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反乱軍の壊滅

陽が落ちて数時間は経った。宿場町の手前の村では、アルトゥル率いるアメリカ連隊が夜営の為にテントを張っていた。

数時間もあれば宿場町に着くが、ニュクスから“逃げた反乱軍兵士がそっちに行く筈だから合流してくれ”と言われ、こうして夜営することになった。


「元工兵で妻子持ち、妻は前世でも結婚してた人と…」


その村の中心に近い宿セーヌ川では、指揮官のアルトゥルがベッドに横臥しつつ自分の手帳を読み返していた。


「元通信兵でベトナムの時の部下か…」


自分の部下の経歴や家庭環境をメモした手帳を読み、昼間見た顔と名前を一致させる作業をしているのだ。


「将軍、宜しいですか!?」

「入れ」

幕僚の1人が部屋に入ってくると同時に、アルトゥルは手帳を開いたまま胸の上に置いた。


「将軍、緊急です!反乱軍が大森林で襲撃を受けました。現在、此方に到達した負傷兵を受け入れてますが…」

「っ!?…」

アルトゥルは大慌てで部屋を飛び出し、宿を後にした。


「湯を沸かしてくれ!それもありったけだ!」

「おい、誰か医者を!」

大森林を掻き分けて現れた反乱軍の兵士達は重傷を負った者が多く。アメリカ連隊の兵士たちは大急ぎで手当を初めていた。


「何があった!?」

上半身に切り傷を負った兵士が担架に乗せられ、救護所に担ぎ込まれてきた。

「狼男だ!急に襲い掛かって来て、何人か噛まれた……」

「噛まれた!?」


軍医が運び込まれた兵士の傷を確認し始めた。

「ああ、そいつは大丈夫だ、爪で切り裂かれただけだ。噛まれた連中はもう…どっかに消えたよ」


次から次へと救護所に怪我人が運ばれ、軍医は事態の大きさを改めて認識した。

「多いな、手を貸してくれ」




「パオロは何処だ?」

「あちらです」

怪我人の手当をしていた兵士にパオロの居場所を聞き、アルトゥルは指さされた場所へと急いだ。


「誰だあれ?」

反乱軍の兵士の中から、“前世の米軍の戦闘服を着たアルトゥルがだれか”と疑問の声が上がった。

「ハーバー少将だ。除隊後に上院議員になった」


戦闘服を着た少年がハーバー将軍と知り、傷の手当をしていた反乱軍兵士たちは手を止めて、アルトゥルを見た。

「本物か?」

「来てくれたのか…」




「パオロ!」

今世では初対面なので、誰がパオロなのか判らず、アルトゥルは叫んだ。


「ハーバー将軍!こっちです!」

デイブの声が聞こえ、アルトゥルはそちらに向かった。


「お前は……ショーンとフランツの仲間か!パオロは誰だ!?」

アルトゥルからするとフランツ達と一緒に居た”誰か”程度の認識だった。


「彼です…」


デイブが手当をしていた。腹部に包帯を巻き、右腕を無くした人猫の少年がパオロだった。

「止血し、モルヒネを打っていますが。右腕だけでなく、腹部もやられて……。処置は出来る限り行いましたが、腕は諦めるしか……」


「…ショーンはどうした?フランツが居ないのは知ってるが、アイツは居る筈だ」

「ショーンは消えました……」

「消えた?」

アルトゥルが聞き返すと、デイブはワナワナと地面に両膝を突いた。


「日が落ちて直ぐでした。大森林を行軍中に騎兵隊が攻撃を受け、俺達は迎撃体制に移行しました。ですが、敵が……狼男でした……。襲われた場所も隘路で射線が通らず、気が付くと何人か噛まれ、獣人症を発症して…。ショーンも噛まれて狼男に……。ケイマン中尉の娘も…」

