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ポルツァーノからの警告

「帆付きの荷馬車ね…。いや、見てないね」

元警官のカニンガムはダニエルの若い部下と一緒に朝から街中の商店を中心に聞き込みを続けていた。

「そうか、ありがとう」


地道な作業だが、科学捜査の類がない以上。目撃証言ぐらいしか頼りになるものが無いとカニンガムは考えていた。

「こっちに来てないとすると…アッチですか……」

ダニエルの若い部下が見る先には、ビトゥフの街の城塞が在った。


「街の兵士が使う荷馬車ならあり得るが。そうなってくると、誰が手引きしたのやら」

ビトゥフの街の主な軍組織は3つ。騎士団に冒険者ギルドの私兵、そして目の前の城塞を管理する部族の兵士。ビトゥフの兵士が関わっているとなると、トップのチェスワフ部族長も関わっているのか。あるいは、下の者が勝手にやったことか……。


「面倒だ、憲兵の協力がないとな」

緊急性が有る場合を除いて、部族の兵士が加害者の場合は捜査権が憲兵にしかないので、法務官側のカニンガム達は手が出せないのだ。

「しかし、調べないわけには」

警官として生きていく上で“シガラミ”という面倒ごとに度々遭遇してきたカニンガムは落ち着いていたが。ダニエルの部下は正義感からか、焦っていた。


「落ち着けボウズ。焦って証拠を掴んだところで、正規のやり方じゃなければ証拠にならねえ」

見た目は同い年ぐらいだが、貫禄が有る言い方をカニンガムがするので、ダニエルの部下はたじろいだ。

「ボウズって…僕は、ヤスラって名前がある」

名前を名乗ったヤスラだったが、カニンガムはお構いなしに城塞へ向かって歩きだした。

「長生きしたかったら、謙虚になることだボウズ」


ため息を吐きながら、ヤスラが走って追いかけると。えんじ色の馬車が並走し始めた。

「カニンガム巡査」

カニンガムが馬車の方を振り向いた。

「乗ってくれるかな?」

馬車が止まり、ドアが開いたがヤスラの位置からは中の人の顔は確認できなかった。


「ボウズ、先に帰ってろ」

「あ、しかし!」

2,3歩前に出たがカニンガムに首元を抑えられた。

「余計なことをするな、いいな?」


そう言い残すと、カニンガムは馬車に乗り。馬車は走り出した。

「…マジかよ。どうすりゃいいんだ?」

いきなりの出来事に、ヤスラは後頭部を掻きながらその場をウロウロし始めた。




「で、俺に何のようだ?マリオ」

カニンガムが乗り込んだ馬車に乗っていたのは、マリオ・ポルツァーノだった。

「何って…。親友が困っているようだから助けに入っただけだよ」


前世から面識があり、その縁で今世でも会うことがあったが。このような形は初めてだった。

「別に何も困っちゃいないさ。だから、マフィアのお前たちに助けを乞うつもりはない」

基本的にポルツァーノ家は、警察関係に恐喝などしなかったが。全く初めての状況故に、カニンガムは警戒していた。


「いや、そういう事ではない。親友からのお願いだが…。今回の事件は手を引いてくれ」

「…何?」

わざわざ“お願い”と言い淀む理由が気になった。


「今回の事件は復讐だ。一家の全員が命を投げ捨ててでも復讐を果たそうとしているんだ。だから、司法の立場に親友の君達が立って、巻き込まれるのを見るのは少々心苦しくてね。………2,3日で全てが終わる。だからその間だけでいい。手を引いてくれ」

「手を引けだと…?何の為の復讐だ?狙いは?」


前世では警官という立場上、このようなやり取り自体が御法度だったが、今のカニンガムは法務官に協力しているだけの只の冒険者。手を引こうと思えばすぐに引けるが、そんな事をする気は毛頭無かった。


