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チェスワフの立ち位置

「人様の敷地に勝手に入り込んどいて逃げるとは」


 粉雪が段々と人の形に近付いた。


「しつけが必要かもな」


 粉雪が少女の形になると、冬の精が姿を表した。

 雪焼けで少々赤焼けしているが小麦色になった肌に、夏服を思わせるワンピース姿の冬の精は、自分の縄張りを歩かれ不機嫌な様子だった。


「すまないなお嬢さん。少し野暮用でね」


 ルイージは冬の精に対して、見た目通りの子供にする態度ではなく、大人の女性と接するような態度で話し掛けた。

 見た目が子供っぽいので、知らない人に子供扱いされ、ひどく怒る冬の精が偶に居るのでその為に予防線を張ったのだ。


「謝るのなら、それ相応の態度で示してもらえるのだろうな?」


 そして、次にルイージは冬の精をよく観察した。

 妖精の類は見た目で判断がしにくいが、細かい動きで戦いが得意か見極めようとした。過去にはいきなり魔法で生成された水を掛けられた冬の精が、自身の冷気のせいで凍った水の中に閉じ込められた例も有るので、それが可能ならルイージもやってみる腹だった。


「何が望みかい?」


 クスクスと笑う冬の精の様子は何処か妖艶だった。見た目を幼くして油断を誘うつもりなのか。それとも、背伸びをしているのか。


 妖精の場合は普通に後者の場合が有るので要注意だった。


「そこの木箱」


 冬の精が野菜が置かれたスペースの木箱を指さした。


「虫が着いているから連れて行っていくれ」


「他には?」

 どうやら後者の様だった。


「それだけで良い。葉物は冷やさないと悪くなるが虫を凍えさせるのは可哀想でな。誰か来てくれるのを待ってたのだ」


 ルイージは木箱の中を見ると、親指大の(さなぎ)がホウレン草に紛れ込んでいた。


「蛹は強い刺激を与えると死んでしまうから慎重に頼む。中庭でも良いから鳥に啄まれない場所にでも置いてやってくれ」


 女性からの頼まれ事に弱いルイージは丁寧に蛹を持ち上げると、自分のハンカチで包み懐にしまった。


「ところで、君は何時から此処に?」

 騎士団の城に居るので、(文字通り)幽閉されているかと思い質問してみた。


「昨日から。一月契約で雇われたんだ。食料庫を冷やす仕事は報酬が良いが、ちょっと暇でな。暑い時期なら涼みに来る者と喋れるが、それ以外の季節だと料理人としか会話が出来ないからな。結局、読む本や手芸の材料費で使い切るかの」

