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飛行艦『吾妻』

うん、その




唐突だがTwitterで言ってたS-300と飛行艦の戦闘回なんだ、すまない。完全に趣味だ

「方位250 距離100 高度1万2千メートル 的針080 的速350」


ラケータ(ミサイル)起動。司令部に連絡」

 レーダー員の報告を聞いた指揮官が指示を出し、ミサイルの操作員がミサイルの起動作業を始めた。


「大尉、中央司令部から飛行艦で間違いないかと、確認を求められています」


 中央司令部に無線で連絡していた部下から受話器を受け取ると、現場指揮官の大尉は司令部と話し始めた。


Алло(もしもし)?」

『大尉か?その目標物は例の飛行艦で間違いないのか?』


「レーダーの反射の大きさと高度から間違いないかと。現在、リンゲン上空を越えイリヤスクかエーベルブルグに向かうと思われます」

『偽像や擾乱(クラッター)では無いのだな?貴重なラケータを無駄撃ちする訳にはいかんのだぞ』


「ドップラー変化!的針変化の兆候あり!」

 大尉は受話器から顔を離し、レーダー員の方を見た。


「どっちだ!?西(イリヤスク)(エーベルブルグ)か!?」

「的針300に変針」


「イリヤスクに針路を取りました」

 地図に線を引き針路を確認した士官が叫んだ。


「飛行艦はイリヤスクに針路を変えました。間もなくС-300(S-300)の射程圏内に入ります」


『……書記長からも発射許可が出た。だが、目視で目標を確認してから確実に撃破してくれ。我々が対空ミサイルを持ち込んだ事を彼等に知られるのはまだ早い』





『ヨーソロー300』

 リンゲンの偵察写真を撮り終えたドワーフの飛行艦“吾妻”は針路を西北西に向け、イリヤスクへ艦首を向けた。

 乗員は全てドワーフだが、この世界の一般的なドワーフとは違い、髷を結わずに坊主頭だった。

『艦長、イリヤスクに針路を合わせました。上空到着は20分後です』


「了解した」

 飛行艦下部に設けられた航海艦橋に居る副長からの報告を受けたドワーフの艦長は、機関長と飛行艦の図面を前に話し合いを続けていた。

 普段は会議などに使う士官室だが、飛行艦の故障についての報告を受けていたのだ。


「1番復水器からの漏水は続いています。現在、応急措置を行っていますが、全力発揮は厳しい状況です。与圧装置は濾し器に蛾が詰まっていましたが、取り除いたことで正常に作動しました」

 機関長の報告を聞きつつ、艦長は伝声管の方に片方の耳の神経を集中させていた。


 先程あった副長からの報告も、伝声管越しに聞いていたのだが、報告以外に艦橋の様子を知りたくて蓋を開けたまま放置していたのだ。


「入渠の必要が有る故障は今の所無さそうだな」

「はい、ですが。細かい不具合が多いので、工廠に報告する必要が有ります」


 ドワーフが秘密裏に開発していた飛行艦だが、最新兵器故に故障が多かった。


 今まで試験艦として造られた木造艦と違い、飛行艦吾妻は巡洋艦相当。それも、装甲巡洋艦を目指して造られたので、艦は鋼鉄製で有り、船体下部には爆弾倉の他、対地攻撃用の連装6インチ砲3基に竜騎兵対策に機銃が設けられ、まるで第2次大戦時の軍艦を上下逆さにしたような見た目をしていた。


「後継艦の進空も、もうすぐだしな」

「人狼への援助で2隻贈る話も有りますからな」

 特にドワーフの杉平幕府として発表が有った訳では無いが、幕臣として軍艦を動かしている彼等の耳に、飛行艦援助の噂話は漏れ伝わっていた。

 

「では、報告は以上です」

「うむ、ごくろう」


 報告を聞いた艦長は士官室を出ると、艦橋に向かった。




『目標視認。飛行艦間違いなし』

 射撃管制レーダーのカメラの映像に飛行艦の姿が映し出された。


「射撃管制レーダー起動。1番2番用意!」

 操作員達が慌ただしくロシア語で説明書きが書かれた操作盤を弄り始め、手際よく発射準備を進めていった。



「誘導方式、ΥΠΡ(半見越し角)誘導。信管、近接信管」


ラケータ(ミサイル)ジャイロ正常。火器管制レーダー目標ロックオン。ラケータとのデータ同期開始」


「発射用意」


 指揮官の号令で、操作員がサイレンを鳴らすスイッチを倒し、周囲にサイレンの音が響くのを確認すると発射スイッチに指を掛けた。


撃て(Огонь)!」

「てぇ!」


 操作員が発射スイッチを倒すと、ミサイルキャニスターに納められていた対空ミサイルが高圧空気で撃ち出され、空中で点火すると飛行艦へ向かい飛び始め、数秒遅れで2発目も発射された。




「艦橋!前方地上から飛翔体!」


 誰が叫んだのか判らなかったが、副長が艦橋の窓から外を見ようとした瞬間、艦が激しく揺れた。


「何だっ!?」


 艦橋に居た殆どの乗員が吹き飛ばされたが、椅子に座り前後の傾斜を調整する操縦捍を握っていた操舵員が叫んだ。


「艦首下がる!現在、ダウン1度!」


 艦が大きいので操舵員は4人居り。前後の傾斜を担当する者、船のように左右への方向転回を担当する者、左右の傾斜を担当する者、そして艦の浮遊力を調整する者に別れていた。


