて車の運転が下手な……」

「おい、ちょっと待て、後のは何でぇ?」


 妙にニッチな質問だったのでアルトゥルが途中で遮ったが、ドミニカは目に涙を浮かべ始めた。


「ロン……私よ……」

「!?」


「なんだ?」

「あ、あー……」

 他の兵士達がざわめく中、軍医として動向していたショーンはドミニカとアルトゥルを見て声を出した。


「佳代よ……」

「佳代ちゃん!?」


「知ってるんすか?」

「あー、その。ドミニカさんってハーバー将軍の元奥さんなの」

「え!?」

「うそぉ!?」


 兵士達がショーンの言った事に驚いている間、アルトゥルとドミニカは抱き合い唇を重ねていた。


「アナタっ!」

「離すものか……もう二度と離れ離れになるものか」


 急な出来事だったが、周りのアメリカ連隊の兵士達は口笛を吹いたり歓声を上げるなどして囃し立てたので、他の部隊の兵士達は不思議そうに傍を通り過ぎていた。


「あー、君が噂のロナルド君かい?」

「へ?」


 脇に居るピウスツキ卿の事をすっかり忘れていた。


「前世では佳代と結婚してくれたそうだね。ありがとう」

「……どちら様でしょうか?」


 状況が飲み込めずに困惑していると、ドミニカが紹介してくれた。


「ああ、お父さんよ。前世でもお父さんだったけど、会ったことなかったから、初めてだったわね」

「え!?あ」


 前世では既に死んでいたので、完全に初対面だったので、アルトゥルは顔を強張らせながらピウスツキ卿と握手をした。


「今世でも頼むよ」

「はい、ヨロコンデ」

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