 まさかの雇われ妖精と知り、ルイージは興味が沸いた。


「幾らで?」

「此処は支払いが良いぞ。金貨10枚だった」


 ルイージはざっと、頭で計算を始めた。

 氷の需要は有るし、アイスクリームも稀に町中で売ってるのを見るが、数が少ない。冷蔵冷凍分野に限らず、アイスクリーム工場に打って出れば差別化できるのでは……。


「では、頼んだ」

 考え込むルイージを外に出すために、冬の精は鉄製の扉を開いた。




「ようやく見えてきたな」

 目の前にオルゼル城が見えてきたので、ギブソンは周囲を警戒しだした。全員馬に乗り、夜通し移動したお陰か、日が昇り切る前に城の近くまで来たが。


「此処まで待ち伏せも何もないとはな」

 追手ぐらいは有るだろうと警戒していたカニンガムも何も起きなかったのが意外だったのか、来た道を眺めていた。


「兄さんが手を回したか、親父がやる気がないのか」

 ダニエルも正直、此処まで何もないのは予想していなかった。唯一の出来事と言えば、先程ズヴェルムが城の方角へ飛ぶのを目撃した位だった。


「兵士だ」

 丘を下っていると、稜線から兵士の頭が見えた。日の出前で空が白んで来たので遠くからでも良くわかった。


「何か慌ててますね」

 ヤスラが呟いた通り、城まで1キロは有る地点で兵士達が何やら作業をしていた。


「止まれ!」

 向こうが此方に気付き、声を掛けてきた。


「難民では無いな」

 騎士と思われる男と、末端の兵士達10人ばかりの集団だったが、騎士はダニエル達を眺めながら質問してきた。


「ビトゥフの法務官の一人ダニエルだ。騎士団に知らせたいことが有って来た」

 同行するギブソンやヤスラ、そして少々場違いなオズワルドを兵士達は観察していた。


「では、門までどうぞ」


 騎士が先導する形で門へ移動を始めたが、ギブソンは目を光らせた。どうも、兵士達の動きがぎこちなく感じた。


〈ダニー、用心しろ〉

 念の為、騎士が知らないであろうクロアチア語で注意を促し、ギブソンは銃を何時でも抜けるように外套のなかでホルスターの留め具を少し緩めた。


「ダニエル法務官をお連れした!騎士団に用が有るそうだ!」


 騎士が叫ぶと門が開き、ダニエル達は水堀に掛けてあった跳ね橋を渡り始めた。


「何の騒ぎで?」

 城に一歩踏み入れると、兵士達が戦の準備をしていたのでダニエルは驚いた。


「少し騒ぎが有りまして。此方へどうぞ」


 城内の建物の1つにダニエル達は案内された。

 見た限り兵舎の1つのようで、石で出来た城の防壁や城塞と違い、煉瓦造りなので後の時代に建てられた事が判った。


「遅かったな」

「父さん!?」

 廊下を進み、案内された部屋にチェスワフ部族長が居たので、ギブソンは反射的に銃に手を伸ばしたが。


「抵抗はよせ」

 スグに控えていた自由の騎士団の兵士が何人も現れ、ライフルの銃口を向けて来た。


「……荒鷲の騎士団の城に自由の騎士団の兵士ですか?」


 向けられたライフルはボルトアクション式……。オマケに持っている兵士の半分は人狼ではなく中には人馬まで居た。今までの荒鷲の騎士団では考えられない事だった。


「お前達には悪いが、邪魔して欲しくなくてな」

 何人かの兵士が、ダニエル達から武器を取り上げ始めた。


「父さん、一体何で?」

 大人しく武器を取り上げられている間に、ダニエルは質問した。


「お前たちが事実を知る必要はない。連れて行け」


 兵士達に銃を突き付けられたまま、ダニエル達は元来た道を戻り建物の外に出された。

 処刑でもされるのかと、全員考えたが連れてこられたのは荷馬車の前だった。ごく普通の帆付き馬車かと思い、よく見るとに鉄格子の檻が中に有り、犯罪者の護送にも使われる馬車だと判った。


「拘束させて貰います」

 後ろ手で縛られ、乗るように促された。


「何処に連れて行く気だ?」

「ビトゥフに帰って貰います」

「何?」


 まさかの答えにギブソンは聞き返した。


「1週間ほど城塞で過ごしてもらいます」


 後ろから押され、全員馬車に押し込められると鉄格子が閉められ、帆も閉じたので外の様子が判らなくなった。


「どういう事だ?」

 何が何やら判らないまま、ビトゥフに連れ戻される事になったので、オズワルドはどうしたら良いのか悩んだ。


「全くだ、おいダニー!どうなってる?公金横領の他に何かしたか?」

 聞かれたダニエルも訳が判らなかった。


「いや、兄さんからは公金横領は逮捕するでっち上げって聞いてたし、そもそも父さん達が俺達を逮捕しようとしてる理由も判らない。俺達は荒鷲の騎士団に対する妨害やビトゥフで爆破テロを起こしたポルツァーノ兄弟を追ってたんだ。それで拘束されるなんて」


 逮捕される謂れもだが、まるでテロを起こすポルツァーノ兄弟を守ろうとするチェスワフ部族長の立ち位置が理解できなかった。


「チェスワフの爺はポルツァーノの肩を持ちつつ荒鷲の騎士団の肩を持ってる事になるぞ。何か見落としは無いか?仲が悪かった自由の騎士団の兵士、それも人馬の兵士が銃を持っていても、咎められないような何か……」


 人狼意外の種族を毛嫌いする荒鷲の騎士団は自由の騎士団と険悪なのは誰でも知っていた。

 それが、先程のように異人種の兵士が城内で銃を持って居るのに、荒鷲の騎士団の兵士は特に何もしなかった。

 有りえない事の連続に4人とも事件の見落としがないか思い返し始めた。





 人の出入りが疎らになった中庭の植え込みに、ルイージは蛹を置いた。


 妖精との約束は守っておくと、巡り巡って他の妖精からもご利益が有ると言われているが、ルイージの場合は単純に女性に頼まれたから約束を守っただけだった。


(さて……)


 辺りを見渡し、イゴール卿が地下に向かった入り口を見据えた。


 蛹の為に上がって来たが、いっそ彼処から入ろうかと考えたが。


(急がば回れだ)


 万全を期して、迂回路を再び探し始めた。

 地下とは言え、明り取りの窓ぐらい有るだろうと思い当たった事も有った。


「……暫く五月蝿いと思いますが」

「っ!」


 案の定イゴール卿の声がした所を見ると、植え込みの間に明り取り用の天窓が有った。

 姿は見えないが誰かと、話している様子だった。


「2,3日辛抱して下さい。それで内戦は終わります」


 イゴール卿が丁寧な口調なので、ルイージは不思議に思った。此処ではイゴール卿が一番目上の筈だが。


 だが、目的の前ではどうでも良いと思い、窓から慎重に降り、見張りが居ないのを確認すると声がする方へと進んだ。


 程なく、厩舎の隅でイゴール卿の姿が見えた。


(奴だけか?)


 護衛どころか、幹部の姿もなく、誰かと話している後ろ姿が確認できた。


 ルイージは剣を抜くと、樋の部分に毒を塗り、後ろから近付いた。

 最初から、イゴール卿の命が目的だった。

 千載一遇のチャンスにルイージは迷うこと無く距離を詰め、最期は一気にイゴール卿の背中に剣を向けた。


 音を立てずに近付いたが、イゴール卿の耳が動いた。


「ぬぅ!」

 後少しの所で気配に気付いたイゴール卿はルイージの首に右手を伸ばし、そのまま持ち上げると地面に叩き付けた。

 背中を打った衝撃で剣が手から離れ、ルイージは痛みに顔を歪ませる


「がっ!」

 気配も消し、殺気も出していなかったが気付かれた。

 背中の痛みに耐えながらルイージは短剣を抜こうとした。


「久し振りだな」

 だが、イゴール卿の一言で手を止めた。

 命を狙っていたが、イゴール卿とは初対面の筈だった。それが「久し振り」とは。


「……兄弟」

「まさか……」

 兄弟と言われ、ルイージは固まった。一人心当たりが有った。だが、まさかイゴール卿が……。


「異世界帰りの警部」を書きながらなので少しペースが落ちてしまいました。


4月中に「異世界帰りの警部」コンテスト用に10万文字書きたいので、少しペースが落ちますが、此方と世界観が同じなので連載停止は無いのでご安心下さい_(._.)_

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