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手紙の配達

/(^o^)\クリスマス返上で仕事してました


「オーイ!」

槍の先に掲げられていた青い三角旗に代わり、白い布に揚げ代え、ショーンは槍を大きく振りながら叫んだ。



(オーイ…)

「誰だ?」

ショーンの声に気付き、塹壕に潜んでいた兵士が数人耳を出した。

他の兵士が耳を出している中、1人が慎重に顔を出すという、なんとも間抜けな光景だが、ショーンを目視で確認した。

「何か白旗揚げた奴が来たぞ」

「何だって?」

他に数人の兵士が塹壕から顔を覗かせた。


(オーイ…)


「人狼だな」

「馬に乗ってるけど騎兵隊の仲間か?」

「でもアッチは街の方だろ?」

街の北側から馬に乗り、ゆっくりと近付いてくるショーンが何なのか判らず、兵士達はお互いに顔を合わせた。

「街の兵士じゃ無いよな?おい、誰かアイツが出てくるところを見たか?」


本陣から見て、何もない北側に面した塹壕だった為、殆どの兵士は寝ているか、食事を取るなど休んでいたため、ショーンが何処から来たか誰も見ていなかった。

(オーイ…)


「参ったな」

どうしたものかと悩んでいると、塹壕を挟んで反対側の本陣から人馬の兵士が走ってきた。

「なんだアイツは?」

人馬の兵士も状況が判らず、取り敢えず一番近いこの塹壕に確認に来ただけだった。

「さあ?私たちも、つい今しがたアレが来るのに気付いたんで」

“投降してきた捕虜にしてはおかしい”と、判断に悩んでいる間に、士官の人馬が現れた。


「オイ、なんだアイツは?」

士官の問いに「さあ?」と手を広げるジェスチャーを全員がしたので、士官は耳の後ろを掻いた。


「オーイ」

そうこうしている間にショーンが100メートル程手前の地点で止まり、激しく槍を振り出した。


「ああ、くそ。本陣を見られるわけには行かないしな…。ギブス軍曹、悪いが部下と一緒に街の方に追い返してきてくれんか?」

名指しされた人猫のギブスと部下たちは銃を背負い袋から出した。

「いいっすけど、ゴネたら威嚇射撃でもしますか?」

「ああ、言うこと聞かなければな。だが、怪我だけはさせるなよ」

「了解」


ギブスが塹壕をよじ登り、拒馬の隙間からショーンの方に向かうのを全員が固唾を飲んで眺めた。




「あー、やっと誰か出てきてくれたよ」

ギブスと部下3人が歩み寄ってきたので、ショーンは槍を振るのをやめた。

「何の用だ!?」


ギブスの問いに、ショーンはいそいそと手紙を懐から出した。

「パオロ宛てにお手紙を届けに来たんだけど、居るかい?」

「…何?」


変に相手を警戒させないようにと、ショーンが気さくに話しかけたが、思いっきり裏目に出た。

「いや、パオロよパオロ。オタクさんの将軍の」

「…」

ギブスと部下達が不審がり、ショーンを上から下まで舐めるように見た。


「誰だあんた?」

「俺かい?ポストマンさ」

中身がお爺さんだけあって、変にセンスが古臭いショーンのジョークに、ギブスは益々不審がった。


「誰からの手紙だ!?」

とうとう、ギブスが銃を向けたのでショーンは両手を挙げた。

「おいおい、落ち着けよ。騎士のドミニカからの手紙だってパオロに言えばわかるっての」

ギブスが銃を向けたまま近づいてきた。

「手紙を寄越せ」

「いや、直接手渡すことになってんだ。パオロ…。あー、グエラ将軍には、“キモ(ke-mo)サベ(sah-bee)”のショーンが来たと言えば判るから」


「…メイソン、少佐に報告してこい!」

「了解!」

部下の一人が士官の所に報告に行っている間も、銃が下ろされることはなかった。





着の身着のままの格好で神殿に避難していた住民達の周りを、神殿に立て籠っていた駐屯兵達が取り囲む形で移動を開始した。

「奴らは?」

「路地の陰に、武器は持ってませんね」


ゆっくりと移動しつつ、反乱軍の兵士の様子を探ろうとしたが、反乱軍の兵士は数人が遠巻きに様子を確認しているだけだった。


「3…。いや、5人か」

予想外に全く威圧的じゃない雰囲気に駐屯兵どころか、住民達まで気味悪がった。


「こうも何もないとな…」

「ああ、歩哨すら立たせないとはな」

“避難する様子を反乱軍側の兵士が見届ける気がないのか”?”と、一瞬勘違いしてしまいそうになるほど、反乱軍側の兵士が居ないのだ。


「いいか、内門を通るまで気を抜くなよ」

味方がいる筈の隣の地区までの間に、部下達が変な気を起こさぬように指揮官は注意した。


「もう2人、屋根の上です」

部下が屋根の上に反乱軍の兵士が居るのを報告してきたので、指揮官は目の端で2人の姿を確認した。

(住民を威圧させないためにしては数が少ないな…)

