大森林の猟師達と狼男
ちょっと今回は血生臭いので、苦手な人はご注意下さい
ジェームズ達は狼男を追って大森林を北に進み続けていた。
最初は痕跡が少なく、追跡は困難かに思えたが。普通の狼男と違い地面に奴等の足跡が幾つも在った。
「罠だと思うか?」
足跡の多さに、ジェームズの仲間が質問を投げ掛けた。
「かもな。だが、この先にあいつ等が居るのは確かだ」
狙うは狼男のボス、そして狼男になった仲間の命。
ジェームズが狼男を追うのはコレが初めてではない。
ジェームズが16の時に、隣の村が狼男に襲われ全滅した大事件にが有ったのだ。
真夜中に幼い子供含む15人家族の家に押し入り、それを目撃した村人がその家に火を放ち、最初の襲撃は終わった。
村人達は狼男も焼死したと考え、翌朝から遺体の確認をしたが、翌狼男の分だけでなく、家族全員分の遺体が無い事に気づいた。
“狼男がまだ生きている”
誰かが噛まれて狼男になり、一緒に逃げたか。それとも、狼男が骨すらも食べ、逃げ仰せたか。どちらにしても狼男の脅威に晒されていることは変わらず、村中に報せようとした所に凶報が飛び込んできた。
村外れの森に木の実等を採りに行っていた子供6人が狼男に襲われたのだ。
致命傷を負った少女が森から辛くも逃げ帰えった事で判明し。村の男達が直ぐに農具や武器を片手に森に入ると、変わり果てた子供達の姿があった。
その惨劇を見た男達は口々に「ラズブルヴァッチだ」と叫んだ。
大森林周辺に居るとされる狼男の1種で。他の狼男とは違い、仲間を増やそうとはせずに、己の空腹を満たすためだけに人を襲い続ける半ば伝説上の生き物だった。過去にも大森林に入植した人達が襲われ、村が幾つも壊滅していると言われていたが。与太話の類いだと思われていた。
だが、それが現実に蘇った事を目の前で横たわる子供達の切り裂かれた衣服と骨が語っていた。
男達は亡骸を集めると村に持ち帰り。そして、会合が開かれた。
会合では、最近評判になっている隣村の猟師に討伐を依頼する事が決まったが、陽が落ち始めたため、その日は村中に火の着いた松明やかがり火を焚き。村役場に女子供を集め男達が周囲で寝ずの番をした。
しかし、男達が村役場の周りを固めていたが、また悲劇が起きた。
女子供が避難している村役場から悲鳴が上がり、異常に気づいた男達が中に入ったが手遅れだった。
男達が見たのは女子供を襲う無数の狼男。そして、噛み付かれた大人達が狼男に変化し、自分達の子供を襲う様子だった。
昼の段階で腹を満たしきったラズブルゥヴァッチはあろう事か、避難していた女子供を変化させ、群れを作るために噛み付いたのだ。
変化に耐えらる大人だけは変化させられ、そして変化に耐えられない幼い我が子や年老いた両親をその手に掛ける………。
地獄のような光景を目の当たりに、呆然と立ち尽くす男達に気付き、ラズブルゥヴァッチが咆哮すると、群れの一員となった狼男達が一斉に男達に襲い掛かった。
翌日、村の異変に気付いたジェームズ達が様子を見に村へ入った。
そこに残されていたのは、散乱した男物の衣服。特に、閉ざされた村の門周辺に多く、残りは家の中などで見付かったが、どれも引きちぎられ、中には血が付いている物も有った。
状況から、狼男だと理解したジェームズ達は惨劇が有った村役場にたどり着き、そこでなんと生存者を発見した。
小さい女の子がジェームズ達に気付き、台所の戸棚から出てきたのだ。
目に涙を浮かべ、ヨロヨロと歩く女の子を抱きしめ、戸棚の中を覗くともう1人女の子が居た。
もう1人の女の子は一点を見つめ、身体を硬直させており、最初は人形かと思った。その子は戸棚の隙間から外の出来事を見てしまい、精神を病んでしまっていた。
