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「おばあさま! 今日もお話聞かせて!」
明るい声だった。空から降り注ぐお日様みたいに輝いているその声は、たぶん少年のもの。
彼の足元で、マーリアが揺れる。
「おや、今日も来たのかい」
「お話! ねぇ、お話聞かせて!」
「元気だねぇ。花を踏まないように気を付けるんだよ」
「踏んでないもん! ほら、ちゃんと横にいるよ!」
ゆらりと風に揺れて、大地に芽吹く命たちがその声を聞いてる。彼の瞳にも、同じものが映ってるだろうか?
「そうかい。困ったことに私の目は、なにも見えてないからねぇ。嘘だったら悲しいねぇ」
「嘘じゃないもん!!」
バサバサっと、鳥が逃げる音がする。
少年が慌てて手を動かしても、羽ばたいた彼らは戻らない。
「鳥さんが逃げてしまったねぇ」
「うっ……」
「ちょっと早いが、空を飛ぶ時間だったからねぇ。このまま餌を探しに行くさ。それじゃあ、今日の話をしようか」
優しい声に導かれて、顔を上げる。だけど、なにも見えてないような気がした。
おばあさま今、どんな顔をしてるんだろ。少年の形も、曖昧だ。
まるで夢みたいに、遠くなっていく。
「今日は、そうだねぇ。王の話にしようか。灰、もしくは黒の少女。光、もしくは白の少女。彼女たちの片方が目覚めた時……」
お願い。まだ、消えないで。
「この村は、一番最初に滅びるだろう」
肩を揺らされてる。おいっ、て。誰かが言ってるのを聞いて、目を開けた。
「起きろって言ってるだろ」
ぼくの肩にある手は、黒かった。手袋を付けてるみたい。なんだか怒ってるような雰囲気だったから、視線を上げたら。
ぼくの顔が、すぐそこにあった。
……なんでそう思ったんだろ。自分の顔なんて、知らないのに。
ぼくを見下ろしてる人が、黙る。
自分の中が空っぽで、なにも分からなかったぼくも、言葉を出せなかった。
「お前……」
白っぽい灰色の髪。瞳は蜂蜜色で、きらきらしていた。
彼のことを、じっと見ていたら。
なにも助けられなかったような気持ちが、あふれてきた。涙が流れて、痛みを感じる心がはっきりと伝わって。自分が生きてることを、今になって自覚した。
「……魔力が、変化してる。過去から来たわけじゃないってこと、だよな」
涙を拭おうとしたぼくの両手を、青年が握った。
「そんな手で擦るな。泥が入っちまうぞ」
「で、でも……」
体の奥で、なにかが強く動いてる。心臓、だったっけ? 音を打つそれも、ぼくを苦しめてきた。
「お前、来世の俺だろ。覚えてるのか? 村のことを」
「らいせ?」
それは、なんのことだろ。
思い出そうとしても、白色しかない。あざやかなものがなにもない記憶の倉庫。そこから逃げるように首を振る。
「落ち着け。ここにはあの少女はいない。お前を襲ったやつも、いないはずだ。お前、名前は?」
「わかんない。なんで、悲しいのも。きおくが、ない!」
ぼくは誰だ。ぼくは誰なんだ。
「記憶がない、ね。なら、今からお前はマヒルだ」
……マヒル?
お日様の光が差し込んでる森の中で、じっとぼくを見てた青年が、固かった表情を崩して、笑みを浮かべた。
「俺はマヨイ。今からお前の兄ちゃんだ!」
握られてた手が、あたたかい。まだ、冷たくないってことが。不思議とぼくの心を落ち着かせてくれた。