「上げ舵、急げ!」


 航海士が指示を出し、姿勢を戻そうとしているのを確認した後、遅れてもう一度艦が揺れたので副長は艦橋の窓から艦外の様子を確認しようとした。


『火災、火災!缶室火災!火災の種類はA火災!』

『艦橋、揚錨機室。気圧低下…………』


 副長が艦の後部を見ようと窓に張り付いたがよく見えず、そうこうしている間に、伝声管や魔法を用いた通信装置越しに報告が上がってきた。


「火災警報鳴らせ!応急防火部署発動!対空戦闘用意!面舵一杯!」

「おもーかーじ!一杯!」


 艦内に置かれた火災警報のベルが一斉に鳴り、艦橋に居た機関士が艦内マイクを手に取った。


『火災、火災!缶室火災!火災の種類はA火災。艦内防火部署発動』


 言い終えると砲雷長がマイクを握った。


『対空戦闘用意!』


「ツリム調整に気を付けろ、艦内で人が動く」

「了解」

 操縦桿を握る操舵員達に航海士が指示を出す。缶室の火を消すために人が集まるのと、対空戦闘をするために銃座に着く乗員が動き回るので艦の重心がズレるからだ。


「あれは……」


 地上から伸びる2本の雲を見て副長は確信した。これは地上からの地対空ミサイル攻撃だと。




『命中!』


「高度速力に変化は?」

「変化は見られません」


 指揮官は一瞬考えてから次の指示を出した。

「3、4番発射。С-125(SA-3)にも発射を準備させろ!」


 先に発射したС-300(S-300)対空ミサイルよりも射程が低いС-125(SA-3)の準備を下令したが、С-300(S-300)の残り弾数が2本しか無く、次の斉射で打ち尽くすための処置だった。


 そして、予想以上に飛行艦が固いので、指揮官は防空陣地に展開してる全ての対空ミサイル発車機で攻撃する事を決断したのだ。



「何があった!?」

 艦橋に艦長が現れた時は副長が艦の異常を調べ上げている最中だった。

「地上からの地対空ミサイルです。現在、缶室で火災発生中。それと揚描機室の与圧が低下しました」


宜候(よーそろー)面舵30度!」

「針路180」

 副長は回頭動作中の操舵員に新たな針路を伝えた。


「針路180宜候」


『艦橋、缶室!(ボイラー)に異常無し。全力発揮可能!』

「缶異常無し。全力発揮可能です」


「艦長了解」


 缶室から伝声管の報告を担当の士官が中継(リレー)したので、艦長が了解の返事をした。


「確かにミサイルなのか?」

「間違い有りません。イリヤスク方面から飛んできました」


「宜候180度!」


 針路180度……つまりは南に定針したので、操舵員が報告を上げた。

「了解!」


 副長の采配で、艦がミサイルが飛んできた方向から離隔する方位に艦首を向けていたが、油断は出来なかった。


「発射地点は?」

「詳しい地点は判りませんが、噴煙が北の鉱山地帯から伸びてきました」


『艦橋、後部第2厩舎!後方より飛翔体接近!』


衝突警報!(コリジョン)下げ舵一杯!急速降下!」

「下げ舵一杯!急速降下!」


 艦長が指示を出し、砲雷長が衝突警報のスイッチを入れるのを待たずに、飛行艦は急降下を開始した。


「うわ!」

「わ!」


 砲雷長がなんとか衝突警報のスイッチを入れたが、急降下を始めたことで、身体を固定していなかった士官や乗員達が、慣性の法則で艦の後部方向へ舞い上がった。




「3番、4番命中!」

「敵飛行艦急降下開始」


 命中弾が出た直後に飛行艦が急降下したと聞き、歓声が上がった。


「ん?」

 火器管制レーダーを操作している操作員が異変に気付いた。


「敵飛行艦、高度7000メートルにて上昇開始!」




『くそ、何だよ!?』

 高圧空気が入ったボンベを背負い、ヘルメットを被った乗員達は悪態を吐いていた。彼等は缶室の火災を消そうとしていたが、幸い大きな怪我をした者は居なかった。だが、火元の石炭の塊が缶室を動いたので火が回ってしまった。


『ポンプ動くか!?』

『駄目です!動きません!』


 そして、消化用水を送り出すポンプが故障し、ホースから水が出ない事が、混乱に拍車を掛けていた。



『艦橋、缶室より機関長!』

 応急防火班の指揮を執る機関長が応急用の内線を使い艦橋を呼び出した。


『艦橋より艦長。どうした?』

『急降下で火災を起こしていた石炭が缶室中に散らばりました。ですが応急消火ポンプが故障し水が使えません。缶室の減圧をする許可を願います!』


 機関長の意図に気付いた艦長だったが直ぐに了承しなかった。

『減圧して火災が消えたところで缶の火はどうなる?』

『外部より吸気した大気を加圧して缶に送っているので大丈夫です。火が消えることは有りません』


 構造上そうだが、はたして適当か……。艦長は暫く悩んだ。


『いや、減圧して缶に不具合が出たら問題だ。燃えてる石炭を缶に放り込め』


 缶から煙が逆流したり、不意に消えるなどして蒸気を作れなくなることを危惧しての指示だった。飛行艦の浮力は缶で作った蒸気をピストンに送り、それの動力で発電した電気を新発見の鉱石に流して発生する浮力を使用していたからだ。






「高度6000。砲撃戦用意!」


「高度6000!」

「砲撃戦よーい!」


「やりますか?」

 副長は艦長の意図を確認した。


「敵のミサイル陣地が在るはずだ、そこを6インチ砲で叩くぞ」



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