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交渉中

「我々は住民を無差別に傷つけるつもりはない。住民をケシェフへ避難させて貰えればそれで良い」


神官長の部屋で、立て籠っている駐屯兵の指揮官と神官長。包囲している反乱軍の指揮官とその部下が机を挟んで交渉をしていた。

「避難と言いましたが。正直に申し上げますと、住民は貴方がたの事を恐れており、神殿から出ようとはしないでしょう。それに、私達も武装解除する気は一切ございません」


反乱軍側からすれば、全く無関係の住民に興味はなく。奴隷を解放し、宿場町を魔王の影響力から解放できれば良かった。


「では、可能ならば武装した状態で住民を護衛して貰いたい」


反乱軍の指揮官の要請に駐屯兵の指揮官はズボンの中で尻尾を微かに動かした。

「言っておきますが、我々は降伏する気は一切無いし。住民を外に避難させるつもりはないございません。貴方がたを信用するに足る理由が有りませんので」


「では…」

反乱軍の指揮官は引き下がらず、次の要請を出してきた。

「住民を向こう48時間は神殿内に止めて貰いたい」


駐屯兵の指揮官は返答を渋った。相手側の意図が掴めないので、何か裏が有ると思い慎重になっていた。48時間も有れば、魔法が有るこの世界では、負傷兵の大半は戦列復帰が可能になり。神殿内に居る負傷兵の再戦力化に繋がるのは容易に思い付くはずだった。それなのに、何故2日間も我々を放置するのか………。


「48時間過ぎたらどうするつもりで?」

神官長の質問に反乱軍の指揮官の表情が暗くなった。

「48時間以後の安全は保証出来るのですか?貴方の口振りでは、“それ以降の安全は保証出来ない”と受け取れるのですが?」


さーっと、反乱軍の指揮官の顔から血の気が引き、まるで能面のような表情になった。

「48時間後は…」

反乱軍の指揮官の目が泳ぎ、耳を真横にして答えに窮したので、神官長と駐屯兵の指揮官はわざとらしく耳を倒した。


特に駐屯兵の指揮官が“さあ、どっちだ?”と、まるで博打を打っている博徒の様に、耳をソヨソヨと前後に揺らし、軽く口角を上げて煽るのは効果があった。


煽られている反乱軍の指揮官は曖昧な答えを探したが思い付かず、冷や汗をかき始めたが、神官長が更に追い討ちをかけた。


「住民達は、貴方達FELNの兵士。特に元奴隷の兵士を恐れております。今こうして話している間も、母親達は子供達に配る毒薬入りの菓子を用意し、娘達は凌辱を恐れ毒杯を仰ごうとしているのです。他の者達も、妻子が死後に辱しめを受けないようにと、地下の納骨堂に油を撒き、火を着けてから貴方達に最期の闘いを挑もうとしているのですよ?」


半分は事実だが、住民達は交渉の行方を見守っており。結果次第では最悪の結果になるのは明白だった。


「貴方は…」

神官長が反乱軍の指揮官の手を握った。

「前世と同じ過ちを繰り返さなくても良い筈です。あの母子の様な」


反乱軍の指揮官の顔が引きつった。

神官長が反乱軍の指揮官の前世での記憶を探り、トラウマを掘り起こしたのだ。

「48時間後には、我々は宿場町の城塞を攻撃するか、宿場町から離れます………」

「中尉!」

駐屯兵に今後の計画が知れ渡るが、指揮官は素直に今決まっている事を話したので人猫の兵士は驚いた。


「攻撃が決まった場合は、此処も無事とは限りませんので、避難をお願いしたいのです」

前装砲とは言え、椎の実形の砲弾は狙いが正確で。城塞から離れた南の神殿に砲弾が当たることは無いだろうが、仮に火災が発生するか、混乱が起きればどうなるか判らなかった。


「判りました。……避難中の安全は保証して貰えるとの事ですが、住民を安全地帯にまで送り届けた後に我々が戦列に復帰することになりますが、宜しいので?」

駐屯兵の指揮官からの問に反乱軍の指揮官は頷いた。

「構いません。将軍も“住民の避難さえ完了すれば良い”との方針です」




「なあ?」

「なんだい?」

馬で小川を越え、宿場町の北東の門が正面に見えるタイミングでデイブが口を開いた。

「俺がグエラ少佐に手紙を届けていることになってるじゃん」

「そうだね」


デイブは小一時間前から“何かおかしい”と思っていたことをショーンにぶちまけた。

「俺よかショーンの方が適任じゃないか?」

ショーンが真顔でデイブの顔を見てから正面を向き、再びデイブの顔を見た。

「まあ、そうだね。同期兵だし…。あ、やっぱ無理」

「いや、何でだよ!」

ショーンが目を大きく逸らしたのでデイブが思わず大声を上げた。


「いや、賭けで負けて借金が…」

「幾らよ?」

ショーンが掌をデイブに向けた。

「…5…ドル?」

「いや、5フラン」

「なんて?」


聞き間違えだと思い、デイブが聞き返したが。

「だから、5フラン」

たったの5フランで会いたがらない事にムッとし、デイブはショーンの左耳先をデコぴんした。


「イタタ、ちょっとなんだい?」

案外痛かったので、ショーンは左耳を垂らし、さすりだした。

「そんぐらい、ちゃっちゃと払えば良いだろう」

「でーもなー」


ショーンは懲りずに次の言い訳を話し出した。

「アイツの事だから利子を求めてくるよ」

「んなの、手紙を渡したりなんだで、それどころじゃなくなるから誤魔化せるだろ」

「でーもなー」


デイブはショーンがふざけている事に気付いたが、どうせ暇だからと話しに乗っかっていた。

「アイツ意外と執念深いじゃん?深くない?」

「いや、俺は一兵卒だったからグエラ少佐とそんなに親しくは無いし。てか、そんだけ親しいなら尚更適任じゃん」

「でーもなー」




「なんだアイツ等」

北東の門に詰めている駐屯兵がショーン達に気付いた。

(でーもなー)

FELNの反乱軍が攻めてきてから、出て行く住民や伝令の出入りは激しいが、入ってくる変人は初めてだった。


(でーもなー)

「ん?…おい、アイツ等魔王様の伝令だぞ」

ショーンとデイブが青色の三角旗(ペナント)を槍に掲げているので、駐屯兵は余計に怪しんだ。


「でーもなー」

「どうします?」

兵士達に判断を仰がれ現場指揮官は悩んだ。

魔王様の配下の者を通さない訳にはいかず、かと言って怪しい2人を通す訳にも行かなかった。


「あ、二手に別れました」

デイブがショーンと手紙を交換しデイブが一人で門へ真っ直ぐ向かってきた。

「怪しいから念のため調べるぞ」

「了解」

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