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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
終章
50/50

歩き出す道

「護、お待たせ。お粗末すぎるとは思うが、クリスマスプレゼントだ。とりあえず、今はこれを着てろ。でないと風邪引くぞ」

 霧矢は自分の小さくなって着られなくなった服を護に投げ渡す。ユリアと雨野姉弟以外は、もう、店の方に移っており、乾杯の支度をしていた。

「霧矢さん。僕は……」

「とりあえず、先に着替えろ。話は後だ」

 護は一人、誰もいない部屋に移る。部屋には、霧矢と雨野姉、そして、もうすでに着替えたものの、相変わらずの生気のない目で体育座りをしているユリアが残された。

「会長。結局どうなったんですか?」

 雨野は黙ったまま首を横に振る。霧矢は横目でユリアを見るが、人形としか例えようがなかった。ピクリとも動かない。

 ボサボサだった髪は、晴代が整えたらしく、いくらかましにはなっていた。


「三条、私はここしばらく、あんたに借りを作りっぱなしだったわ。何か私にできることなら、協力するけど、何か、必要なこととか、頼みたいことでもある?」

 雨野の問いに対して、霧矢はしばらく考えていたが、口を開いた。


「あんた、本気なの? 私なんかより、もっといい人がいるはずでしょ」

「会長が最適です。僕の知っている人間の中で、会長より適した人はいないんです!」

 雨野は、しばらく腕組みして考えていた。霧矢にとって、これは必要なことなのだ。どんなことがあろうとも、霧矢は約束を果たさなければならない。

 そして、雨野光里という人物は霧矢にとって、非常に有用な存在だ。


「会長、お願いです。僕を鍛えてください。みんなのために、強くならなきゃだめなんです。弱ければ、僕はみんなを守るために、力砲を使って相手を殺さなきゃいけない。だから、相手を殺さないためにも、強くなりたいんです」

 今から思えば、風華が雨野に惹かれたのは、殺さずに相手を退ける力があったからかもしれない。相手を殺さずに倒す。雨野が得意中の得意とするものだ。

「………私と訓練なんてしたら、間違いなくケガするわよ。下手したら、骨も折れるかもしれない。そんな危険を冒さなくても、いくらでもいい先生はいると思う」

「僕にとって、会長より格闘や白兵戦で強い人に出会ったことはない。確かに、塩沢は別だけど、あれは殺し屋で、僕の師匠にはふさわしくない。だから、会長にお願いしています」

 雨野は霧矢を、変わり者を見るような目で見つめていた。確かに、今までの霧矢だったら、雨野の戦闘訓練を受けるなど、絶対にお断りだっただろう。しかし、今はこれが最善のように思える。

「……そこまで言うなら、いいわ。稽古つけてあげる。でも、ケガしてから文句は言わないようにね。かなり身に応えるわよ」

「ありがとうございます」

 雨野はため息をつくと、かすかに笑いを浮かべる。

「へなへなしていたのが、いつの間にか、しっかりとした芯を持つようになったじゃない」

「そんなもんですかね。自分のことは逆に身近すぎてわからなかったりします」


 霧矢は話題を打ち切ると、体育座りをしているユリアに視線を向け、ヒソヒソ声で話す。

「……ユリアはどうするんですか?」

「うちで引き取ることにしたわ。どうせ、親も戻ってこないし。このまま、また野に放すわけにもいかないしね」

「……さっきから、何か一言でもしゃべりました?」

 雨野は黙ったまま首を横に振る。話せないのか話さないのかはさておき、かなり、心に深い傷を負っていることは確かだ。

「塩沢から聞いたけど、今回の首謀者って、彼女の父親だったらしいわね。どこもかしこも、親ってやつは、ろくでもないものがいるものね」

 霧矢は黙っていた。雨野の家庭事情は詳しくは知らないが、彼女が両親に良い感情を抱いていないことは容易にわかる。

(……僕の家族は幸せだけど、そうでもない人もいる。こんな身近にも)


