交戦開始
「将軍!グエラ将軍!」
「…っはぁ。なんだ!?」
ポルツァーノ商会の関係者と会う寸でのところで部下に呼ばれ、パオロは嫌そうに返事をした。
「敵の新手です!北東の門を出た敵の歩兵が宿場町の北側から回り込んできました」
「…判った。おい、メイソン少佐に“ポルツァーノ商会の関係者から話を聞け”と伝えろ」
パオロは自分の副官にそう命じると指揮所へ走っていった。
「ジェームズ!北から歩兵だ!部下を配置に就かせろ!」
「了解!」
途中、ジェームズ・ケイマン大尉を見かけたので、先に配置に就くようにだけ、指示を出した。
陣地で動きがあるのを察し、軍太鼓が兵士の歩きに合わせて打ち鳴らされ始めた。
「散開しつつ陣を組め!」
宿場町の北側から回り込んだ敵兵は、白兵戦向きの密集体系ではなく、砲撃を警戒して、兵士が両腕を前後左右に伸ばしても手が付かない程度に間隔を開けながらゆっくりと進んでいた。
また、それに呼応し、街壁に置かれた矢倉でも駐屯兵が集まり、弩弓の用意がされ始めていた。
「左へ移動しろ、5列横隊だ!」
隣の兵士との間隔は2メートル近くあり、兵数が1000名にも拘らず、全体の幅は400メートル近くにも広がっていた。
「川を渡るぞ!」
北から圧力を掛ける1000名の兵士に呼応し、ウルベル族の部族長が兵たちを前に出し始めた。
「将軍、どうしますか?」
指揮所近くの見張り台で敵の全体像を確認しているパオロに、早くも幕僚が指示を仰いできた。
左手には1000名の歩兵、右手には騎士団を含む2万の兵。どちらから叩くべきか。
「…半分ほど渡り切ったところで渡河中の敵に砲撃を集中。残りは待機だ」
「了解」
「あー、クッソ。腰まで浸かるなんてな」
鎧を着込んだ歩兵達は、小川で転倒しないように慎重に進んではいたが、どうしても石や小さな起伏に足を取られ、渡るのに時間がかかっていた。
「騎士がうらやましいぜ」
馬の脚だけが濡れている騎士を見て、誰かがそう言ったが……。
「うわっ!」
騎士の1人が乗る馬が何かを踏み転倒、乗っていた騎士は頭から小川に落ちた。
「おい!大丈夫か!」
「あ、やっべ」
騎士は必死に手足を動かしたが、鎧に水が入り、起き上がれなくなったのだ。
「手を貸せ!」
すぐさま5、6人が集まり騎士を起こしたので大事には至らなかったが、重装の鎧はこの手の事故が付き物だった。
「なあ、今あの大砲で狙われたらやばくないか?」
何もない状況で、騎士1人が落馬してもこの騒ぎだった。攻撃を受けただけでパニックが起きかねない状況なのだ。
「やばいけど、流石に大砲はここまで届かないんじゃ?」
「突出してないか?」
宿場町の北側から回り込んできた別動隊の兵士達も不安を感じ始めていた。
南部部族連合の兵士たちが渡河に手間取り、自分達だけ陣地の反乱軍に対して前に出てしまったのだ。
「全体ー!止まれ!」
流石に、突出しすぎだと感じた別動隊の指揮官が停止を命じ、軍太鼓が停止の合図を出した。
「アイツら出て来ないな」
あわよくば、反乱軍を誘い出し野戦に持ち込めるかと考えては居たが、反乱軍は陣地から出てくる気配どころか、大砲すら撃って来ないので渡河を支援する囮にすらなっていないのだ。
「前に出すにもな」
南部部族連合の本隊を見ても、渡河に手間取り、ようやく1/4が渡河を終えた状況だった。
「部族長からはなんと?」
こうなった場合の指示を聞いているか、部下が指揮官を問いただしたが。
「何も…、迂闊に動くなとしか」
「あ奴、何を立ち止まっているんだ?」
別働隊が立ち止まった事にウルベル族の部族長も気づき、伝令を呼んだ。
「おい、“敵の陣地に取り付けと”と伝えてこい」
「はい」
長いこと、組織的な戦いを経験してこなかったウルベル族は、狼煙や軍大鼓などで命令を伝達する手段を失伝していたのだ。既に混雑した小川の浅瀬を伝令は通ることが出来ず、大きく迂回して別働隊の方へと向かう羽目になった。
