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出勤しようと家を出たら目の前に白いドラゴンがいた。ちょっと自分でもなにを言っているのか分からない。
「おぬし、随分弱そうだな。その装備でここまで来たのか? 人は見かけによらぬものだな」
ドラゴンが喋った! ドラゴンって喋るんだ! 男の人の声だ。声帯どうなってるの?!
「いや、気付いたらここにいたんです。さっきまで家にいましたから。ここはどこですか」
そう言うとドラゴンは私をまじまじと見てクンクンと匂いを嗅いだ。おお、目の色は美しいヴァイオレット。鱗もよく見れば紫の光沢を放っている。神秘的。爬虫類は苦手だけどこのドラゴンには美しいという印象が強い。
「ふむ、異なる世界より迷い込んだか。ならばここに住むがいい。おぬしの力では上層へは上がれんだろう」
「上層?」
「ああ、ここは迷宮最深部だ」
「あの、迷宮ってなんですか」
「魔物の住処と思っておけばよい。私はそうだな、この迷宮の主だ。名はヴァルクネア・ミア・ラパス・ガイア・ホワイトという。人の子よ。おぬしの名は?」
「如月梅乃です。梅乃と呼んでください。あの、あなたのことはなんて呼べばいいんですか」
「ヴァルクネアでよい」
「分かりました、ヴァルクネアさん」
そう言うとヴァルクネアさんは私にふわふわの毛皮をくれた。寝床にするといいとのことだ。優しい。
それから迷宮に住む日々が始まった。着替えはヴァルクネアさんがなぜか持っていた服を借りている。キラキラしたシルクのドレスばかりなのは気になるがドラゴンだから光る物が好きなんだろうなと思って深く考えなかった。食事はヴァルクネアさんが恵んでくれる謎のフルーツと魔物肉。なんと私は魔法が使えたのである。火の魔法でしっかり焼いて食べている。異世界に来たらやってみたいことナンバーワン、ステータスオープンもできた。スキルはアイテムボックス。スキルレベルは当然一なのでヴァルクネアさんにもらったものを出し入れしてスキルレベルを上げている。
ちなみに食事の度に私のレベルが上がっているので魔物肉にはレベルを上げる効果があるらしい。
私の今の仕事はヴァルクネアさんの話し相手。人間は食べないと言っていたので本当に運がよかった。ヴァルクネアさんは暇なんだそうだ。以前のヴァルクネアさんは時々番への貢ぎ物を探しに出かけていたらしいのだが今は狩りくらいでしか出かけないとか。三百年も現れないので番のことは諦めたそうだ。
「……ウメノ。私の後ろに」
ヴァルクネアさんの雰囲気がいつもと違ったので大急ぎでヴァルクネアさんの後ろに隠れた。
「人の子よ! よくぞここまで参った。貴殿らの力を見込んで頼み事をしたい」
「ドラゴンが喋った、だと?」
「リーダー、どうする?」
「ホワイトドラゴンよ、話を聞こう」
「この娘は哀れにも異界より迷い込んだ。どうか迷宮の外へと連れ出してやってくれぬか? 謝礼は十分用意しよう」
そう言ってヴァルクネアさんは幾つもの宝石をその手に乗せて彼らに向かって差し出した。
「いいだろう! お前を倒した後でな!」
そう言って三人は戦闘態勢に入った。火の魔法がヴァルクネアさんを襲う。ヴァルクネアさんは避けなかった。避けたら私に当たるからだと思い至って申し訳ない気持ちになった。ヴァルクネアさんが大きく口を開けてそこから光線が出て、後にはなにも残らなかった。
「すまぬな、ウメノ」
「いえ、ヴァルクネアさんの命も大切ですし」
あれは正当防衛だと私は思った。
「私が恐ろしいか?」
「いいえ、ヴァルクネアさんはいつも理性的で優しいですから」
そう言うとヴァルクネアさんは目を閉じて頭を私のお腹に擦り付けた。ぎゅっとその頭を抱きしめる。お世話になっているドラゴンと見ず知らずの他人ならお世話になっているドラゴンを私は取る。それだけのことだ。
幸いなことにヴァルクネアさんの鱗には傷一つなかった。
「ヴァルクネアさん、さっきの人たちは何者ですか?」
「冒険者だ。魔物を屠り糧と名誉とする者たちだ」
あれが、異世界ものでよく聞く冒険者。強欲で自信過剰な男たち。あまりいい印象は抱かなかった。
迷宮がラビリンスなのは分かっていますが迷宮と書いてダンジョンと読んでください。




