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忍者と再会

「もう少し下………そこで」


オートマタを破壊した直後の騒ぎに紛れ、イシスは別の建物に逃れていた。

ゴーレムに突かれた右肩と、あばら骨の治療をするために建物の安全を確認してから服を脱ぎ、上半身裸になった所で彼等が来た。


「………………」

先程、ロキが放っていた全身黒装束の忍者。

その内の一人がイシスが鏡代わりにと、魔法で薄く伸ばして作った銀の板を持ち、適当なテーブルに腰を掛けたイシスに傷口が見えるように持っていた。


「………~~」

相手は人狼の魔王の妹であり、凝視しては失礼………。と言うよりも、女性の裸に馴れていない忍者は(不要看(見ちゃダメだ)不要看(見ちゃダメだ)………)と、心の中で唱えつつ、下を向いて硬直していた。


「え!」

突然、部屋の隅に置いていたイシスの雑嚢の近くからトマシュが現れ、驚いた他の忍者2人がヌンチャクと中国刀を構え、トマシュを取り押さえようとした。

「っ!」

「アイッ!」

剣を抜いたトマシュがヌンチャクの鎖を魔法剣で焼き斬り、ヌンチャクを構えていた忍者の鳩尾を蹴り飛ばした。


哎哟(アイヨッ)!」

もう一人の忍者は脚を払われ、派手に転倒すると、トマシュに剣を握っていた右手を踏みつけられた。


「よっと」

2人が制圧された直後にフランツも琥珀浄瓶から出てきたが。

「フンッ!」

「ぎゃっ!」

急に背後に人の気配がしたので、トマシュは振り向き様に一発殴ったのだ。


「あ………」

哎呀(アイヤッ)………」

あっという間に忍者2人を倒したトマシュが振り向き様にフランツを殴り飛ばしたのを見て、イシスと鏡を持っていた忍者は呆気に取られた。


「………え?」

自分が殴り飛ばした相手がフランツだと気付き、トマシュは狼狽した。

「わ!え!?ご、ごめんなさい!」

「………」

無言のまま、気を失ったフランツは大の字に倒れた。





「動くなよ」

忍者の一人が訛りの強いポーランド語でフランツに話し掛ける。

鼻を骨折したフランツは忍者の一人に治療をしてもらう事となった。何故かと言うと、ショーンに任せれば良いのだが、何か薄気味悪い時が有るので忍者に頼んだ訳だ。


「すみません」

散々暴れたトマシュは、フランツと忍者一同に平謝りだった。


「………意外と強いんだ」

トマシュの普段のイメージからは想像できない、見事な体捌きにイシスは驚いた。

幼少の時から父親と祖父から剣を学び、同期兵の中でも1人抜きん出た実力だったのだ。


(私とどっちが上かなあ)

どちらかと言うと身体を動かす方が好きなイシスは、いつかトマシュと手合わせをしようと考えた。


「………っ!何が有ったの?」

イシスが上半身裸だと気付き、トマシュは目を逸らしながら質問した。


「何が?」

質問の意味が判らなく、イシスが聞き返した。

「さっき、大蛇を使って人を襲ってただろ?」

「大蛇!?」

全く身に覚えが無いイシスは首をかしげた。


「私は………、オートマタを叩き潰したら床が抜けたから、そのどさくさに紛れて此処まで逃げてきただけだし、大蛇は出してないよ。ゴーレムの予備も持ってないからそもそも出せないし」

「………じゃあ、さっきのは」


フランツが「あー、ありゃ………」と、鼻に治癒魔法を掛けられた状態で手をぱたつかせながら説明を始めた。

「映画だよ。“恐怖!大アマゾンの大蛇”ってタイトルで………。何て言ったら良いかな。俺達の世界だと映像を保存する技術が有るんだが、それで映画って物を撮りだす人が出てきたんだ。最初は普通に劇を撮っただけの物だったけど、段々手が凝ってきて。特撮で作り物の蛇や小さい蛇を大きく見せたりして、さっきの映画みたいに、あり得ない化け物を出して大暴れする“パニック映画”ってジャンルがあるんだ」