「大隊長!敵が出てきました!」
停止した別働隊では、陣地から騎兵隊が出てくるのを目撃していた。
「密集隊形!」
騎兵相手に有利な密集隊形をとり、迎え討とうと大隊長が指示を出したが、思わぬ誤算が起きた。
「突撃!」
「わあああぁぁぁぁ!」
なんと、別動隊の中央部に配置していた200名程の中隊が独断で突撃を開始したのだ。
「あの、バカ!」
散開した状態で突撃を始め、段々と隊形が崩れるのを見ながら大隊長は、部下の蛮勇を呪った。
「し、しかし。敵は寡兵です。我々も突撃すべきかと…」
既に左右の中隊から、突撃に加わろうと駆け出す者が散見された。
「くそっ!」
確かに反乱軍の騎兵隊は50騎程。1000名の兵士で当たれば何とかなりそうな物だった。
「突撃!」
先走り、命令を待たずに突撃した仲間を見捨てることなぞ出来ず、大隊長は別働隊に突撃を令した。
「敵の先頭集団を叩くぞ!」
騎兵隊を指揮するリーは、敵の弱いところ……。独断で突撃を開始した中隊と別働隊の間に出来た兵士が少ない場所へと騎兵隊を率い、一気に叩くつもりだった。
「騎兵隊が交戦します」
指揮所からポオロが眺めていると、騎兵隊が突出している中隊の中でも、30名程の兵士の集団をカービン銃で射撃し、一旦距離を取っているのが見えた。
「付かず離れず…相手の間合いに入らずによくやるな」
歩兵から距離を置くと騎兵隊は立ち止まり、カービン銃に銃弾を装填すると再び駆け出し、今度は別の30名ほどの集団に近づき射撃をする。
繰り返されるうちに、先走った中隊は半分程に数を減らしたところで、リーがサーベルを抜くのが見張り台でも見えた。
「抜刀!」
「「「「抜刀!」」」」
人馬や馬に乗った人狼、人猫、更には人間がリーの指示でサーベルを抜いたり、リボルバー式の拳銃を抜いた。
「続け!」
「なっ!」
急に先頭集団と戦っていた反乱軍の騎兵隊が向かってきたので、別働隊の指揮官は驚いた。
「止まれ!」
慌てて突撃を止めさせ、騎兵の突撃に備え始めた。
「集まれ!」
突撃でバラバラになってしまった隊形を大慌てで整えようと、旗手が集結地点を知らせる軍旗を高く上げた。
「こっちだ!」
騎兵隊の先頭に居る人馬が自分たちから見て左手へと流れるのを別働隊の指揮官は目撃した。
「急げ!」
通常、歩兵の左翼側は歩兵が左手で盾を持つため、護りが硬いとは言われるが、今の様に混乱している時はその限りではない。騎兵の突撃を殺ぐ為に、今は可能な限り兵を集める他はなかった。
「このまま続け!」
しかし、反乱軍の騎兵隊は整列を終え始めた別働隊の前を通り過ぎると、大回りで元来た方向へと向きを変え始めた。
「しまった!」
別働隊の指揮官の目の前で、反乱軍の騎兵隊が孤立した中隊の方へと進路を変えた。
「突撃!」
ラッパ手が突撃の喇叭譜を吹くと、騎兵隊は喚声を上げ、弱った中隊員に襲いかかった。
剣や槍を持つものは、騎兵の拳銃に。逃げ出すものはサーベルに打ち倒された。
「Now!」
「Nooow!」
リッキーが砲撃を令し、各砲兵中隊長が砲撃を開始した。
狙いは敵別働隊の中央。パオロが別働隊が突出したことに気づき、渡河中の南部部族連合ではなく、別働隊を叩くことを決断したのだ。
「突撃!」
再度、突撃の号令が別働隊の指揮官から下令されるのと、砲弾が着弾するのは同時だった。
爆炎と轟音に塗れた別働隊は、冷静さを欠いたまま騎兵隊に向かいだした。
「なんてこった」
目の前で、別働隊が騎兵に弄ばれ、更には集合した所を陣地からの砲撃に曝されるのをウルベル族の族長は指を加えて見るしか無かった。
既に、統制が取れていない別働隊が、無秩序に騎兵を追い。陣地に向かう形になっても何も出来なかった。




