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18話

「では葛城、お主はクラスメイトである井中のミスを自分がフォローしたい、と言いたいのじゃな?」


「はい。幸いそれを可能とする手段を持っているつもりです。折角ですので出来れば将来のために経験を積みたく思ってます」


 遊真の言葉に腕を組み、暫し思考に耽る倉科涼子。


 井中の仕出かしたバジリスク事件の発端と現状の説明を済ませ、担任の回答を待つのみとなった遊真は倉科涼子の険しい表情に息を飲む。


 許可が下りなければ、担任の身に最悪が降り注ぐ可能性が存在する。【ミズノアキラ】の生まれ変わりである倉科涼子が石と変えられてしまえば、人類は将来訪れるかもしれない災厄への最終防衛線を失うことになる。


 こうした倉科涼子に降り注ぐ事件、事故を未然に防ぐため入学した服部は勿論、遊真とて他人事と目を背けてはいられない。


 倉科涼子のその射抜くような双眸で矯めつ眇めつ眺められ、遊真は肝を散々に冷やさせられたが、


「いいじゃろう。お主らに任せる」


 彼女の吐き出した結論に全身の筋肉を弛緩させ、ほっと胸を撫で下ろす。


「但し、何かあればすぐ様中止して戻って来る。それが条件じゃ。良いか、無理だけは厳禁。しかと肝に銘じておくのじゃぞ」


「じゃあ、今から早速行って来ます」


 何かあれば儂が片付ける、そんなニュアンスを残しつつも担任の許しを得た遊真の足は颯爽と現場に向かおうとするのだが、遊真と行動を共にする意志を示した顔触れを見て、思わず一歩踏み出したところで踏み止まってしまう。


 流星と歳蔵、この二人は助力を願った経緯もあり、既に戦力として計算に入っている。昨日二人の争い時に見せた身体能力の高さは是非とも力になってもらいたい。


 問題はあとの一人。


 今から向かう先の危険を認識してないかのような表情を浮かべている人物。


「えっと……、一緒に来てくれる……、のかな?」


 一応念のためと、遊真が確認してしまうのも無理はない。


「ええ、私も一緒に行く」


 そう返事をしたのは、この期に及んで柔らかな笑みを維持する天宮鈴音だった。


「今から行く先に何がいるかわかってる?」


「ええ、知ってるわ」


「バジリスクなんだけど、危ないよ?」


「眼を見てはダメなんでしょう?」


「……本当に大丈夫?」


「ええ、大丈夫」


 虫も殺さぬような容姿はとてもじゃないが荒事とは無縁であり、どうも彼女の言葉の信頼性を損ねている。一抹の不安を覚えるのも仕方なく、流星もまた胡散臭いとでも言いたげな視線を彼女に浴びせており、遊真の感性が一般的であることを支持していた。


 そしてこの場にいるもう一人、ことの発端たる女生徒へと視線を向けるのだが、


「おおお、おら、ここここで待ってるっぺ」


 と両掌を前方に突き出し、身体を小刻みに振るわせながら、同行を拒否した。


 無責任、と罵りたい気持ちも無くはなかった。が、爬虫類嫌いと公言した彼女を無理強いして連れて行ったとしても、いざという時に騒ぎ、混乱でもされたら寧ろ迷惑。戦力にならない以前に足を引っ張る恐れがあるだけに、ここは彼女の意見を尊重しておくことにした。


「当事者が後始末に行かぬというのは感心せぬが、まあ仕方あるまい。その代わり葛城達が戻ってくるまで儂がたっぷりとお灸を据えてやろう。よいか井中、覚悟せい」


 並々ならぬ威圧感の、有無を言わせぬ倉科涼子の判決が下り、告げられた井中本人だけで無く遊真もまた背筋に冷ややかなものを感じて身震いするのだが、今回は自身が対象者でないことに安堵して額の汗を拭う。


 因果応報、涙目となった井中を尻目に遊真は、流星、歳蔵、そして頼り無げな天宮を率いて教室を後にした。


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