黒幕達
−チェスワフ・レフ 旧名 チェスワフ・タウシク
1910年6月30日ワルシャワ生まれ。
1944年6月12日、ノルマンディーで戦死。
ポーランド空軍所属。
イギリスに亡命後、義勇軍として参加。
戦闘機パイロット。
最終階級少佐。
同僚達が出勤する前に、憲兵隊のレオンは“ロシア語を喋る男”に渡された資料に目を通していた。
−フィリプ・キンスキー 旧名 フィリプ・プルス
1910年 9月1日ワルシャワ生まれ。
1975年 1月12日コルシカ島で死亡。
ポーランド陸軍所属。
イギリスに亡命後義勇軍に参加。
戦車部隊出身。
戦後、各国亡命者を集め傭兵組織を立ち上げる。
中東戦争、アルジェリア戦争などに参加。
「ダビデの投石作戦……」
フィリプ卿が前世で死んだ事件の詳細をレオンは知っていた。
中東戦争でイスラエルと敵対していたフィリプ卿を暗殺するために、CIAが事故に見せかけて暗殺した事件だった。
−ミハウ・ウラム 旧名 ミハウ・ブレス
1910年 10月14日ワルシャワ生まれ。
1944年 3月19日ドーバー海峡で死亡。
ポーランド空軍所属。
イギリスに亡命後、義勇軍として参加。
戦闘機パイロット。
最終階級大尉。
−チェスワフ・レフ 旧名 チェスワフ・ハフマン
1910年 8月22日ワルシャワ生まれ。
1940年 8月28日ドーバー近郊で死亡。
ポーランド空軍所属。
イギリスに亡命後、義勇軍として参加。
戦闘機パイロット。
最終階級大尉。
ーイゴール・キンスキー 旧名 カルロ・リーヴァ
1903年 2月4日 サレルノ生まれ。
1953年 9月7日 ニューヨーク、ポルツァーの邸で死亡。
全部のファイルに、詳細な情報が書かれていたが、全てに目を通す時間がないので、重要そうな所だけ目を通し始めた。
ーイタリアン・マフィア、リーヴァ一家のドン。
ーポルツァーノ兄弟とは異父兄弟。
ーフィリプ・プルスと交友関係あり。
ーフィリプ、チェスワフ、ミハウ、ヤツェクは同じ学校の同級生。
他の封筒に写真と別の書類が入っていたので、手を取ってみると、写真に赤いインクで注意書きが書いてあった。
「フランツ・バーグ警部にカニンガム巡査部長」
1953年9月7日と書かれた白黒写真には、泣き崩れるポルツァーノ兄弟の横でニューヨーク市警の2人が何かをしている写真だった。
別の書類には、50年代マフィア抗争の開始と、写真の説明が書かれていた。
「イルダ・ポルツァーノ……。カルロとポルツァーノ兄弟の母親がこの時トラックに轢かれ死亡。また、カルロ・リーヴァも銃で撃たれ死亡」
他にも10枚ほど写真が同封されていたが、どれもマフィアの抗争関係の物だった。
「……」
更に他の封筒を手に取るとフィリプ関係の写真と説明の書類だった。
「リーヴァ一家との密輸……。兵士の輸送。武器の密輸」
戦後の冷戦期に欧州で起きた動乱に乗じて、フィリプの傭兵組織とリーヴァ一家の裏稼業のやり取りについての証拠。
「イゴール卿とフィリップ卿は今世では兄弟だったが、前世から繋がっていた。……そして、執拗にイゴール卿の荒鷲の騎士団を襲うポルツァーノ兄弟とイゴール卿は前世で異父兄弟……。ポルツァーノ兄弟がイゴール卿を狙う理由は何だ?」
最後に残った封筒を手に取り、レオンは中の写真を取り出した。
「イルダ・ポルツァーノ……っ!」
先月、ビトゥフの隣の宿場町ポゴダで撮られた物だと書いてあった。
「スウォィンツェ商会に転売、その後荒鷲の騎士団が購入!?」
イルダ・ポルツァーノが奴隷として売買された記録だった。ポルツァーノ商会がスウォィンツェ商会を襲い、執拗に荒鷲の騎士団を襲う理由が判った。
「っ!」
廊下を誰かが歩いている足音を聞いて、レオンは資料を全て纏めると、暖炉に投げ込み魔法で火を付けた。
「あれ?中尉早いですね」
部下の1人が出勤してきたのだが、念の為資料を全て焼却したのだ。
「急ぎの仕事が有ってな」
とは言え、資料には一通り目を通せた。後は、この先どう立ち回るか……。
「ルイージかい?」
イゴール卿が首から手を離したので、ルイージは声のした方を見た。
「そうだ……もしかしてマーマかい?」
イゴール卿が光石のランプを灯すと、暗がりの中で横たわっていた人馬の女性の姿が見えた。
