証拠確認
城塞の倉庫を1箇所専有する形で、仕分け終わった証拠品を並べつつ、黒板を幾つも並べながらダニエル達は急ごしらえの“捜査本部”を作っていた。
「まず、爆発が起きたのは11月12日の午前11時24分。場所はスウォィンツェ商会の1階ロビーと」
近隣の商会で聞いた証言や衛兵の詰所の当直記録から、正確な時間が判っていた。
「そうそう、目の前で派手に爆発して。その後に、人が商会に駆け込むのが見えたな……。背広とトレンチコートを着て中折れ帽子を被った奴は10人以上は居たかな」
部下に抱えられ、現場を後にしたので最初の方しか見ていなかったが、ダニエルの目撃情報は重要だった。
「そんな恰好をしている奴が居たら直ぐに証言が集まりそうだが…。5件だけか。妙だな」
ギブソンが部下と集めた100件以上ある目撃証言の中に、そんな目立つ格好をしたのが5件しかない。
「言っておくけど。頭を打ったり、前世の記憶がフラッシュバックしたりはしてないぞ」
ギブソンの視線を感じ、ダニエルが間違いの可能性を先に否定した。
「では、他は………。“何度か銃声が聞こえた”か、確かに聞き込みで、この証言はかなり聞いたな」
「こっちでも聞きましたよ」
ダニエルの若い部下がメモを読み上げた。
「“逃げる途中に銃声がした”、“銃を持った変な格好の男達を見た”、“変な男達が馬車で乗り付け、銃を撃った”」
衛兵が集めた情報と違い、ダニエルの若い部下が集めた証言は襲撃者に関する情報が有るものが殆どだった。
「どこで聞いたんだ?」
不審に思ったギブソンは街の地図が貼られた掲示板の脇に立ち、鉛筆を持った。
「市場です。そこの商業地区の」
「ここか…」
同じ商業地区ではあるが、地区の北端に在る事件現場とは反対側の南端に在る市場での証言だった。
「遠いなぁ、どうしたんだ?こんなところで聞き込みなんかして?」
普段はマメに仕事をする若い部下だが、今回に限って変なところに居るのでダニエルが聞いた。
「ギブソンさんの部下が事件現場の周囲に居たので、離れてみたんです。そしたら、ちょうど昼時だったんで市場の売店で事件の事を話してる人が集まってたんですよ」
ギブソンはリストをペラペラと捲り、聞き取った相手を一つ一つ確認した。
「なるほど、そいつは妙だな。こっちは近所の商店や住民の証言だが、ほとんどが室内や外に居たのに何故か犯人らしい人物を見てない。なのに、偶々立ち寄った行商人や職人と言った他所の地区に住んでる5人は犯人らしい男達を目撃している…」
「時系列や証言の細部はまだしも、目立つトレンチコートと中折れ帽の男達が事件現場で全く証言が無いか…。やっぱり陰謀だったろ?」
「またそれか、ダニー。…とりあえず証言を時系列で並び替えて大体の時系列を確認するぞ」
「そして、最後の爆発と」
1時間も掛かって時系列に沿って黒板に証言をまとめたが、詰所からの届いた新たな目撃情報や不審者情報が届き、また1から情報をまとめたところ、結局午後9時まで時間が掛かった。
「コーヒー飲む?」
夕食も部下に買ってきてもらい、ほとんど缶詰状態だったが、どっかに行ってたダニエルが金属製のポットを片手に戻ってきた。
「ん?ああ。……有るのか!?」
高級品のコーヒーが有ると言われ、ギブソンは目の色が変わった。
「これから長くなるんだ。ちょっとは贅沢しようと思ってね」
そういうと、ダニエルは五徳の上にポットを乗せ、アルコールランプをに火を着け始めた。
「全く、今思えば電気式のコーヒーメーカーや自販機が懐かしいよ」
ボヤキながら、ダニエルは改めて黒板を見た。
「しかし、これは厄介だな」
「ああ、この手口はアイツらだな」
「捗ってるかな?」
「まだ火にかけたとこだよ」
