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悪魔の住む森  作者: 織風 羊
21/21

21 日の当たる場所

よろしくお願いします。



 私は今、此処に居る。

今思っても、脱出、あの時のドライブは最高だった。

兄の運転する二輪の後部座席、私の人生の中で、これ以上のスリルは無かった。

そして、兄の運転する車の助手席。

真っ直ぐに伸びている道。

魂の解放へ向かうように思えたあの道。

自由がどれだけ素晴らしいものなのか。

それは自由を奪われた者にしか分からない。


 検問もあったが無事にすり抜けた。

たかが知的障害者の脱走だ。

警察も忙しいらしい、規則だから検問をしました、という所だろうか。


 今も思い出すと笑いが込み上げてくる。

あの時の脱出劇で、車中で兄が話してくれたこと。


 それは、ある夜に夢を見たらしいそれは、私が囚われの身になって、もうすぐ自殺をしてしまう夢だったそうだ。

不思議と本当にそうなるような気がしたので、兄は実家に戻り、両親(両親と呼べるような存在であれば)に施設の場所を聞き出し、私を連れ去りに来たそうだ。

そして、兄は不思議そうに言った。

今もあの時の話をする時は、決まって不思議だったと言う。

1匹の兎が広っぱから出てきて、兄の前まで来ると後ろ足で立ち両手を合わせて、早く助けに行って、と言ったそうだ。


「マジだぜ、兎が言葉を喋ったんだぜ」


 この脱走劇の昔話の終わりは、いつも兄のこの言葉で締め括られる。


 今、私は昼休みで、工場から外へ出て、透き通るような青い空を見ている。

兎のムー、あの鉄の門を潜った時に、私の最高の心の友人は門の中に入らずに、一直線に兄を探しにいってくれたんだと、誰がなんと言おうと私は信じている。

お前は中年と呼ばれるような年齢になっても、いつまで馬鹿なことを言ってるのか、と笑う奴は笑わせておけばいい。

兄なら分かってくれるだろうか? まだ話しちゃいない。

兄の、喋る兎の話だけで充分じゃないか。


 そして、工場裏の芝生に座り思う。

人は規則を含めて、何かに従わなければならないこともあるだろう。

然し、あの時の経験が私に語りかける。

最後に残されるのは生か死か、それだけしかない。

規則なんていうもので、人の人生は左右されてはいけない。

そして最後の時と思えるような事態であっても、最後に残された決断、それだけは自分で選べる。

生きるか死ぬか、と言うことだ。

幸いなことに、いや、それ以上の言葉。

奇跡、そして絆。

私は、大好きな兄と兎のムーのおかげで、生を選び今を生きている。


 今働いている工場にも規則はあるが、どれもこれも大したもんじゃない。

火の用心とか、そう言う類だ。

それよりも私は、心の自由は誰にも奪われずに、この大地の上で生きている。

それだけで充分じゃないか。


 そろそろ工場へ戻ろう。

兄が待っている。

兎のムーは、何処へ行っちまったのか今は居ない。

その代わりに、私の心の最高の友人は、私に喋る為の言葉を置いて行ってくれた。

私は、ムーが居なくなってから、思った言葉を心にしまうのではなく、言葉として喋れるようになった。


 本当なんだ。

嘘だと思うなら、近くに来た時は遊びに来てくれてもいい。


 それじゃ、昼休みが終わる前に工場へ戻る事にする。最後まで私の話を聞いてくれて感謝している。


 「ありがとう」

最後まで読んでくださり感謝しております。

ありがとうございました。

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