「………狼男を討つ。その娘達を連れて」
村の狩猟の頭領だった父親の一言に、ジェームズは激しく抗議したが理由があった。
「狼男のボスはやたらと頭が良い。その娘達を囮にして、俺達が村に戻るのを待っている筈だ………。逆に誘い出して討ち取るぞ」
父親は過去に2回、狼男を退治しており。過去の経験から、狼男が女の子達を使い罠に嵌めようとしているよ読んだのだ。
見事に父親の読みは当たり。大森林の中をデタラメに移動し、待ち伏せに最適な窪地で狼男達が現れるのを待っていると、20頭程の群れが現れた。
「灰色の奴。アイツが恐らくボスだ」
狼男の群れは、指示役のボスが倒されると途端にバラバラになり。簡単に討伐できる様になるので、父親は猟師達に灰色の狼男を狙わせたが、それこそが罠だった。
灰色の狼男に気を取られている猟師達は自分たちの周りに他の狼男達が集まりつつある事に気付くのが遅れた。
ジェームズの父親が気配に気付き、大声で危険を知らせると同時に、狼男達が一斉に襲いかかってきた。
ジェームズ以外の猟師達は使い慣れた弓矢や単発のライフルを使っていたが故に、最初の一発で狼男を一匹倒せても、バディーを組むもう一匹を倒せずに倒れるものが出た。
連発式ライフルであるボルトアクションライフルを愛用するジェームズと大ベテランであるジェームズの父親は、自分たちに向かってくるバディーも倒した。
そして、ジェームズは女の子達を守るために奮戦し。父親仲間に襲いかかる狼男を射抜いたので大事には至らなかったが。
「居たぞ、ボスだ!」
仲間を助けるの為に明後日の方向に弓を構えていたジェームズの父親が狼男のボスが突進してくることに気付き、狙いをつけようとしたが、狼男のボスに肩を噛みつかれた。
父親の叫び声に気付き、ジェームズを銃口を狼男に向けたが、狼男のボスは父親を盾にし引き金を引かせないようにした。
「マグノリア、俺ごと撃てぇ!」
父親の命令を聞き、ジェームズは父親の胸を撃ち抜き、一発目が狼男のボスの頭部に当たった。
すかさずジェームズはボルトを操作し、次弾を装填すると2発目は父親の腹を抜け狼男のボスの腰に、3発目は父親に当たらず、直接狼男のボスの頭を撃ち抜き、狼男のボスは倒れた。
ボスが倒れたことで、元村人の狼男達はどうしたら良いのか判らず右往左往し始め、逃げることも叶わず、ジェームズと他の猟師に討ち取られた。
全てが終わった後。ジェームズ達は父親の遺体と女の子達と一緒に自分たちの村に帰った。
その後は、周囲の村々の住民と協力し、壊滅した村に残され遺体と狼男になった村人たちの遺体を荼毘に付し。村の中心に遺骨を納めた塚を作った後に村人と父親の葬儀を行った。
その事件後にジェームズは父親の後を継ぎ猟師の頭領になった。
「あっちか」
「うむ、そっちだ」
地面の足跡から逃げた方向を確認するライネとランタンの様な物を持つカエが同じ方向を指差した。
「何それ?」
青白い光が揺らめくソレが気になりトマシュが質問した。
「人魂を入れた魔法具だ。コレがあれば、狼男の居る方向が判る」
ランタンの中の青白い炎が一瞬だけ泣いている様に見え、トマシュはランタンから一歩離れた。
「トマシュ、人の気配は?」
「まだ先の方。速いよ」
「そうか…急ぐぞ」
ジェームズ達に追い付くか、先に呪いを解く必要があるため。カエ達は急ぎ続けた。最初のうちは、ジェームズ達の痕跡は全く見つからず、追い抜いたことも考えたが、トマシュの探知魔法でそうではない事が判り、大急ぎで進んでいた。
しかし、距離がなかなか縮まらずカエ達は焦った。
馬とほぼ同じ速度でジェームズ達は狼男達を追い立てていた。