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事故

「で、コイツが件の忍者って奴か」

(ひぇ…)

城塞に連行された港生は、目の前に魔王が現れたので内心震え上がった。


スパイカメラの存在がバレた後、トマシュとアルトゥルに縛り上げられた上に猿轡と目隠しまでされ。城塞に着いてからは取調室の床に設けられたU字状の金具と腰縄を結ばれ、猿轡は外して貰えたが椅子から立つことすら許されなかった。そのうえ、背後の壁際には騎士が2人。あのイシスの兄なら何をするか判らないので、港生は全身に脂汗が浮かぶ感覚を覚えた。


「……よし、拘束を解け」

「へっ?」

訳が判らない港生だったが、兵士2人に腰縄と手錠を外された。

「お前が持ち込んだものは服も含めて全部杉平幕府に引き渡す事になった。それと滞在はヨルムンガルドの家で、お前はヨルムンガルドの監視下に置かれることで調整した」


そう言うと、カエは港生の肩に手を乗せ、港生“だけ”をヨルムンガルドの家へ転移させた。

「じゃ、服を片付けて」

港生が座ってた場所には服どころか、下着や靴まで取り残されていた。それを騎士達に片付ける様に頼むと、カエはふら付きながら歩きだした。


「ふぅ…」

軽くため息を吐きつつ、カエが取調室から出ると、トマシュと鉢合わせした。

「あれ?もういいの?」

「…もう、メンドクサイからヨルムンガルドに押し付けたよ。………もう疲れた」


そう言うとカエはトマシュの胸に倒れ、顔を押し付け始めた。

「そうだ、フランツさんだけど。戻って来るのは1年掛かりそう…。まだ、アッチとコッチの境界線が弱いから。………それと、お母さんの事ゴメン…」

カエの耳がゆっくりと垂れ、力なく倒れた。

「…カエが謝る事じゃないよ。むしろ、治る事が判っただけでもありがたいし」


まだ知り合って間もないが、魂が繋がっているせいか、カエの気持ちがトマシュにも伝わっていた。


カエは精神的に疲れ、不安と焦りに襲われている。


無理もない話だった。この3日間でヴィルノ族領で奴隷が反乱を起こし、それの対応に追われて居たのは容易に想像でき。その上、魔王ロキの不手際に振り回され、トマシュの母親を元に戻す事が出来ないばかりか、フランツが人狼の姿のまま異世界に飛ばされる。

これ以上、何かが起きれば、カエが潰れる。せめて今晩だけでも何も起きないことを祈るしかなかった。


「魔王様!」

そんな願いなどお構いなしに、大声でカエを呼ぶ声が聞こえたので、カエの耳が半分ほど起き上がった。


「何か?」

トマシュの胸から離れたカエがつもの調子で返事をすると、ランゲが廊下の角から現れた。

「ビトゥフからの伝令ツバメです。“ビトゥフのスウォィンツェ商会が爆発。反乱軍の破壊工作の可能性あり”と」

「ビトゥフに戻ったチェスワフ部族長へ連絡…」

見た目には普段通りだが、カエの心の中でどす黒い物が渦巻くのをトマシュは感じ取った。

「ヴィルノ族の責任で反乱軍の破壊工作を取り締まるように伝えろ」

どす黒い何かは、やがて頭へ回り。カエの思考力が鈍り始めた。

「はっ!」


その場からランゲが放ても、カエは立ったまま頭を抑え立ち尽くした。

「………カエ?」

「ふぁあ!?」


カエの頭の中から、どす黒い何かが少し消えた。

「どうしたの?」

「…え!?ああ………眠いだけ…」

「はい!?」


カエは目頭を抑えると、ゆっくりと伸びをし、大あくびをした。

「この3日間、マトモに寝てないんだよ…」

カエの中に広がるどす黒いものが、段々と白い霧の様になった。

「ああ……。ミハウ部族長の家まで送ろうか?」

「んー…。馬車を頼んでるけどお願い」




「事を大きくし過ぎたな。既にFBIとニューヨーク市警の連中が動いてる」

ビトゥフに在るポルツァーノ家の邸宅にポルツァーノ兄弟と商会の幹部。更には身分を隠してFELNの幹部として反乱を支援している神聖王国の工作員2人が一同に介していた。

「元FBIと元ニューヨーク市警だろ?問題があると思うか?」

普段は商談などに使っている楕円状の円卓に全員座っていたが。怒るFELNの幹部に意を介さず、兄のルイージは赤ワインが入ったガラスをゆっくりと揺らしていた。


「法務官の1人のダニエルと犯罪担当の衛兵の1人が元FBIの捜査官だろ。何か証拠が出て、チェスワフ部族長を通じて魔王の耳に入ったらどうするんだ。奴らは、城塞に遺体や証拠品を集めてるんだぞ」