「…士官は居るか?」


デイブの言っていることが要領を得なくなって来たので、アルトゥルは士官を探した。

「おい!反乱軍の中に士官は居ないか!?何があったか俺に報告しろ!」


顔の右半分に包帯を巻いた人狼の男が立ち上がった。

「元海兵隊のゴードン中尉です。…此処までの撤退を指揮してきました」

宿場町で住民の避難交渉をし、陣地ではパオロに壁際に押し付けられた海兵隊の士官だった。


「よし、中尉報告してくれ」

「…あの時は。最初は狼男の襲撃とは思いませんでした。普通の狼男なら、手当たり次第に暴れるだけですが、あいつらは違いました。あいつらは…」


ゴードン中尉は本題に入る前に前置きをし、事細かな状況を説明し始めた。


「あいつらは、最初に撤退する本隊の周囲に布陣した騎兵隊の斥候を襲いました。そして、噛んだ仲間を本隊に投げ入れ、本隊の兵士が噛まれた兵士の救護をしている最中に獣人化するように仕向けました。…救護している兵士が急に目に付く者に噛み付いてまわり、狼男になったことで本隊は大混乱し。狼男になった仲間を撃つ物や、噛まれた仲間を刺し殺す者が出て……。そして、知性のある狼男達が混乱した本隊に襲い掛かって来て、グエラ将軍が負傷しました。ケイマン大尉が私物のボルトアクションライフルで狼男達を追い返しましたが、死傷者だけでなく獣人化し狼男になった仲間達も狼男達と一緒に消え去りました」


ゴードンは包帯が巻かれた自身の左腕をさすった。

「それで、負傷した者は此処まで移動するようにとケイマン大尉から命令されました。ケイマン大尉は動けるものを連れて、獣人化した仲間のもとへ…」

「救出する気か?」


ゴードンは首を横に振った。

「いいえ、始末するためです。他の誰かを襲う前に自分たちの手で始末するつもりです」

「なんてこった…。ケイマンは何人連れてった!?それと、此処にたどり着いた負傷者は!?」

「追撃に出たのはケイマン大尉含め10人です。負傷兵は私含め84名。ですが、動けない負傷兵がまだ森の中に27名います」


アルトゥルは誰かを探すように周囲を見た。

「2個小隊を負傷者の救出に回せ、急いでな。ただし、狼男がまだ居るかもしれん注意させろ」

アルトゥルは幕僚の1人を見つけ指示した。

「了解」


「それなら、私が。隠れている場所まで案内します」

比較的軽傷の人熊の反乱軍兵士が手を上げた。

「よし、一緒に言ってくれ」


残っている負傷兵の回収は2個小隊もいれば大丈夫だろう。問題は、狼男を追い掛けているケイマン達だ。



人狼が狼男になる獣人化は治すすべがなく、獣人症を発症したら殺害しなければならない。



というのが今までの常識だった。

実際の所は、魔王の妹のニュクスが“只の呪い”だと看破し、呪いをコントロールすることで、アルトゥルの目の前で狼男になったカミルを治していた。

その事を知らないケイマンが獣人症がこれ以上広がるのを防ぐために、部下達と一緒に排除しようとしているが、止めなければならない。


だが……。


「どうやって呪いを止めるんだ……」

カエに聞いた話では、“呪いを解くのは難しく。あくまで、発症しないように制御下に置くしか無い”とのことだった。

しかし、呪いの事なぞ全く知識がないアルトゥルが呪いなぞどうこう出来る訳がない。


それに、仮にどうにか出来るとしても。将軍が自分の軍勢から離れ、別行動を取るのは難しく。知性がある狼男が攻撃してきた時に不在に出来なかった。


「そもそも、アイツら…。廃城にいた奴らじゃないか?」


状況から考えても、ミハウ部族長の孫を拐い。冒険者とカミルを襲った狼男の仲間の可能性があった。そういう意味でも、迂闊に動けないのだ。






「で、僕らって訳?」

自宅で寝ている所をカエに叩き起こされ、気が付けばトマシュと一緒にアルトゥルの目の前に転移させられたライネは開口一番に文句を言った。


「仕方ないでしょ、獣人症の解き方を知っているのは今のところ私達兄妹だけだし。かと言って1人で行っても、この世界の変な物を見つけても対処できるか判んないし」

見た目通りの口調でカエが話すので、ライネは目を細めて不満げな表情になった。


「すまねえ、銃と手榴弾を渡すし。馬も貸す。だから、部下達を救ってくれ」

「…判ったって。頼まれなくてもやるよ」


「てかさ、カエも一緒に行くの?」

イシスが着ていたような旅装姿のカエを見てトマシュが質問した。

「行くさ。夜明けまでに見つけ出して全員救出する。それ以上時間を掛けたら被害者が増えるだろうし」


念の為、“獣人症の呪いに掛かった時に、三途の川に向かう魂を回収してこい”とフェンリルを脅してはいるが。数が増えて三途の川を渡ると面倒なのでさっさと片付けたいのだ。


「いくぞ!」

カエの一言で、3人は馬に乗り大森林へと入った。


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