通常の人馬の奴隷と違い、上半身は出来が良い女性物の服を着ており、下半身もスカートを履いていた。
「ああ、ルイージ……」
人馬の女性は立ち上がり、ゆっくりとルイージの方へと歩み寄った。
「会いたかった……。私のルイージ……」
起き上がろうとしたルイージに抱き着き、女性は泣き始める。
「ポゴダに居る所を部下が見付けたんだ。それで買い取り、オルゼル城で保護していたんだ」
戸惑っていたルイージにイゴール卿は優しく頭を撫でながら事の経緯を説明した。
「すまなかった、ルイージ。お前達にこの事を知らせておけば、無駄な血は流れなかった」
泣き始めた前世の母親を優しく抱き寄せたルイージだったが、未だに訳が判らなかった。
「カルロ兄さん、何で?」
異種族を虐げる騎士団として憎しみの対象にしていたイゴール卿が兄のカルロと知り、ルイージは混乱していた。
「何で……荒鷲の騎士団の団長を?何で、反乱が起きるほど奴隷をこき使ったんだ?」
「そういう立場になってしまっただけだ。騎士の家に生まれ、人狼を守る立場にな。チェスワフが奴隷狩りを止めさせたが、引き換えに何が起こったと思う?人馬や人猫の襲撃だ。こちらが攻めなくなった途端、彼等は力を増し、代わりに人狼の領地に攻め込んでくるようになったのだ。それに、ワシが騎士団長になった時に、和睦交渉をしたが聞く耳を持たれなかった。もはや憎しみを和らげる方法は無かった」
側に置いてあった木製のベンチに腰を掛け、イゴール卿は本音を吐露し始めた。
「出来ることは、彼等の侵入を食い止め。少しでも平穏を保つことだけだった。少々行き過ぎた行為をする部下は粛清して来たがな……」
「でも、異種族にも平穏を求める者が居る。俺達の商会は、人間や人馬に転生した仲間経由で情報交換してるんだ。北の人間は奴隷解放間近だし、南の人馬も最近は話し合いの可能性を模索してる」
ルイージ達ポルツァーノ商会は、反乱軍に協力しつつ、荒鷲の騎士団亡き後の統治についても暗躍を続けていた。
イゴール卿の息子リシャルドを奴隷解放戦線から引き離し、新たに北の人間……。神聖王国の傀儡政権ではなく、自主的な独立政権を作ろうと、各方面に働きかけていた。
「そうだ、だから反乱を起こさせたのだ」
「どういう……」
明り取り用の窓の上空をズヴェルムが通り過ぎた。
「……ワシは死ぬ事になった」
窓を見上げながらイゴール卿は吐き捨てる様に言った。
「まあ、表向きは……だがな」
脚を放り投げ、急にリラックスした様子で話し始めたので、ルイージは呆気に撮られた。
「夜明けと共にリシャルド率いる反乱軍が此処を包囲するらしい。そこへ、ニュクス様の軍勢が救援に駆け付け決戦となるが、城外に打って出たワシは混乱の最中討ち死にする……事になった」
「本気かい?」
荒唐無稽なことを言い始めたのでルイージは心配になった。昔から、変に楽天的なイメージがあったので尚更だった。
「まあ、手違いがあって本当に討ち死にするならそれで良い……。出来ることをしてきたが、その分罪も犯したからな」
「成功すると思えない、駄目だよ兄さん」
イゴール卿がルイージの方を見ると「1人で罪を被る事はない」とルイージは付け加えた。
「残った連中はどうなる?騎士団だけじゃなく、街の中で平然と暮らしてる連中も、普段は聖人君子のフリをしているが、理由を付けて異人種の差別をしているんだ。何かの形でアイツらにも罪を償わせないと、何かの拍子でまた元に戻るかもしれない」
母親が泣き止み、先程より強く抱き着いてくるのをルイージは感じた。
「兄さんが居たイタリアとは違うんだ。口先だけの独裁者が勝手に始めた事を覆すのとは訳が違う。人狼の住民は可笑しくなってるんだ。可笑しくなってるからあんな事を平然とやってのけるんだ。痛みを伴わなきゃ人は変われないんだ」
「かも知れんが、もうワシが出来ることは無いさ」
地上につながる扉が開き、騎士が顔を覗かせた。
「イゴール卿、マリオ・ポルツァーノを連れてきました」
騎士が地下に入ってくると、遅れてマリオが入ってきた。
「兄貴っ!?」
「マリオ、大丈夫だ。この人がマーマだ。……それと、イゴール卿がカルロ兄さんだった」
マリオはルイージを抱きしめる人馬の女性とイゴール卿を交互に見て困惑した。
「えっ!?」




