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膠着状態


「面倒だな」

反乱軍の砲塁からの砲撃で南部部族連合は爆破された石橋の周辺まで押し戻されていた。

「街に入った兵士を北から送れ!」

ウルベル族の部族長は既に宿場町に到着していた、約1000人の兵士を宿場町の北西から出し、北側から攻めさせる事にした。


「あの爺さん、張り切っておるな」

ガヴトロフ族のマルチン卿がワベッジ族のマレック卿に耳打ちした。

「騎士団に任せずに部族長直々だからな。まあ、あそこは無理もない」

ウルベル族はかつてはヴィルノ族に並ぶ程の騎士団を擁していたが、10年程前に南の人馬領で騎士団が人馬との戦いに敗れてからは、ウルベル族全体が勢いを失っていた。

人馬奴隷の取引の他は農業程度しかなく、騎士団が衰退したウルベル族は経済的に衰退し、かつての栄光を取り戻すために今回の反乱鎮圧に賭けていたのだ。



「敵軍は、小川の付近まで後退しました」

反乱軍の陣地では街を正面に見て右手側を流れる小川まで、南部部族連合が後退したので兵士達は安堵し始めていた。

「各砲兵中隊に伝達。“砲撃は小川を超えた敵兵のみ狙え”」

小川の向こう側も砲撃は届くが、距離があり狙い通りの場所に当たる保証が無いので、指揮官の“リッキー”こと、エリック・マクドネルは射撃を止めさせることにした。

「了解」


「深追いしてこないのは面倒ですな」

「ああ、奴ら何かしようとしてるはずだ」

部下とリッキーは同じことを考えていた。“敵を目の前にして、攻撃を仕掛けてきた奴らが、こうもすんなり退く筈は無い”と。

「パオロの指示待ちだな」

しかし、一介の砲兵部隊は全体を統括している将軍の命令でしか動くことができない。

リッキーは追加の命令を待つしかないのだ。



「で、ポルツァーノ商会の関係者と動いていた奴等は何処だ!?」

パオロは狭い塹壕の中を移動しつつ、ポルツァーノ商会と何かをしていた部下から話を聞こうとしていた。

「えーっと…」

宿場町に派遣していた人狼の中尉が答えに窮したので、パオロは振り返ると胸倉をつかんで木の板で補強した塹壕の壁に部下を押し付けた。


「何で貴様が知らん…。貴様が預かってた部下だぞ?…それとも海兵隊は部下の居場所も知らない間抜けな士官ぞろいのゴミ捨て場か?基地の中で部下が手弄(センズリ)こいてる場所を調べるのと、戦場で何をしてるのか把握するのは違うんだぞ!……何も部下がやましい事をしてるのを取り締まれと言ってるんじゃぁ無い、部下が何かの不幸でおっ死んだ時に指揮官の手前(てめぇ)が“アイツは何処かへ飛んで行きました”と無責任な報告でもするのか!少しは部下の状況を把握しろ!」

押し付けられた部下は必死に弁明しようとした。

「し、しかし私は」

「何だ!?住民の避難を任せた事か!?たかが交渉事だろ!せめて部下の1人にでも仕事を振り分けて責務(Duty)を果たせ!わかったらさっさと、部下共から事情を聴いてこい!」


パオロは部下を突き飛ばすと、ズカズカと塹壕の奥へと向かった。

「災難だったな……」

同じ、海兵隊出身の兵士が突き飛ばされた中尉に手を伸ばし、立たせながら言った。

「いや、俺の不手際だし。あの人はそこまで怒ってはいないよ」

「……何で判る?」

中尉は自分の耳を指さした。


「あの人は人猫だろ?猫は怒ると耳を真後ろに倒すんだ、だけどあの人はまっすぐ立ったままだった。とは言え、次は耳が倒れることが無いようにしないとな」



「で、どこがいい?」

流石に武器庫では危ないので、ショーンとデイブは塹壕の外で“銃弾を掴む実演”をする事にした。

「胸の中心にしてくれ」


「あいつら、何してんだ?」

援軍が現れたものの、街に出ていた部隊がすべて戻り。その援軍が一旦退いた状況になったので、手持ち無沙汰になった兵士が、2人の奇行に気付き塹壕から顔を覗かせていた。


「リンゴを頭に乗せた方が良いんじゃないか?」

デイブがショーンをからかう様が余計に目を引く原因になった。

「いや、結構。…あー、よかったら君達も前に来たらどうだ?」


塹壕から顔を出す兵士たちに気付き、ショーンが手招きを始めた。

「来いってさ」

「面白い、行ってみるか」


「いいかな。これから騎士や従士、手練れの兵士が出来る“銃弾(Bullet)掴み(catch)”の実演をする。よく見てくれ」


「怒りすぎでは?」

気心が知れた部下から、中尉に対する“しごき”の事を言われ、パオロは眉を寄せながら弁論していた。

「しょうがないだろ、アイツは指揮官としては新米だ。鉄は熱いうちに…」


視線の先で、兵士たちが塹壕から出て行くのを見て、パオロは慌てて塹壕から顔を出した。

「一体、何の騒ぎだ?」

パオロが顔を出した時、ショーンがデイブに小銃を発射した。


「んなぁ!?」

「おっと!」

撃たれたデイブは難なく銃弾を右手で掴み、右手の親指と人差し指で挟む形で掲げて見せようとした。

「熱っ!」

しかし、銃弾が熱いので地面に落としてしまった。


「おいおい、無くすなよ。これじゃ空砲かと思われるだろ」

「そうは言うけどさ、有った」

草の中に落ちた銃弾を見つけ、デイブは指先で転がし温度を確かめてから見えるように掲げた。

「御覧の通り、魔法を使えばこれぐらいの芸当はできる」

デイブがそういうと、兵士たちから拍手が巻き起こったが。


「何やってんだ伍長?」

兵士たちの間をパオロが押しとおると、兵士たちは一斉に静まり返った。


「あ、その…。魔法がある世界なので、剣術に覚えがある人なら銃弾の一つ位なら掴める事を証明しようと」

デイブを睨み付けていたパオロはショーンの方へ視線を向けた。

「ああ、そうだよ。正直なところ、冒険者を20年近くやってる俺達でも銃弾キャッチ位は出来るんだ。これが剣術が得意な騎士になると、確実に叩き落されて前装式のライフルだと倒すのは厳しいんだ」

途中から見ていた兵士達は、すごい曲芸を見た程度の気持ちでいたが、ショーンの一言に顔色を悪くした。


「それで、小銃が効かないならどうしろと?」

パオロの質問にショーンは剣を抜いた。

「まあ、単純なことだけど、人は腕が2本しかない。この2本の腕で捌ける銃弾の数は精々…。3発ってところだな。それに、剣のリーチの関係上、馬に乗っている状態では、馬の胴体を狙った銃弾は届かないだろうから。まず馬を狙って、落馬させたところに止めの銃弾を浴びせるなら良いだろう」

「成程な…。おい、この事を触れ回っておけ。それと、全員持ち場に戻れ、敵が何をしてくるかわからないんだ」


兵士達は塹壕へと戻り、パオロに付いてる部下は今の出来事をメモに取った。

「騎士連中が銃弾をね…」

「意外と知らないんだな。正直、銃が流行らないのは、それぐらい避けられるからなんだ」

ショーンは剣を納め、小銃を手に持ちながらパオロに話しかけた。


「流行らないね…。では、銃自体は結構前からあるのか?」

「そうだね。聞いた話では数百年前からあるとか。とは言え、今はケシェフでボルトアクション式の小銃を作ってるよ。あれなら数が撃てるから」


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