「映画………」

早とちりでイシスがまたやらかしたのだと勘違いしたトマシュは、“なんだよそれ”と思いつつ、鼻を掻いた。


「大蛇か…」

イシスはイシスで“その手も有ったか”と考えていた。


「よいしょっと」

治療が終わり、イシスはテーブルから立ち上がると腕と肩を回し、具合を確かめた。


「~~~っ」

「~~~!」

純情なトマシュと鏡を持っていた忍者は見ないようにと目を逸らし続けた。


「参ったよ、オートマタって殆ど気配がしないから刺される直前になって気付いたんだけど、避けきれなくてさ」

イシスは肌着を着ると、穴が開いた服を手にとって見て「あー………」と溜め息混じりに残念がっていた。


「気配がしない?」

「うん、機械の駆動音は聞こえるけど、魔力は全く感じなくてね」

イシスやカエ、ゴーレムのブレンヌスもそうだが。聴覚や視覚と言った5感の他に、第6感として魔力の流れで相手の気配や動きを察知して常人離れした速度で動いていた。

今回の場合は、普段から魔力の流れを読むことに慣れていた為に、反応が遅れたので深手を負ってしまった。


「多分、転移門のせいかな?さっきも兵士に気付かなかったし、何か惑わされるな」

イシスが右手を上げると、雑嚢の中から針と糸が出て来て、独りでに穴を縫い合わせ始めた。



「なあ、良いかい?」

鏡を持ってた忍者がトマシュに話し掛けてきた。

「お前強いな。何処で体術を覚えたよ」

「ああ、父さんに教えて貰ったんだ」

「まじか、お前の親父さん強かったんだなあ。なあ、俺にお前の技を教えてくれよ。あ、覆面着けてたら失礼だよな」


覆面を外すと、トマシュと同い年位の、まだあどけない少年の顔が現れた。

少年の目は紅く爬虫類の様な瞳をしており、頭には5センチ程の長さの鹿に似た角が2本生えていた。


(竜人か、初めて見た)

竜人は遥か東。ゴブリンやオークの国を越えた先に住んでおり。魔王ズメヤを頂点にした国に住んでいた。


「ふうーっ」

(と言うか、角が邪魔になんないのかな?)

トマシュが聞いていた話だと、竜人は成長と共に角も伸び、成人になると15センチ程になると聞いていた。


「でさ、技の件なんだけど………」




「イシス様、宜しいですか?」

イシスは縫い終わった服を見て、満足げにしているとフランツに話し掛けられたが、琥珀浄瓶に吸い込まれないように返事をしなかった。


「彼等の話だと、転移門へ向かうにはこの先に在る神殿の本殿から入る必要が有るようだと」

イシスが忍び込む前から遺跡に忍び込んでいた忍者達からの情報だったが。

「………確か?」


イシスが怪訝な顔をしたので忍者の1人が見たことを説明し始めた。

「この先の本殿に人馬の学者が入っていきました。直前に士官の人狼と転移門の事で話していたので間違いないかと」


忍者の言った事を疑うつもりは無いが、イシスは気になることがあった。

「フランツさん、ショーンさん達。戦いが得意な人を琥珀浄瓶から出してください」


「え?しかし、こっから本殿まで距離が有りますよ。後、ロキ様が2回気を失ってまだ目が覚めてないです」

フランツの言うことに耳を傾けつつ、服を着たイシスは地面を見つめていた。


「アレは放って置いて良いよ」

「えぇ………」


取り敢えずショーン達を出す事にしたが。

「あ………。イシス様、琥珀浄瓶の中なのですが、モニターが映らなくなって音が出ないので此方の様子が判りません」


イシスは琥珀浄瓶を雑嚢から取り出した。

「フランツさん」

「はい」


…………

………


「あれ?」

フランツが吸い込まれなかった。

「あ、中にちゃんと居るね」

“故障かな?”と思い、蓋を開けると中には先程と変わらず安全バー付きの座席とアガタ達の姿が見えた。


「ショーンさん」

「なんだい?」

呼び掛けるとショーンが上を向いたので、一応は会話が出来る状態だと判った。

「デイブさんと出てください。今から転移門の所に行きます」

そう言うとイシスは蓋を閉じ、琥珀浄瓶を雑嚢にしまうと、地面に手を触れた。


「あ、君君。覆面を被って。今から殴り込むよ」

「あ、はい!」


少年忍者が覆面を着けたのを確認すると、イシスは右手に魔力を込め、地面を大きく揺らした。

「ちょっと、イシス!?」

「何を!?」

哎呀(アイヤッ)!」


揺れは強くなり、全員が浮遊感を覚えた。

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