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兵士達の帰還

「全く、揃いも揃って引き揚げてくるとはな」

ウルベル族の部族長は反乱軍を前にして引き揚げてくる騎士団たちを見て言葉を漏らした。


「しかし、敵は只者では無いかと」

離れた位置から単眼式の望遠鏡で見た限りでも、リー率いる反乱軍の騎兵隊の統制が取れているのは明白だった。

“少ない反乱軍を蹴散らすだけの楽な初陣”と南部部族連合に参加している部族長達は考えていたが……





「これで、全員か?」

ジェームズは歩兵部隊の指揮所で塹壕に戻ってきた味方の兵士が全員いるか部下に確認を取らせていた。

「あと、10名程」

「…ルーシー達は?」


ジェームズの問いに部下は唾をのんだ。

「まだです。サラとジョシュ、ジョージの3人も…」

「…そうか」


「チョットいいですか?」

まさか、塹壕の中でジェームズがヤキモキしている事を知らずにショーンが顔を出した。

「ああ、ライバック軍曹。何か用?」

元男だということを忘れるほど、ジェームズは女性らしい口調で返事をした。

「いやね、パオロから予備の銃を貰って来いと言われてね。それとアンタの指揮下に入ってくれって」


ジェームズは塹壕の隅の方を見てから武器庫担当の部下に命令した。

「銃を渡してからガトリング砲の砲座にお連れして」

「はっ」



「ガトリング砲…?」

銃座に向かう途中でデイブが心配そうな顔をした。

「あれだ、銃身が一杯付いたくるくる回るやつ」

ショーンがレバーをクルクル回す仕草をして見せた。

「そんなのは知ってるよ!で、何でそんなのがあるんだ?砲だって青銅製のまだピカピカ光った真新しい物じゃないか」


砲塁に据え置かれ今も射撃をしている前装砲は、博物館や公園に置いてあるような緑青が浮いた物とは違い、黄金色に光った新品だった。

「さあ?そこまでは聞いて無いな」

聞こうと思っていた所にデイブがテントにやって来て、そこからの南部部族連合の到着騒ぎが起きたので聞きそびれていた。


「FELNの幹部が何処かから貰ってきてるみたいですよ」

案内をしていたジェームズの部下が答えた。

「“何処かから”って、何処?」

「噂ですが、神聖王国やドワーフの転生者からと」

「噂だとね…」


街を背にする形で、曲がりくねった狭い塹壕の中を右折左折を繰り返し、ようやく武器庫に案内された。

「ところで、この塹壕ってどうやって掘ったの?」

案内していた兵士は南京錠を鍵で開け、前装式ライフルのトリガーガードに通した細い鎖を抜き、端に置いていた2丁を机の上に置いた。


「土魔法を使える奴が掘ったんだ。……この2丁を使ってくれ。銃剣はコレを」

机に置かれた前装式ライフルをショーンとデイブは手に取り、撃鉄を起こして機構を確認してからため息を吐いた。

「マジかよコレ…」

デイブはライフルを机の上に戻した。

「骨董品じゃないか。いや、新しいが……」


デイブはパーカッション式のライフルは博物館や誰かの家の壁に掛けられている物を見たことが有るが、扱ったことは無かった。

「意外と簡単だよ」

ショーンが手に持ったライフルで説明を始めた。

「弾丸と火薬が入った紙薬莢を破いてから銃の先端に有る銃口に入れ、それから槊杖(さくじょう)と言われるこの棒で…。ほう、ミニエー弾か」


「ちょっと、おじいちゃん」

前世では長生きだったからか、ショーンが年寄り臭く長い説明をしそうになったのでデイブが止めた。

「ん?」

「そうじゃなくて、コレで騎士とか相手に戦えるかって話」


案内役だった兵士が怪訝な顔をしたので、慌ててデイブが補足の説明をした。

「何度か見た事があるが、手練の剣術使いになるとコミックヒーローみたいに銃弾を剣で叩き落としたり、手で掴んだりする奴が居るんだ」

「…まさか」


デイブやショーンと違い、今世では割と平凡な人生を送っている反乱軍の兵士達は知るよしはなかった。普段は威張り散らしている騎士達が、不意打ちでない限りは銃弾位屁でもない事を。

「あー…」

デイブはショーンの方をチラリと見てから兵士の方に視線を戻し、ゆっくりとショーンを指差した。

「彼が見せてくれるよ」

「え…」

ショーンは目を真ん丸に開いた。


そして、銃弾を受けるの役を押し付けられると気付いたショーンは大急ぎで銃弾を小銃に詰めた。

「何処を狙ってほしい?」

弾が入った小銃を大事そうに抱え、笑みを浮かべるショーンを見て今度はデイブが眉間にシワを寄せた。

「…表でやるか」




「全員戻りました。…というか、増えました」

ジェームズは部下の報告を聞くと、指揮所を飛び出し塹壕に向かった。


「ルーシー!サラ!」

「ママ!」

ジェームズは塹壕の隅に腰掛けているルーシー達と抱き合った。

「ジョシュとジョージも無事ね。遅かったけど、何があったの?」


(おっと)

部下が全員引き揚げてきたと聞いたパオロも塹壕に来ていたのだが、ジェームズに気付き角の所で様子を伺いだした。

「何してるんですか?」

(シッ!声がデカイ)


脇で腰掛けたままのジョシュが耳を少し倒すのをジェームズは見逃さなかった。

「え!…何も」

ジェームズがジョシュの頭頂部を叩いた。


(アイツ、母親らしいところを見られるのを嫌がるんだ)


「すぐバレる嘘をつくなって父さんに言われてるでしょ!」

ジェームズの剣幕に、ジョシュ尻尾を巻いて隅っこに縮こまった。

「わかった言うよ!……街の兵士に捕まったけど、信号弾に気付いて逃してくれたんだ」

「捕まってた!?」


(えー、別にいいじゃないですか?)


ジェームズが娘2人に異常がないか確かめ始めた。

「変なことされた?」

「えっと。何もされなかったよ。というか手が触れただけで誤ってくれるぐらい親切な人だったし」

「…ギブス軍曹!」

「はい!」


(俺もそう思うが、アイツは気にすんの)


塹壕の隅にも届きそうな声で名前を呼ばれた人猫のギブス軍曹だったが、すぐ近くで街の様子を見ていた。

「戻ってきた兵士で捕虜になった奴が居たか報告するようにメイソンに報告に来いと言え!」

「了解」


何かを思い出した顔をしてジェームズは指揮所に報告に来た部下の方を向いた。

「それと、“増えた”とか言ってたな。誰がこっちに来たんだ?」

「街の住民です。元アメリカ人やポルツァーノ商会の関係者と名乗ってました」

ジェームズは2,3歩部下の方へと歩み寄った。

「グエラ将軍にはその事は伝わっているか?」

「いえ、まだです」

「小尉、ここは任す。私はグエラ将軍の所に行く」

「その必要はないぞ大尉」


話が済んだのを見計らってパオロが部下と共に姿を見せた。

「で、報告か何かか?」

「宿場町の住民何人かが、逃げ込んで来たとの事です。中にはポルツァーノ商会の関係者もいると」

「そうか…。奴らは何処だ?」

「こちらです」

側に居た兵士が場所を知っていた。


「よし行くか。ジェームズ一緒に来い」

コソコソと反乱軍兵士の一部と宿場町で何をしていたのか問いただそうと、グエラはポルツァーノ商会の関係者が居る場所へと向かった。


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