しかし、通りを見渡せる要所要所に歩哨を立たせているところを見ると、反乱軍側の指揮官が油断ならないのは理解できた。


「ん?」

その反乱軍側の指揮官が部下と一緒に門の近くの通りの真ん中に立っていた。

『この先の門番とは避難について交渉が済んでいます。そのまま進んでください!』


人猫の部下がメガホンで住民に話しかけ、他に2人の部下が交差点の他の道の真ん中に立ち、門への道から外れないように誘導を始めた。

「ようやく御出でになったと思ったら」

「なんとまあ」


戦争をしているのを忘れてしまうような雰囲気に変化に駐屯兵達に笑い声が広がった。


「住民はこれで全部だ。怪我人も全員担架で移動したし、部下も全員退去する」

駐屯兵の指揮官が反乱軍の指揮官に近づき、避難状況を説明した。

「協力ありがとう、指揮官殿」

反乱軍の指揮官が握手をしようと手を伸ばした。

「…異世界の風習でしたな」

握手の習慣を転生者の部下から聞いていた指揮官は、反乱軍の指揮官の手を強く握った。


「ああ、此処に居ましたか」

神官長が2人に気づき、避難民の中から歩み寄ってきた。

「神官長殿」

神官長とも固い握手を交わした反乱軍の指揮官だったが、握手する手を神官長が左手を添え諭しだした。


「…貴方は前世では、戦争が終わった後は故郷にも帰らず孤独のまま亡くなりましたが、まだあの事を悔いていらっしゃるのですか?」

「…っ!」


神官長は反乱軍の指揮官の前世の記憶を垣間見、彼が今世でも終わることがない罪の意識に苛まれているのではと心配したのだ。

「…私は多くの人の死に関わったのです。自分だけソレを忘れて生きていくつもりは有りません」


予想外に悔いている事に憐れみを感じ、反乱軍の指揮官の返答に神官長は目を閉じた。

「貴方は十分に償ったではありませんか?あの戦争は貴方の意思と関係なく犠牲が払われた物だったのです。今世でも自分を犠牲にしすぎるだけでは駄目ですよ。せっかく生まれ変われたのです」


反乱軍の指揮官の前世の記憶は悲惨な物だった。


姿を見せない敵

刺突爆雷で自爆攻撃をする日本兵の最後

即製の仕掛け爆弾で吹き飛ぶ仲間

日が落ちるたびに仕掛けられる夜襲

乳飲み子を手に掛け、後を追うように崖から飛び降りた母親


海兵隊員として太平洋に派遣された彼の前世の出来事は新聞やラジオでは一切扱われず、心を擦り切っていた彼は復員した後に今までの生活に戻ることができなかった。

一度家に帰り、大きくなった息子との頭を撫でようとしたが、泣きながら目の前で我が子を崖下に突き落とした名も知らぬ母親の姿を思い出し、それができなかった。

妻や両親に何があったのか告白しようとしたが、地獄で何をしてきたのか知られたくない思いと“臆病者”と思われるのが怖く。結局、蒸発同然に家から出て各地を彷徨って人生を終えていた。


“地獄に落ちた自分の居場所はここじゃない”と何もかも拒絶した結果だった。


「…いえ、私にはその権利はありませんよ」

丁度のタイミングで、避難する住民が全員門への道へと移動し終えた。


「…では、私はこれで。御二人ともどうかご健勝を」


神官長の手を振り払い、部下と共に反対方向へと向かう反乱軍の指揮官を見送りつつ、神官長は溜息を吐いた。

「あそこまで頑固とはな」

反乱軍の指揮官とは対照的にゆっくりと門へと向かう神官長に、駐屯兵の指揮官が付いて歩いた。

「奴さんは前世で何が?」

「…下らん事です。些細なイデオロギーの違いで価値観が同じ人間同士が殺し合いをしたのですよ」



飼い猫のニコライの妨害に耐えつつ、何とか1話orz

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