ダニエルは見当違いな返事をしていたが。ピクニックバスケットを片手に、人狼の男が倉庫の中に入ってきた。
「カニンガム巡査か、久しぶりだな」
ギブソンが手を伸ばすと、カニンガムは握手した。
「どうも、ギブソン捜査官。86年以来だな」
「あの頃が懐かしいな。ところで今は何をしているんだ?見たところ…」
カニンガムは帯剣しているが、かなり使い込んだ雰囲気があった。
「しがない冒険者だよ。バーク警部もそうだけど、彼はケシェフの方に居るから来れないだろうな。そうそう、うちのカミさんから夜食のパイを貰ったんだ。よかったら食べてくれ」
カニンガムはパイと言ったが、実際はイチジク入りのタルトだった。
「ありがたいな。ちょうど、ダニーがコーヒーを入れてるし一杯やりながら会議でもするか」
「まず最初が“工事中の看板”を持った男達。コイツらが道を封鎖したのが目撃者が少ない一因だな」
ギブソンが掲示板に貼られた地図に黄色い画ビョウを刺した。
「もしくは、巻き添えを恐れたか。気になるのが、“工事中の看板”なんだけど。昨日、荒鷲の騎士団の荷物がすり替えられる事件が有ったんだが、みんな聞いてるよね?」
「部下から聞いたが荒鷲の騎士団が逃げ出すって住民が暴動寸前になったって話か?」
ダニエルは「それだよ」と言いながら、自分のメモ帳を取り出した。
「その事件も“工事中の看板”を誰かが道に置いて騎士団の馬車を住宅地区の市場に誘導してた痕跡があった」
左手にコーヒーカップを持ちながら、ダニエルは街の西側に在る市場を指差した。
「ああ、その現場には居たが、急に荒鷲の騎士団の荷馬車が進行方向左側に倒れて露店を押し潰したんだが、いやあ大騒ぎだったけどなんか変だったよ。それのせいで、カミさんに頼まれていた買い物が出来なかったんだ」
コーヒーを飲もうとしていたギブソンが顔を上げた。
「変って?」
「最初は、露店の主人が怒ってたよ。まあ、店と商品がペシャンコだったからね。だが、直ぐに近くに居た人が“金貨だ”“金塊だ”って叫んで、“コイツら逃げ出す気だ”って叫んだんだが。そこが気になったんだ。なんか、タイミングが良すぎる感じだった。それに後になって倒れた荷馬車を見に行ったが、車軸が折れて倒れたんだが、露店の前は特に段差も無い。それに、金貨や金塊の重さを考えても、他に積んでた荷物は比較的軽い小麦などで、過積載でもなかった」
ギブソンは耳の後ろを掻きあげながらぼやいた。
「全く。これじゃ、ダニーの言うとおり陰謀じゃないか」
「だから言ったろ。で、商会の事件に戻るけど。爆発が起きる寸前に、部下とこの位置に居たんだが、工事の作業員っぽい男が物陰に消えて直ぐに爆発が起きて、トレンチコートの集団が商会に入っていくのが見えた」
ギブソンはコーヒーカップを置くと、バインダーに纏めた資料を手に取った。
「その後の証言では、銃声が断続的に聞こえ、帆付きの荷馬車が6から8台が商会前に乗り付け、その後走り出して直ぐに2度目の爆発があり、商会は崩れたと。この門の詰所の記録だと爆発以降、帆付きの馬車は街から出ていない。手掛かりその1はコイツだな」
ビトゥフの街門は午後6時には閉められるが、ギブソンの手元に有るのは、閉門時間後に届いた記録だった。
カニンガムは鉛筆を持って、地図に近付いた。
「そうなると、開門時間前に捜せば良いが…。6から8台なら、場所は限られるだろ?」
カニンガムは倉庫街や商会の多い商業地区、神殿、荒鷲の騎士団と自由の騎士団の建物の幾つかに丸をつけた。
「分散させている可能性もあるが、それだけの数の荷馬車を止められそうな施設はこれぐらいだろう。…内門の衛兵が見たか聞いてあるのか?」
「いや。まだだが、彼等は内門の詰所に居るはずだから、これから証言を取ってから調べれるな」
「よしと。じゃあ、行きますか」




