一応、何点か補足。
① あの晩、リーゼル城でクリスと私が愛し合った寝室はなんとセイルマス伯爵の部屋だったらしい。クリスは当然知っていたみたいね。でも大丈夫。彼は愛人のひとりである某貴婦人の部屋に泊めてもらったそうだから。
② クリスの手紙にはどんなことが書かれていたのかって? あの晩あの手紙を読んでいたら、私は寝間着姿のまま近衛隊騎士の部屋がある西の翼棟まで駆けつけて、彼に抱きついてキスを浴びせていたでしょうね、とだけ申し上げておくわ。それ以上は私だけの秘密よ。
③ クリスと共謀してまんまと私をはめてくれたメリッサに、何やら恋の予感が到来! お相手はリーゼル城で知り合った殿方かしら? あの子、なかなか口を割ってくれないのよね。あなた、誰だか知ってる?
④ 例の婚約の申し込みの件だけど、クリスは私の両親に全てを打ち明けて謝罪した。ところが、両親はそのことを最初からお見通しだったらしい。お父様曰く「署名がケアリー子爵の筆跡そのままだったからな」ですって。私の婚約者探しに難儀していた両親としては、娘がダンレイン伯爵家に嫁いでくれるなら万々歳、渡りに船だったらしい。お父様もお母様もちゃっかりしてるわ。
⑤ 来月、クリスと私は急遽彼の故郷のダンレイン城で結婚式を挙げることになった。仲直りをした翌日、クリスったら私に「愛しいビアンカ、今すぐ僕と結婚してくれ。君と一日でも早く本物の夫婦になりたい」って、ひざまずいてあらためてプロポーズしてくれたの。生涯、私に愛と忠誠を誓う剣の儀式と一緒にね。これを断れる女なんていないわよね。
⑥ 目下、唯一の不満は毎日彼と抱き合えないこと。でもいいの。廷臣や騎士や宮廷女官たちの目を盗んで廊下の隅でクリスとキスをする。そのたびに「愛しているよ、僕のかわいい 蜜蜂さん」と彼がささやいてくれるから。そのときの笑顔があまりにも愛らしいから、私はいつも胸が高鳴って息苦しくてクラクラよ。こんな殿方が正真正銘、私の愛する婚約者。しかももうすぐ夫になる人だなんて夢みたい!
あら、あなた、具合が悪いの? まぁ、ひどい胸焼けなんてご愁傷様……
気にしないでくれ? まぁ、大丈夫ならいいのよ。
これでほんとに、おしまい。