「着替えた。それじゃ、下に行こうか」

 霧矢の古着を着た護が部屋に入ってくる。護はユリアを助け起こすと、部屋を出る。


 店の方へ行くと、もう完全に他のメンバーは席に座っていた。

「ほらほら、みんな席についてよ!」

 晴代に急かされる形で、四人は座る。

「まあ、問題は全部解決したわけじゃないけど、護君の退院と、聖夜を祝して……」


「メリークリスマス!」


 クラッカーが弾け、それぞれ、料理に手を付け始める。その中、霧矢の視線は、護とユリアにあった。

 護はユリアに料理を取り、ユリアは無言で料理を口に運んでいる。

「霧君、やっぱり気になるの?」

 みな料理と飲み物に夢中になっている中で、霧矢が嫌に冷めているので、霜華は声をかけた。

「……僕は、強くなる。お前を、あんな風にさせないためにも」

 霧矢の言葉に、霜華は動きを止める。霜華は何とも言えない表情で霧矢を見た。

「強くなる……か。それはいい方向に行くのかな」

「霜華?」

 意味深な言葉を残し、霜華は晴代のところに動く。霧矢はまばたきするが、後ろから首をつかまれるのを感じた。

「お~い、三条、楽しんでるか?」

「西村、お前さ、人に絡むのはやめろ。今は騒がずにゆっくりと楽しみたいんだよ」

「ちぇ~。ノリの悪いやつだな」

 西村が歩き去ってしまうと、霧矢は塩沢と目が合った。そのまま、塩沢は霧矢の方に歩いてくる。相変わらずの無表情で、真意はうかがえない。


「ちょっと、いいか」

 塩沢はそのまま、霧矢を外へ連れ出す。今度はコートを着ていたので、寒さに対しては平気だった。

 店の軒先に立ちながら、塩沢は白い息を吐く。

「先ほどの、君と光里君の話を聞いてしまった。盗み聞きするつもりはなかったが、偶然聞こえてしまった」

 霧矢は面食らう。しかし、塩沢は霧矢に対して、いつもの無表情ではなく微笑を向けた。

「君は誰も殺さないために、強くなりたいと言ったな。そうすれば、殺さずに敵を倒せると」

 霧矢はうなずく。塩沢に文句を言われるのはもう慣れている。

「君の覚悟はもう見せてもらった。もう俺は何も言わん。ただ、その信念は、君自身が主体的に考え、結論として導き出したものだ。その覚悟は大切にしろ」

 塩沢は霧矢の目をまっすぐ見る。見下すような視線ではなく、信頼する視線だった。

「救世の理は、人の心をつかむことに長けている。まず、人の主体性を失わせることからそれは始まる。君はやつらと戦うなら、自分の芯をきちんと持て。そして、君の決意はその芯をさらに頑丈にできる。大切にするといい」

 塩沢は、そのまま店に戻る。しかし、霧矢は戻らずに、雪の降り積もる深夜の田舎温泉商店街を眺めていた。

(……自分の芯……か)


「僕は、誰も殺さない。あんたとは違うから」


 雪の降りしきる中、一人だけで決めたことだった。まわりの状況に流されたのではない。まわりの状況を判断して、自分が最終的に決定したことで、主体性は自分にある。


 人よりもはるかに優れた魔力を持つ少年は、そう心に決めて、彼の道を歩き出す。

 三月三日、雛祭りというちょうどいい日に、全五十部というこれまた区切りのよい数で終わりました。今回は続編ということで、霧矢と霜華に加え、雨野姉弟と殺し屋塩沢雅史にスポットをあてて書きました。

 もともと、塩沢は、私が昔考えていて没ネタになった小説の主人公でしたが、いい感じに物語に登場させることができたと思います。

 下手で読みづらい小説だったとは思いますが、感想等があれば、遠慮なくお書きくださるとありがたいです。

 まだまだ、Absolute Zeroシリーズは続く予定です。(私がくたばらなければですが)霧矢の冒険に少しでも興味を抱いている方がいらっしゃれば、第三作となる続編も読んでいただけると幸いです。次回作は若干コメディ色を入れようかなどと考えています。二作ともややシリアス目な感触がしたので、ここらで少しパターンを変えてみようかと思ったり。

 それでは、読んでいただくつもりがあれば、次回作でお会いしましょう。

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