ホントは怒鳴ってやりたいが、相手が元マフィアのドンとその幹部達だと知っているFELNの幹部達は怒りを抑えていた。

神聖王国は数十年前から、神聖王国の人狼奴隷として産まれた転生者を潜入工作員として訓練し。潜入先の人狼を誘拐、殺害するなどして身分を奪う所謂”背乗り”をし。各ギルドや騎士団の中に紛れ込ませてきていた。

この場に居る幹部3人も10代の頃に他人になりすまし。表向きはギルドの関係者やヴィルノ族の兵士とし生活しつつ。神聖王国からの指示で諜報活動をしてきていた。


「大した問題では無い」

「“大した問題では無い”?大問題ではないか。宿場町のポゴダを攻めるのは事前に協議があったので賛同できたが、今回の商会襲撃は一切相談がないじゃないか!荒鷲の騎士団が片付くまではビトゥフで騒ぎを起こさない筈が、この騒ぎのせいで“反乱軍が街の中に居る”と噂が立ち。我々が動けない状況じゃないか!」


普段は街の鍛冶ギルドのギルド長をしているFELNの幹部の男が席を立ち、怒鳴り散らしたので両脇に座ったFELNの幹部が慌ててなだめた。

「……っ。折角、荒鷲の騎士団をオルゼル城に追いやって、補給を妨害したのに。今度は我々が南西の反乱軍に届ける武器をビトゥフから出せないのでは意味がないのだぞ」


流石に大量の武器を占領下のファレスキを経由して大森林から運ぶと目に付くので、今回の蜂起で反乱軍に供された武器は少量ずつビトゥフの鍛冶ギルドに運び込まれ。蜂起直前から必要な量だけ運び出していたが。予想以上に反乱軍が拡大したので、未だに武器の運び出しが終わっていなかった。


「南西の反乱軍は5万人から更に拡大しているのに。今日、新たに運び出せたのが前装式ライフルが2千丁に臼砲が2門………。足りないのですよ……」


衛兵をしている幹部が肩を落とすが、ルイージの弟のマリオは本音を漏らした。

「前装式のライフルなど、大して役に立たないでしょう」

「…っ!」


神聖王国が反乱軍にばら撒いている前装式ライフルは、神聖王国軍が数年前まで使っていた旧式の物で、騎士団や手練れの兵士相手だとあまり役に立たない。その事は目の前に居る幹部たちも理解していた。

「ですが、それこそ武器をろくに使ったことがない反乱軍には剣や槍よりもライフルを配った方が」


銃弾を叩き落すほどの騎士相手でも、農民3人が一斉に銃弾を浴びせれば1発は当てることが出来るかもしれない。


その程度の物だが、騎士相手に剣で立ち向かえる農民など居ないのでかなりマシになるのも事実だった。

「とりあえずです。しばらくは何もしないでいただきたい。隠してる武器が見つかりでもしたら我々はお終いなんですよ」


席を立ち。帰ろうとする3人をルイージは立ち上がって玄関まで送ろうとした。

「ええ、それは私達も十分に理解していますよ」

「頼みますよ…」



「全く、野蛮なイタリア人め…」

馬車が出発し、しばらくたったが鍛冶ギルドのギルド長はまだ怒っていた。

「そうは言うが、協力せねばなるまい。本国から運び込める物資が殆ど無い以上頼みはアイツらだけだ」

馬車の車窓からは、人気の無いビトゥフの高級住宅街から商業地区に向かう内門を通り過ぎたのが確認できた。

「しかし、幹部のメンバーは凄かったな。他の商会の商会長に他の町のギルド長」

普段は衛兵をやっている幹部ですら予想していないほど、経済界の大物が幹部としてルイージに忠誠を誓っていた。

「なんだ、イタリア人どもがあれ程と衛兵でも知らなかったのか?」

「あいつらは情報を出さないんだ。衛兵ですら」


突然、馬車が激しく揺れだし、御者台側に座っていたギルド長が衛兵の方へ倒れ掛かった。

「お、おい。どうしたんだ!?」

馬が嘶き、馬車がどんどん加速し始めた。

「お、おい!」

「嘘だろ!坂道だ!」

馬車から馬が離れ、完全にコントロールを失った馬車はそのまま坂道を下り。そのままの勢いで商業地区を流れる川を飛び越え、対岸の岸壁に衝突。大きな音と衝撃に気付いた近所の住民が様子を見に来た頃には、3人と馬車は川に沈んだ後だった。






インフルエンザに掛かってしまいましたが、何とか今日は投稿できました。


orz

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