「いずれ判るさ。手を引いてもらえればね」

馬車がカニンガムの自宅の前で止まった。

「それと、兄から伝言だ。“約束を果たせなくて済まない”と」

「…まだ間に合うんじゃないか?」

馬車から降りたカニンガムが吐き捨てるように言ったが、マリオは静かに答えた。

「もう遅い、血は流れた」




「みんな遅いなあ」

人数分のコーヒー豆を城塞に持ってきたダニエルは部下やカニンガム達が戻ってくるのを待っていた。

「なあ、毎朝ブリーフィングをすることを言ってあったか?」

集まっているのはギブソンとオズワルドを含めた3人だけだった。

「…あ!」


ギブソンとオズワルドは「やれやれ」と言葉を漏らした。

「そんなこったろうと思ったよ」

「大体君は、前世のやり方に拘り過ぎじゃないか?こっちだと勝手が違うのだから一度タイムスケジュールも見直すとかせんとな」


“知った仲間が集まったのだから大丈夫だろう”と前世でのFBIや警官が毎朝行うブリーフィングをやることを伝えそびれていたダニエルだったが、2人にダメ出しを食らった。

「でも、カニンガム巡査も昨日の夜から見てないし」

「ダニエル様!」


ヤスラが、会議室に飛び込んできた。

「た、大変ですよ。カニンガムさんがどっかに連れて行かれました」

まさかと思い、ダニエルが尋ねた。

「……もしかして、えんじ色の目立つ馬車だった?」


馬車の特徴を言い当てられ、ヤスラは目を見開き尻尾を立てた。

「は、はい。えんじ色で中に男が1人。顔は見えませんでした」


「だったら心配ない。知り合いだ」

ギブソンがそう言ったが、オズワルドとヤスラは首を傾げた。


「オズワルド、判った事は他にないか?」

オズワルドに質問される前に、ギブソンは見付かったものが無いか、先に質問をした。

「あ、ああ。現場から回収した紙製の空薬莢が幾つか見付かった」

「待った、紙製の薬莢なのに燃え残ったのか?」


ダニエルの質問に、オズワルドは手袋を嵌めた右手に薬莢の1つを持ち、説明を始めた。

「散弾用の紙薬莢は何度か再利用するんだが、運良く指紋を取ることが出来た」


「指紋か………どうやった?」

「汗に反応する薬品を幾つか調合して、その中でも…」

「あー。で、何人分見付かったんだ?」

薬品の説明が始まりそうな雰囲気を感じ、ギブソンが質問を変えた。


「…恐らく、5人分といった所かな。或いはもっとか。………そんな顔をするな。照合に使う機材がないから、トレーシングペーパーに手書きで複製してるんだ。時間が掛かるんだ」

「そうね………。複製用の魔法具を回すように手配するよ。じゃあ、次はヤスラ、頼むよ」


オズワルドが調べたことの発表が終わり、ヤスラの番になった。

「僕からは……。例の帆付きの荷馬車ですが、どうもこの城塞の方に向かったようです」


ダニエルとギブソンは耳を立てた。

「この城塞の方へかい?」

「行政地区となると、犯人は部族の兵士か?」


ヤスラはメモを捲り、最後に書いたページに目を通した。

「判りませんが、最後に行政地区の内門を通ってます。輜重隊にはまだ確認は取って無いです」

ギブソンは短く息を吐いた。

「そうか、ヤスラ。5分後に下で会おう。行くぞダニー」




「で、どう思う?」

ブリーフィングが終わり、真っ直ぐと外へは向かわずに、人気の無い倉庫でギブソンとダニエルは話し合っていた。

「兵士が絡むとしたら、憲兵隊の管轄になるな」

「しかし、ポルツァーノのも絡んでる。………何で接触してきたんだ」


「ポルツァーノからの接触か、大体はヒントをくれたよな?」

前世では、FBIに協力的で。他のギャング連中の秘密を流してくれていたが、今回はどうも違うようだ。

「カニンガムと接触する必要がわからん。何か有るにしても先ずは俺達に」


突然、建物が揺れ。ダニエルは落ちてきたバケツの角が後頭部に当たった。

「痛っあ………」

「今度は何だ!?」


慌ててギブソンが倉庫から飛び出し、階段の踊場から窓の外を見ると。輜重隊の建物が燃えているのが見えた。


「くっそ…。やりやがったな」

「隊長!」

ギブソンの部下の一人が階下から走ってきた。


「た、大変です。街の商業地区でまた爆発が!」

「何だって?何処だ!?」

部下は息を大きく吸ってから、報告を続けた。

「場所はまだ……。爆発が下からも見えただけで」

「隊長!」


他の部下も血相を変え、上から転がり落ちるように現れた。

「5ヶ所で爆発です!ほぼ同時に、町中から煙が」


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