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灰色の正義と紫水晶の盃  作者: 紫藤龍弥
第一章 灰色の正義と紫水晶の盃
1/1

プロローグ 闇夜の逃走

挿絵(By みてみん)


 深夜、鬱蒼と生い茂る深い森の中を一筋の金色の光が切り裂く。


 その光の正体はグリフォンだった。


 鷲の上半身に獅子の下半身を持つその幻獣は、木々からわずかに漏れ出た月光を浴び、壮麗な翼を存分に輝かせながら風を切る。


 だがそんな美しく気高いグリフォンの背では、なんとも醜い会話が繰り広げられていた。


 「くそったれ! どうなっている!? やつらは一体何者だ!」


 そう言葉を発したのは、いかにも金がかかっていそうな衣装に身を包んだ禿頭の男だ。


 グリフォンから振り落とされまいと、必死に前の男にしがみつく。


 「そんなこと俺が知るはずないじゃないですか!」


 ぶっきらぼうに返したこちらはまだ若い青年。


 グリフォンの手綱を掴み、恐怖に顔を引き攣らせている。


 この状況が雄弁に物語っているように、彼らは現在逃亡している最中だった。


 誰に、何故、追われているのか。


 その理由を探るには少し状況を整理する必要がある。


 第一に、この森はローザ帝国内にある禿頭の男の領地だ。


 禿頭の男――――ダライアス=マクナイトは自らの領地の一部であるこの場所に子供たちを探しにきている。


 というのも、最近この森の周辺に住んでいる町の子供たちが行方不明になるという事件が頻発しているからだ。


 今まで何件も子供たちが森へふらりと消えていくのが目撃されている。


 もちろん、今のマクナイト卿のように森の中での子供の捜索は何度も行われた。


 だがあまりに森が広大なためか、現在まで、親の元に子供が帰ってくることはなかった。


 だがそれでもマクナイト卿は子供たちの捜索を諦めることはなかった。


 子供を探す親たちの懇願に心を打たれたのか、はたまた領主としての義務感か。


 領民たちにも詳しいことは分からなかったが、ともかく今日もマクナイト卿は意気揚々と子供たちを探しに森に向かったのである。


 そして今日。


 マクナイト卿はとうとう子供たちを見つけた。


 それも四人も。


 その子供たちを連れて帰る途中で、いきなり何者かに襲われたのだ。


 逃げるのに必死で、子供たちもその場に置いてきてしまった。


 彼にとって、大事な子供たちを置き去りにするのは非常に不本意ではあったが、あまりに突然のことだったため、仕方なくこの従者の青年と共に逃げてきたのである。


 連れてきていた十数人の従者たちも、賊にやられてしまったのか、すでに姿を消していた。


 それにしても、本来空を自由に駆ける種であるグリフォンが何故このように窮屈な木々の間を縫うようにして駆けているのか。


 それには理由があった。


 先程襲われた際、信じられないことに賊はドラゴンに乗って襲ってきたのだ。


 この世の全ての種の頂点とも言われる幻獣の王、ドラゴン。


 全身を覆う金属質の鱗はいかなる魔法も跳ね返し、その強靭な筋肉はいかなる刃も通さない。


 頭部には王の証である二本の角。


 蝙蝠のような飛膜の翼を広げ、大空を自由に駆け回る。


 普通ならば絶対にお目にかかれない幻獣だ。


 実際、マクナイトたちも目にするのは初めてであった。


 当然グリフォンが敵う相手ではない。


 だからこそマクナイト卿たちは広い空ではなく、巨大な体躯を持つドラゴンが入れない森の中を逃走経路に選んだ。


 このまま暗闇の中を紛れて行けばきっと逃げられる。


 彼らはそう思っていた。


 だがあと十キロメートルほどで街に着くというところで、マクナイト卿達の目の前を強烈な光が覆い尽くす。


 そしてその直後、異常な熱気が彼らを包み込んだ。


 突然の光と熱に驚いたグリフォンが嘶き、地面に倒れこむ。


 その勢いでマクナイト卿と青年は強かに地面に投げ出された。


 転倒したグリフォンは青い光の粒子を発し始める。


 このグリフォンは召喚獣と言い、魔法によって創り出された幻獣のコピーであった。


 召喚獣は一定以上のダメージを受けたり、召喚士の体力や集中力が下がると、このように形を保てなくなり光の粒子となって消えるのだ。


 「今度はなんだってんだ一体!」


 消えてしまった自分の召喚獣に舌打ちをすると、青年はやっとの思いで体を起こす。


 すると、さっきは光で目が眩んで見えなかったものがだんだんと見えてきた。


 赤いドラゴン。


 彼が見たのはそれだけだった。


 彼の視界、その全てを独占するほど、そのドラゴンは巨大であった。


 ドラゴンはその巨大さ故、森の中には入ってこない。


 青年の希望に近い予測は脆くも崩れ去った。


 邪魔な木々を焼き払い、残ったものは踏み潰し、彼らの前に立ちはだかったのだ。


 ドラゴンにしてみれば、木など端からないも同然だった。


 だが青年がドラゴンに圧倒されている間、マクナイト卿は全く違うことに気を取られていた。


 ドラゴンの背に人が乗っていたのだ。


 それも青年よりもいくらか若く見える少年が。


 少年は二人をはっきりと視界に入れると、その端正な顔を歪めた。


 「見つけたぜ。ダライアス・マクナイト――――」













表紙は光栄にもイラストレーターのnecömi様に描いていただきました。







necömi様(Pixiv)

http://www.pixiv.net/member.php?id=420509

necömi様(Twitter)

https://twitter.com/necomi_info

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